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2020.06.17
肝臓はお腹の右上にあり、大部分は右肋骨に覆われています。成人の肝臓の重さは約1,000gと、身体の中では最も大きな臓器です。
肝臓がん(肝がん)は、肝臓から発生する原発性肝がんと、ほかの臓器にできたがんが肝臓に移る転移性肝がんに分けられます。このうち最も多くみられるのは、転移性肝がんです。また、原発性肝がんには、肝細胞から発生する肝細胞がんと、胆管細胞ががん化する肝内胆管がんがあり、そのうち約95%を占めるのが肝細胞がんです。ここでは肝細胞がんについて解説します。
肝細胞がんの主な原因は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などによる慢性的な炎症(慢性肝炎)です。うち約90%はB型肝炎・C型肝炎ウイルスによります。ウイルス感染が長期にわたり、肝細胞の破壊と再生が繰り返されると、やがて肝臓が硬くなり、肝硬変になります。その過程で、がん細胞を増殖させる「がん遺伝子」や、本来は細胞のがん化をおさえる役割をもつ「がん抑制遺伝子」が影響を受けて、遺伝子の突然変異が積み重なり、肝細胞がんが発生します。
また、長期かつ大量の飲酒による肝細胞の障害でも、遺伝子異常が起こります。さらに、アルコール摂取がない場合でも、中性脂肪が蓄積する脂肪肝があると肝臓に炎症が起こり、がんが発生します。近年、肝炎ウイルス治療の進歩によって、ウイルス性肝炎が原因の肝細胞がんは減少傾向ですが、非アルコール性脂肪性肝疾患が原因の肝細胞がんは、増加傾向にあります。
肝細胞がんの治療法には、①外科切除、②肝移植、③ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法、④肝動脈化学塞栓療法(TACE)、⑤肝動注化学療法、⑥放射線治療、⑦薬物療法があります。病気の進行度と肝機能を評価して、最適の治療法を選択していきます。また、どの治療法を選ぶ場合でも、肝臓の機能を守る治療や栄養状態の改善などによって、全身状態を良好に保つことがとても大切です。
全国統計(2019年)では、肝細胞がんで手術を行なった場合の5年生存率は62.8%、10年生存率は40.3%と報告されています。肝細胞がんでは術後5年が経過しても、肝臓の慢性炎症や肝硬変の状況次第では、新たにがんが発生することがあり、注意が必要です。
肝細胞がんでは、がんが進行するまで大部分が無症状です。ウイルス感染の早期発見は重要で、そのためには定期的な健康診断を受けることが大切です。B型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染がある場合、またウイルス感染がなくても肝硬変と診断された場合には、3~6カ月間隔での定期的検査(血液検査・腹部超音波検査等)を受けることが勧められています。定期検査で異常を認めた場合には、造影剤を用いたCT、MRI、超音波検査を行なうことで、診断することができます。
このように、肝臓がんの早期発見には定期的に健康診断を受けて、血液検査や腹部超音波検査をすることがポイントになります。
肝細胞がんは、正常な肝臓から発生することは少なく、肝炎ウイルス、アルコール、脂肪肝により慢性炎症が起こっている細胞から発生することが多いと考えられています。したがって、ほかのがんに比べると、ある程度予防は可能です。
予防にはまず、肝炎ウイルスの感染予防と、ウイルス感染者に対するがんの発生予防があります。B型肝炎はワクチン接種によって感染予防が可能です。ただし、B型肝炎による肝細胞がんの発症は減少していません。B型肝炎由来の発がん予防には、ウイルスの増殖をおさえる核酸アナログ製剤での肝炎の治療が推奨されています。また、C型肝炎ウイルスを身体の中から排除する抗ウイルス療法は大変効果があり、発がんを抑制できる可能性があります。
がんは生活習慣病とも考えられます。がんになりにくい生活習慣を実践することが大切です。がん研究振興財団による「がんを防ぐための新12か条」が提言されています。
1.タバコは吸わない
2.他人のタバコの煙をできるだけ避ける
3.お酒はほどほどに
4.バランスのとれた食生活を
5.塩辛い食品は控えめに
6.野菜や果物は不足にならにように
7.適度に運動
8.適切な体重維持
9.ウイルスや細菌の感染予防と治療
10.定期的ながん検診を
11.身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
12.正しいがん情報でがんを知ることから
以上の生活習慣を心掛けることで、がんになりにくい身体となります。
解説:髙森 啓史
済生会熊本病院
外科部長
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