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2013.12.16
胃や腸などから出血して血を吐いたり、便に血が混じることを消化管出血といいます。原因により出血する部位、出血量、持続期間はさまざまです。
食道、胃、十二指腸からまとまった量の出血が短時間に起こると、血を吐くことがあります。色は、出血が胃に長時間とどまっているほど胃酸に消化されて黒色に、大量の出血で胃にとどまる時間が短いほど鮮やかな赤色に近くなります。原因は胃や十二指腸の潰瘍や、慢性肝臓病を患っている人の場合は、食道や胃の静脈瘤の破裂による出血などがあります。特に潰瘍は最も多く、これは胃の中にいる細菌・ヘリコバクターピロリ菌や、他の病気の治療のため、アスピリンをはじめとする消炎鎮痛剤、血液をさらさらにしたり固まりにくくする抗血栓薬などを使用していることが主な原因です。また、胃や十二指腸の出血でも、量が比較的少なく持続的である場合は血を吐くことはまれとなり、便に血が混じることが多くなります。このとき、色は消化の影響を受けた黒色となります。潰瘍の他に、がんをはじめとする腫瘍が原因となることもあります。
小腸と大腸から出血すると、便に血が混じります。色は出血の部位と量に応じて変化します。例えば、量が少なく持続的である場合は黒みがかった赤色~黒色、量が多い場合はより鮮やかな赤色に近くなります。また排泄までに時間がかかる小腸の出血はより黒色に、排泄まで時間が短い大腸の出血はより赤色に近くなります。大腸の中でも、肛門に近い部位からの出血であれば、便に血が混じることなく排泄されます。小腸からの出血はまれですが、潰瘍や腫瘍、血管異形成と呼ばれる粘膜血管のわずかな異常が原因としてよくみられます。また、近年は消炎鎮痛剤や抗血栓薬を原因とする小腸の潰瘍による出血が増加しています。大腸の出血は最もよくみられます。原因としては、大腸憩室(だいちょうけいしつ)という、加齢により形成される大腸壁の異常から、短期間にまとまった量の出血が起こることが最も多いです。さらに重大なものとして、ポリープやがんなど、腫瘍からの出血も少なくありません。腸炎による出血は強い腹痛を伴い、痔疾患による肛門出血は正常便に加えて、出血したばかりの新鮮血液が多量に排泄されるなど、特徴的な症状を有するものもあります。
出血の原因の多くは腹痛などの症状がなく、貧血によるふらつきや、出血により初めて病気に気づくことが珍しくありません。出血の原因となり得る消炎鎮痛薬や抗血栓薬を内服している人は、かかりつけの医師のもとで定期的に採血検査を受けたり、薬剤を調節してもらうよう相談するとよいでしょう。
また便に血が混じると、出血の部位、量、持続期間により便の色が変化します。水洗トイレが普及した現代ですが、普段から便の色をよく観察することがとても重要です。便に血が混じっても、量が少ないときは見た目にはわからないことがあります。大腸のポリープやがんは無症状であることが多く、出血をきたす前に発見して適切な治療を受けるには、便潜血検査の検診が大変有効です。便潜血検査は、市民検診などで広く普及しており、定期的かつ安価に受けることができます。
胃腸からの出血原因はさまざまで、一時的で経過観察が可能なものもあれば、持続的で治療を要するものもあります。しかし原因に関わらず、血を吐いたり便に血が混じることは人生の一大事に感じられるはずです。出血がどのような色で、どれぐらい続いているかを把握し、ためらわず医師に相談しましょう。そうすることで、適切な検査方法を受けられ、早期発見につなげることができます。
胃や十二指腸の潰瘍は、大部分がヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌)が胃に感染していることにより起こります。ピロリ菌は、井戸水などかつての生活用水を介して、高齢者のほとんどが感染していますが、症状はありません。人間ドックや胃カメラ検診を通じて、ピロリ菌に感染しているか調べることができることもあります。必要に応じてピロリ菌の除菌治療が推奨されますので、医師に相談しましょう。
他の病気の治療のため消炎鎮痛薬や抗血栓薬を内服している人は、全般に出血の危険が高くなります。特に複数の科を受診している人は、類似の作用を有する薬剤を二重に内服していたり、相互作用により薬剤の作用が増強してしまうことで出血を起こすこともあります。医師には、他の科でもらっている薬剤についてもすべて伝えて、定期的に内服薬の調節を相談することをおすすめします。
大腸憩室からの出血は、便通習慣が影響することがあります。食物繊維を十分に摂り、腸の運動が適切になるよう心がけるとよいでしょう。胃がんや大腸がんの予防は困難ですが、早期発見して治療を受けることが重要です。便潜血検査などの検診を有効に利用して、早期発見につなげましょう。
解説:吉村 大輔
福岡総合病院
消化器内科主任部長
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