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2023.08.16
自己免疫性肝炎は、中年以降の女性に多くみられる慢性肝臓病です。原因ははっきりと分かっていませんが遺伝的な要因が考えられており、本来は外敵を攻撃するはずのリンパ球(白血球の一種)が肝細胞を間違って攻撃し、肝障害を起こします。発症すると、肝細胞で作られる酵素のASTとALTの値の上昇がみられます。
多くは発症してから緩やかに進み、慢性化すると肝硬変への進行や肝細胞がんを合併する場合があります。しかし、症状が急に現れる急性発症の場合もあります。
2018年の調査では全国の患者数は約3万人で近年増加傾向です。慢性甲状腺炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群など他の自己免疫疾患を合併することもあり、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を合併する場合を「オーバーラップ症候群」と呼びます。
軽症から中等症の場合は自覚症状がないことが多いですが、急性発症の場合や慢性であっても経過中に肝障害が急に悪化する場合には、だるさや食欲低下などの症状が出ることがあります。肝硬変へ病状が進行すると、むくみ、白眼や皮膚が黄色くなる黄疸、かゆみ、意識障害(肝性脳症)などの症状がみられます。
健康診断などで肝障害を指摘され、消化器・肝臓内科で精密検査の結果、自己免疫性肝炎と診断されるケースが多くあります。自己免疫性肝炎の診断では、まず肝障害の原因として頻度が高いウイルス性肝炎、脂肪肝、薬剤の服用によって起こる薬物性肝障害などを鑑別します。
自己免疫性肝炎では、血液検査でIgG(免疫グロブリンの一種)の値が高くなり、抗核抗体(自己抗体の総称)が陽性となる場合が多いです。しかし、急性発症の場合にはこれらが異常値を示さない場合もあります。そのため、肝生検(肝臓の組織の一部を取り出して検査すること)による病理学的検査が、自己免疫性肝炎の診断に役立ちます。
肝生検で得られた肝組織を顕微鏡で観察すると、肝細胞にリンパ球の一種である形質細胞が多く集まっている様子がみられます。オーバーラップ症候群では、血液検査で抗ミトコンドリアM2抗体が陽性で、かつ病理学的検査で胆管にリンパ球が多く集まっている様子が確認できます。
肝硬変や肝細胞がんの合併の診断には、腹部超音波検査やCTなどの画像検査を行ないます。肝硬変の場合は胃食道静脈瘤を合併することがあるため、口や鼻から内視鏡を挿入し、食道・胃・十二指腸を検査する上部消化管内視鏡検査を行ないます。
副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)の投与が第一選択です。重症度によって開始時の投与量は異なり、肝障害の改善がみられる場合には副腎皮質ステロイドの投与量を徐々に減らしていきます。ただ、肝障害が改善したとしても、中止すると肝障害が再燃する場合が多いため、少量の副腎皮質ステロイドを長く服用する必要があります。
なお、副腎皮質ステロイドで肝障害が改善しない、副作用のため服用できない、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を合併したオーバーラップ症候群である、などの場合には肝機能の改善を促すウルソデオキシコール酸を併用します。さらに、免疫抑制剤のアザチオプリンを併用することもあります。
健康診断などで肝障害を指摘された際に、自己免疫性肝炎の診断のきっかけになることがあるため、放置せずに消化器内科や肝臓内科を受診することが大切です。自己免疫性肝炎は、適切な診断や治療が行なわれないと、肝硬変、肝細胞がん、肝不全へと進行する可能性があるため注意が必要です。
自己免疫性肝炎は原因不明のため有効な予防法はありませんが、早期診断と治療によって一般の人と変わらない寿命をまっとうすることができます。自己免疫性肝炎の治療薬には、感染症を起こしやすくする、糖尿病を悪化させる、骨がもろくなるなどの副作用を起こしやすいものが含まれているため、その予防を行なうことも大切です。
また、肝硬変では肝細胞がんを合併しやすいため、定期的な腹部超音波検査などの画像検査で早期診断を行なうことも重要になります。なお、中等症以上または肝硬変に進行した自己免疫性肝炎は国の指定難病の一つですので、その対象となるかどうか、かかりつけ医に相談してみてください。
解説:岡野 淳一
境港総合病院
内科部長 兼 地域医療総合支援センター長
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