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2019.01.16
「慢性甲状腺炎」とも呼ばれ、バセドウ病と並ぶ甲状腺に対する自己免疫疾患の一つです。日本人の橋本策博士がドイツ留学中に報告したことにより、この名が付けられました。リンパ球が甲状腺を徐々に破壊し、慢性的な炎症が起こって甲状腺ホルモンの生成が低下します(甲状腺機能低下症という)。このとき、多くの場合血液中に抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(いずれも橋本病やバセドウ病の患者さんの血液中から多く検出される抗体)が検出されます。成人女性の約10人に1人、成人男性の約40人に1人にみられ、特に30〜40代の女性に発症することが多いとされています。
図:橋本病
甲状腺ホルモンの不足によって引き起こされる症状で、全身の倦怠感、寒がり、体重の増加、皮膚の乾燥、むくみ、活動性の低下、月経異常などがあります。しかし、橋本病の患者さんのうち甲状腺機能低下症に陥るのは4〜5人に1人で、症状が徐々に進行するため気づかず、血清コレステロールの高値や肝機能検査での異常、月経異常、不妊の検査で明らかになることもあります。また、甲状腺ホルモンは胎児の発育にも関与するため、妊娠前、妊娠中、授乳期には甲状腺の機能を良好にコントロールする必要があります。
甲状腺機能低下症を放置すると、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が多い状態が長期にわたって持続し、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、または心不全などの合併症が起こる場合があります。現在ではまれですが、中枢神経系の機能障害をきたす「粘液水腫性昏睡(ねんえきすいしゅせいこんすい)」という重篤な合併症に陥ることもあります。
橋本病の経過中に、無痛性甲状腺炎と呼ばれる、一時的に甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態に陥ることがあります。バセドウ病との区別が困難ですが、治療法が異なるため診断には慎重さが求められます。
基本的には治療の必要はありません。しかし、甲状腺機能低下症を発症している場合、甲状腺ホルモン薬の内服治療を行ない、甲状腺ホルモンを補充します。
全身の倦怠感、寒がり、体重の増加、皮膚の乾燥、むくみ、活動性の低下、月経異常などがみられますが、徐々に進行するため気づかないことも多いです。そのような症状があるときは、「歳のせいかな」と思い込まずに医療機関への相談をお勧めします。妊娠を計画するときには甲状腺の状態について医師と相談することが必要です。
残念ながら、橋本病に対しての予防策はありません。しかし、橋本病はヨウ素(ヨード)の含有量の多い食品を摂ると甲状腺ホルモンの生成が抑えられることがあるので、摂取量などに気をつけましょう。また、甲状腺ホルモン剤は同時に服用すると効果が弱まる薬剤がありますので、服用時に注意が必要です。
解説:荻原 貴之
群馬県済生会前橋病院
内分泌・糖尿病内科代表部長
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