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2017.09.20
眼球の壁はいくつもの層で形成されており、大きく分けると外膜(角膜、強膜)中膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)内膜(網膜)から成っています(図1参照)。一番内層の網膜は目に入った光の信号を視神経に伝える役目があり、眼球の内壁に張り付いているような形で存在しています。眼球壁の内側にぴったり張り付いていないと、光の信号を視神経に伝えることができず、また、十分な栄養や酸素が得られなくなり、機能を失ってしまいます。その網膜が浮き上がってしまう病気が網膜剥離です。
図1:眼球の構造
1 裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離
網膜にできる穴や裂け目(網膜裂孔)が原因で起こります。一般的には網膜剥離というと、この裂孔原性網膜剥離を指すことが多いです。網膜裂孔に液化した硝子体が入り込むことで、網膜が剥がれてしまいます(図2参照)。病状の進行が早く、早期に治療をしないと失明に至る場合があります。若年者は外傷や強い近視、アトピー性皮膚炎が、中高年者では硝子体剥離という加齢によって起こる現象が原因となって起きる場合があります。
図2:裂孔原性網膜剥離のイメージ
2 牽引性(けんいんせい)網膜剥離
眼内の増殖組織※などが原因となり、網膜が引き上げられる(牽引される)ことで網膜剥離が起こります。糖尿病網膜症が進行した場合などに起きることがあります。
3 滲出(しんしゅつ)性<漿液(しょうえき)性>網膜剥離
網膜下に滲出液が貯留することで網膜が浮き上がる状態で、原因は炎症や循環障害などがあります。
※増殖組織:眼内の炎症や出血によってできる線維性の索状、膜状物
症状は視野の欠損から始まります。また、裂孔原性網膜剥離では飛蚊症(ゴミのようなものが浮いて見える)、光視症(目を閉じても視野の端のほうに光が見える)が前兆となる場合があり、そのような症状が急に出現したときは、網膜剥離が起こっていないかどうか、精密検査が必要です。検査では瞳孔を薬で開いて(散瞳といいます)、詳しく眼底検査を行ないます。出血を伴っていて眼内の詳細が不明な場合には、超音波による画像診断(エコー)を行ないます。
飛蚊症や光視症は、網膜剥離等の疾患がなければ治療が不要なものがほとんどですが、視野欠損は重篤な眼疾患の症状の可能性が高いため、できるだけ早く医療機関を受診することが必要です。網膜中央(黄斑)まで進行すると、視界が歪んで見えたり、視力低下を起こします。黄斑に及んで時間が経ってしまうと、治療して治ったとしても視力が回復しない場合があるため、早期に治療を受けることが大切です。
裂孔原性網膜剥離と牽引性網膜剥離の治療には手術が必要です。滲出性網膜剥離では、原因として炎症が多いため、薬物治療が主体となります。
網膜に裂け目や孔(あな)があるだけで、網膜剥離を伴っていない場合には、観血的※手術ではなくレーザーによる網膜の凝固(網膜光凝固)で進行するのを防ぐことができる場合があります。しかし、網膜剥離に進行した場合には手術が必要です。
※観血的:出血を伴う外科的処置のこと
裂孔原性網膜剥離の手術の方法は、大きく分けて2通りあります。1つ目は、眼球内には器具を入れず、外側から眼球を圧迫し、変形させて治す強膜内陥術(図3参照)で、2つ目は、眼内に細い手術器具を挿入して行なう硝子体切除術(図4参照)です。手術でどちらを行なうかは、年齢、原因裂孔の大きさ、数やその位置、黄斑剥離の有無などを考慮して選択します。また両方の術式を同時に行なうこともあります。
いずれの術式でも手術で眼内に空気(ガス)を入れた場合は、空気の浮力で剥離していた網膜を眼底に押さえつけた状態に維持することで網膜を戻すため、術後はうつ伏せの体位をとる必要があります。特に硝子体切除術は、手術中、眼球の形を保つために入れた灌流(かんりゅう)液を空気に入れ替えて手術を終えるため、術後、うつぶせの体位をとることは必須です。空気で網膜剥離の治療が難しい場合には、シリコンオイルという透明な油を眼内に注入することもあります。
図3:強膜内陥術
図4:硝子体切除術
牽引性網膜剥離は、眼内に網膜を牽引している増殖組織等があるため、通常は器具を入れる硝子体手術が選択されます。
滲出性網膜剥離では、炎症を抑えるためにステロイドという薬物を全身投与、もしくは局所投与することがあります。また原因によっては、レーザー治療が行われる場合もあります。
裂孔原性網膜剥離や牽引性網膜剥離は、1回の手術で網膜が復位しない場合、2回目、3回目と手術を繰り返す必要があります。術前に黄斑剥離(視力低下)があるかどうかは、術後の視覚機能の予後に影響し、歪んで見える症状が残ったり、視力が回復しないことがあります。
網膜剥離はいったん治っても再発する可能性があります。術後、時間が経ってからの再発は、手術が初回よりも難しいことが多く、視機能が回復しない場合もあります。また、同じ人の場合、左右の目は構造や弱点が似るため、片目に網膜剥離を発症すると、もう片方の目にも網膜剥離が起きる確率が高くなり、飛蚊症、光視症等の症状が出現した場合には早期に検査が必要です。
解説:加畑 隆通
水戸済生会総合病院
眼科主任部長・副院長
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