社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2023.09.13

原発性胆汁性胆管炎(PBC)

primary biliary cholangitis

解説:中嶋 俊彰 (京都済生会病院 名誉院長)

原発性胆汁性胆管炎(PBC)はこんな病気

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、胆汁うっ滞(胆汁の流れが停滞した状態)を生じる慢性の肝臓病です。脂肪の消化・吸収を促進する胆汁は、肝細胞で作られ胆管内へ分泌され、胆のうに蓄えられます。胆管細胞の構造が破壊されると胆汁分泌が障害され、肝臓内に胆汁成分がたまって肝障害を引き起こします。
原因として自己免疫的機序(異物を排除する免疫系が自身の細胞や組織を攻撃してしまう現象)が考えられていますが、明らかではありません。病名に付いている「原発性」とは、原因が分からないという意味です。
中年以後の女性に多く、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすいのが特徴です。


長年の胆汁うっ滞によって肝細胞障害と線維化(線維成分が増えて肝臓が硬くなる)が進み、最後には肝硬変肝不全にまで進展します。
なお、以前は肝硬変の状態になって初めて診断されることが多かったため、「原発性胆汁性肝硬変」という病名でした。英語の略称は同じPBCですが、「C」は胆管炎を指す「cholangitis」ではなく肝硬変を意味する「cirrhosis」でした。肝硬変になる前に早期に診断できるようになったことから、2016年に現在の病名に変更されました。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の症状

PBCは、肝障害による自他覚症状(患者さん自身が分かる症状や医師が客観的に把握できる症状)がない「無症候性PBC(asymptomatic PBC:aPBC)」と、自他覚症状がある「症候性PBC(symptomatic PBC:sPBC)」に分類されます。肝障害による自他覚症状は、黄疸、皮膚掻痒感(かゆみ)、食道静脈瘤・胃静脈瘤、腹水、肝性脳症などです。

無症候性PBCは、明らかな自他覚症状がない限り予後は大変よいですが、それでも5年間で約20~30%が症候性PBCに移行するとされています。症候性PBCになって黄疸が出るようになると病気の進行を止めにくく予後不良で、5年生存率は血清ビリルビン値(T.Bil=黄疸の程度を示す値)が2.0mg/dlでは60%、8.0mg/dl以上では35%に低下するとの報告があります。

また、PBCでは門脈(胃腸などの血液を肝臓へ運ぶ太い静脈)域を中心に肝臓組織の破壊や線維化が進みます。そのため、他の肝臓病と比べて病気の早い時期から、食道静脈瘤や胃静脈瘤などの「門脈圧亢進症」が生じやすいのが特徴です。症候性PBCの死因のほとんどは、食道静脈瘤や胃静脈瘤からの出血と肝不全です。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検査・診断

典型的なPBCでは、胆汁うっ滞の症状である皮膚掻痒感を生じるため、診断の参考とします。
血液検査では胆道系酵素(ALP・γ-GTP)、抗ミトコンドリア抗体(AMA)、免疫グロブリンM(IgM)が高値を示します。

可能であれば肝生検をして、肝臓の組織所見から慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の像あるいは胆管消失が確認できれば診断が確定します。まれなケースとして、AMAが陰性のPBC、あるいはPBCと自己免疫性肝炎(AIH)との合併(PBC-AIHオーバーラップ症候群)が疑われる場合は、診断を確定させるためには肝生検が必須です。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療法

肝臓病治療薬として広く使用されているウルソデオキシコール酸が第1選択薬で、初期の段階から投与されます。通常は1日600mg、効果が不十分な場合は1日900mg投与します。
ウルソデオキシコール酸は胆汁酸成分の一種で胆汁分泌促進作用、免疫調整作用などがあります。患者さんに投与すると、明らかな胆道系酵素(特にγ-GTP)の低下がみられ、病気の進展が抑制されるなど特効的な有効性が認められています。ウルソデオキシコール酸の効果が現れない場合には、脂質異常症の治療薬であるベザフィブラートが併用されます。

無症候性PBCの患者さんの場合、妊娠は問題ないですが、妊娠初期にはウルソデオキシコール酸やベザフィブラートは投与しないことが望ましいとされています。
一方、症候性PBCの患者さんの場合、最も多い症状の皮膚掻痒感の治療には、抗ヒスタミン剤、陰イオン交換樹脂、ナルフラフィンなどが使われます。また、症候性PBCになって黄疸が明らか(血清総ビリルビン値が5.0mg/dl以上)になると、内科的な薬物治療が期待できず、肝移植の適応となります。PBC患者さんの肝移植の成績は比較的良好で、5年で約80%の生存率が得られています。

なお、PBCは原因不明で根本的な治療ができないことから、厚生労働省が症候性PBCを特定疾患に指定して、医療費助成を行なっています。

一般的な血液検査では、胆道系酵素と呼ばれるALPやγ-GTPの上昇がPBCの特徴です。さらに薬物性肝障害(肝内胆汁うっ滞症)のほか、超音波検査(腹部エコー)などで胆道系を閉塞する胆石、胆道腫瘍(閉塞性黄疸)といった病気でなければ、皮膚のかゆみなどの自覚症状がなくても早期にPBCを疑い、検査を進めます。

その後の詳しい血液検査によって自己抗体の一種である抗ミトコンドリア抗体(AMA)の陽性、免疫グロブリンのうちIgMの高値があればほぼ診断が確定します。AMAが陰性の場合には、さらに抗ミトコンドリア抗体M2分画(AMA-M2)が陽性であることを確認します。

AST(GOT)やALT(GPT)などのトランスアミナーゼ値は、初期のPBCではほぼ正常値になりますが、胆汁うっ滞が続いて肝細胞障害が進むと、血清ビリルビン値の上昇を伴ってトランスアミナーゼも高値を示すようになります。
そのほかに、早期発見のために鑑別すべきまれな病気として、原発性硬化性胆管炎(PSC)や、肝内胆管減少症などがあります。

一般的にPBCは、患者さんの遺伝的因子に加えて、細菌感染、ストレス、さまざまな有害物質などの環境因子が関与して発病すると考えられます。ただ、原因が特定されていないので、残念ながら有効な予防法はありません。

治療薬のウルソデオキシコール酸やベザフィブラートは病気の進行をある程度おさえることができるので、長年にわたって確実に服用し続けることが大切です。また、胆汁うっ滞によって胆汁分泌量が減ると脂溶性ビタミンであるビタミンDの吸収が悪くなるので、骨粗鬆症が進まないように骨粗鬆症治療薬の投与も考慮されます。なお、免疫力を高める作用があるサプリメントや漢方薬は、自己免疫反応を強めてPBCを悪化させる可能性があるので、避けたほうが無難です。

定期的に上部内視鏡検査を行なって、食道静脈瘤や胃静脈瘤から出血の危険性が高いと判断される場合は、予防的に内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL=内視鏡を使って静脈瘤をゴムで縛る治療法)や内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS=内視鏡で静脈瘤やその周囲に硬化剤を注入する治療法)などの処置を行ないます。
ウイルス性肝疾患に比べて頻度は少ないですが、肝硬変に近い肝臓の状態では肝がんが発生することがあります。肝機能が安定していても年に数回以上の血液検査、半年に一度の腹部エコーやCT検査をしながら経過観察をする必要があります。

解説:中嶋 俊彰

解説:中嶋 俊彰
京都済生会病院
名誉院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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