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2024.03.27
バッド・キアリ症候群は、肝臓の出口付近から心臓に戻る静脈につながる部分が閉塞することで、門脈(もんみゃく)内の圧力が高まる病気です。
その臓器自体の病変で引き起こされる「原発性」と別の病気が原因となって引き起こされる「続発性」があり、原発性の多くは原因不明ですが、血栓形成や血液凝固などの異常・血管形成異常・骨髄増殖性疾患などの関与があるとされています。病状の経過は、アジアに多い「慢性型」と欧米に多い「急性型」がありますが、発症時期については不明です。
心臓から出た血液は、動脈を通ってさまざまな臓器に運ばれ、静脈を経由して心臓に戻ります。一方、胃腸、膵臓(すいぞう)、脾臓など、おなかの臓器から出た血液は、肝臓に入ってから心臓に戻ります。肝臓に向かう血液が流れる血管は「門脈(もんみゃく)」と呼ばれ、肝臓で処理される栄養素や毒素を運んでいます。
「門脈→肝臓→心臓に戻る静脈」という血液の流れがなんらかの原因で滞りがちになり、門脈内の圧力が高まることを「門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)」といいます。滞る場所は、肝臓の手前・肝臓自体・肝臓の出口などさまざまですが、バッド・キアリ症候群では、肝臓の出口付近から心臓に戻る静脈につながる部分が主な原因となります。
私たちの日常でも、幹線道路が交通止めになると渋滞が発生し、側道から周辺の道路に迂回しようとする車が出てきます。「門脈圧亢進症」も同じです。門脈を通る血液が滞ることで血液は該当する場所を避けて流れ、迂回ルートとなる血管が拡張します。そうなると、肝臓で処理されるべき毒素も肝臓を通りにくくなり、迂回ルートを通って心臓に直接戻ろうとします。
その結果、消化管の静脈瘤・出血・粘膜浮腫、あるいは腹水・肝性脳症などの肝不全症状が発生します。さらに、滞る場所が心臓に戻る静脈に影響すると下半身からの血液も滞り、下半身の静脈拡張や浮腫が起こります。
一般的な貧血検査や肝機能検査に加え、腹部臓器の異常を画像で確認するための内視鏡検査・腹部超音波検査・腹部CT検査などが有用です。
さらに、これらの比較的簡便な検査の結果、バッド・キアリ症候群の可能性がある場合には、肝臓専門医による精密検査が行なわれます。精密検査では、針やカテーテルを利用して、門脈周囲の血管拡張の把握・血管内の圧力測定・肝臓の生検などを行ないます。
バッド・キアリ症候群の消化管の静脈瘤や肝不全症状に対しては、肝硬変と同じような治療を行ないます。肝臓の出口付近の血流の滞りに対しては、狭くなった部分をカテーテルやステントなどの医療器具や手術で拡張し、血流を回復させます。
日本では年間約410人前後の人がバッド・キアリ症候群で病院に通院あるいは入院していますが、近年は若干増加傾向にあります。しかし、この病気そのものが増えているのか、検査法の進歩によって診断がつく人が増えたのかは分かっていません。数多くある肝臓病の中では比較的まれな病気で、肝炎ウイルス検査のように、単独の検査で診断する方法はありません。
門脈やその周囲の血管、肝臓、それ以降の静脈などに血流異常や血管拡張が起こっていることがこの病気の本質なので、「画像診断」と呼ばれる検査が診断の糸口になります。中でも、腹部超音波検査は簡便で、患者さんの負担も比較的軽くてすみます。この検査では、該当する場所の血管内での「血栓」や「血流異常」を画像で見ることができるため、バッド・キアリ症候群の診断に有用であることが分かっています。超音波検査は、かかりつけ医や人間ドックなどでも受けることができる身近な検査です。日頃の検査結果で「肝機能異常」が出た場合は、積極的に超音波検査を受けてみることをお勧めします。
バッド・キアリ症候群はまれな病気ではありますが、肝臓周囲の血管に異常が見つかった場合には、肝臓専門医を紹介してもらい、すみやかに受診するようにしてください。
バッド・キアリ症候群には「原発性」と「続発性」があります。
原発性のバッド・キアリ症候群は生活習慣病などと違い、予防することは難しいと考えられます。しかし、血液疾患などで血流異常が早期に発見された場合には、その血液疾患の治療を行なうことで、結果的に予防につながる可能性があります。
続発性の原因には、肝がん・転移性肝腫瘍・うっ血性心疾患などがあります。これらの病気は、日頃の生活習慣病検診やがん検診を定期的に続けることで、早期発見につながります。早期診断から、その後の適切な治療を受けることで、元の病気の進行を食い止め、バッド・キアリ症候群の予防にもつながることが期待されます。
解説:塩田 哲也
済生会吉備病院
内科診療顧問
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