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2024.03.19
肝性脳症は、肝機能が低下することで意識障害などが起こる病気です。肝臓には体内で作り出されたアンモニアなどの毒素を解毒・分解する役割があります。肝硬変、肝がん、アルコール・薬物性肝障害など、さまざまな理由で肝機能が低下すると、アンモニアがきちんと解毒されず、血液中のアンモニア濃度が上昇したり、体内のアミノ酸バランスが崩れたりします。これらの異常が脳に影響して肝性脳症になることがあります。肝性脳症になるかどうか、また、その重症度には個人差があります。
注意力低下や睡眠覚醒リズム逆転(ヒトの体内時計と1日の時間にずれがあるため生じるリズムの乱れ)などの軽い症状から、鳥の羽ばたきのように、手指に不規則な震えが生じる羽ばたき振戦といった神経症状がみられるようになり、重症になると、呼びかけや痛みなどの刺激にも反応しない昏睡状態に陥ることもあります。加えて、重度な肝機能低下によって黄疸や腹水、むくみ、出血しやすいといった症状も伴います。
診断は、羽ばたき振戦や意識障害、異常行動などの精神症状、血液中のアンモニア濃度などから総合的に行ないます。ナンバーコネクションテスト(数字を順番につなぐテスト)やストループテスト(色の名前を単語に惑わされず答えるテスト)のような精神神経機能検査をはじめ、脳波などの電気生理学的神経検査も効果的です。肝性脳症の重症度は犬山シンポジウムの「昏睡度分類」が利用されてきました。昏睡度は5段階に分けられます。
昏睡度 | 精神状態 |
昏睡度1 | 睡眠覚醒リズム逆転、多幸気分、抑うつ状態、だらしなく気にもとめない態度 |
昏睡度2 | 指南力障害、物を取り違える、異常行動、傾眠状態、羽ばたき振戦、無礼な言動 |
昏睡度3 | 興奮・せん妄状態を伴う反抗的態度、 外的刺激で開眼する嗜眠(しみん=ほとんど眠っている)状態、羽ばたき振戦 |
昏睡度4 | 昏睡状態 |
昏睡度5 | 痛み刺激にも全く反応しない深昏睡 |
出典:犬山シンポジウム(1981)の「昏睡度分類」より一部抜粋
また最近では、肝性脳症の症状がほとんどなくても精神神経機能検査で異常が認められる場合を「不顕性肝性脳症」あるいは「潜在性肝性脳症」と呼びます。
腸内のアンモニア産生と吸収をおさえ、血液中のアンモニア濃度を上昇させずに低下させることが重要です。そのため、アンモニアなどに対する薬物療法が中心となります。
便秘薬として使用されることのある「合成二糖類製剤」は、腸内でのアンモニア産生や吸収をおさえることができます。また「難吸収性抗菌薬」は、薬剤成分が体内でほとんど吸収されずに腸まで届き、腸内細菌によるアンモニア産生を抑制するはたらきがあります。肝不全用経腸栄養剤に分類される「分岐鎖アミノ酸製剤」は、アンモニアの解毒やタンパク質の合成作用を持ち、肝機能低下で崩れた体内のアミノ酸のバランスを整えるために使用します。
肝性脳症を発症すると、性格・行動の変化や意識障害などさまざまな症状が現れます。一方で、肝性脳症の症状がほとんどない不顕性肝性脳症は、認知症やうつ病と間違われやすく、労働効率の低下が見られたり、交通事故、転倒などを引き起こしたりする危険性もあるため、早期に発見して治療することが大切です。
そのためにも、周りの人たちが日常生活のちょっとした変化に気づいてあげることが重要です。疑わしい変化がみられた場合は、肝臓専門医に相談することをお勧めします。
処方された薬がある場合は、きちんと服用することが大原則です。その上で、日常生活において肝性脳症を予防するポイントがいくつかあります。
筋肉は糖代謝やアンモニアの解毒など、多方面で肝臓のはたらきを補っています。そのため、筋肉量が低下すると血液中のアンモニア濃度が上昇し、肝性脳症の危険性が高くなります。筋肉量の維持増強のためにはタンパク質の摂取が必要ですが、過剰摂取は血液中のアンモニア濃度を上昇させます。そのため、適量のタンパク質を取りながら、身体に過度な負担のかからない運動を行ない、筋力維持に努めてください。
毎日十分に便を出すことも大切です。野菜などの食物繊維を取るよう意識してください。さらに、脱水でも肝性脳症を起こすため、こまめな水分補給も心がけましょう。
解説:池田 房雄
岡山済生会総合病院
肝臓内科 診療部長
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