済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2015.05.28
直腸がんとは、大腸の一部である直腸に発生した悪性腫瘍(しゅよう)のことをいいます。
大腸は成人で約1.5mの長さがあり、盲腸、結腸、直腸とに分かれています。
直腸は、肛門の直前にあるほぼまっすぐの器官で、さらに、直腸S状部、上部直腸、下部直腸に分類されます。長さとしては15~20cmほどです。結腸に比べるとやや太く、多くの便をためられるようになっています。特に、直腸の中でも、さらに太くなった直腸膨大部といわれる所は便の貯蔵庫の働きをしています。
大腸各部の名称
直腸は自律神経によって支配されていて、痛みを感じる神経はありません。そのため、直腸に何か異常があっても、出血などがあるだけで、全く痛みを感じません。何の痛みもなく出血することがあれば、これは肛門ではなく直腸を含めた大腸の異常と考えてほぼ間違いありません。「痔だろう」と自己判断せず、必ず大腸・肛門専門医の診察を受てください。
直腸がんを含む大腸がんは、増加傾向のあるがんの一つです。大腸がんの死亡数で表すと、半世紀で約10倍になりました。その増えてきた最大の要因は食生活の変化であり、特に、動物性脂肪の摂取量の増加が、大腸がんの増加をもたらしたと考えられていますが、決定的な原因はまだ見つかっていません。なかでも、直腸がんは日本人に多く、大腸がんのうち約40%を占めています。
直腸がんの症状で最も多いのは血便です。そのほか、排便に伴う症状が出やすいのが特徴で、便秘、便が細くなる、排便がなくてもたびたび便意を感じる(テネスムス)、腹痛などが主な症状です。しかし、かなりの進行がんになるまで、全く症状がない場合も少なくありません。
直腸がんの治療法は、他のがんと同じく、手術、抗癌剤による化学療法、放射線療法がありますが、基本は手術です。
直腸は結腸と違って骨盤内にあるため、男性では、直腸の前方に膀胱、前立腺、精のう、女性では、腟、子宮、卵巣、膀胱があり、これら骨盤内臓器の切除の問題があります。また、肛門機能として肛門括約筋を温存するか否かの問題もあり、手術後さまざまな機能障害をもたらす可能性があります。このため、直腸がんでは、がんの浸潤の程度と肛門括約筋との位置関係が手術方法を決定する上でとても重要です。肛門から指を入れ(直腸指診)、腫瘍(しゅよう)を触れなければ、ほとんどの場合永久的人工肛門にはなりません。しかし、病変の広がりや患者さんの全身状態により、一時的、または、永久的人工肛門をつくる場合もあります。
抗癌剤による化学療法は、結腸がんと同じ方法で行なわれ、日々進歩しており、以前よりかなり延命ができるようになりました。
放射線照射は、切除不可能なものを切除可能にするなど、ある程度の効果が認められてはいますが、生存率が向上したという報告はありません。
直腸がんを含め、大腸がんに関しては、早期発見すれば80%以上の確率で治ると考えられています。
下記5項目のうち、1つでも症状があり、それが、いつもまたは頻繁に認められるようであれば、大腸がんの危険性が高いので、必ず大腸の検査を受けるようにしましょう。
1 出血がある
2 便が細い
3 何度もトイレに行きたくなる
4 便秘・下痢を繰り返す
5 貧血・立ちくらみがする
ただ、自覚症状が現れてから検査を受け、がんが発見された場合は、がんが進行している可能性もあります。自覚症状がない状態で、便潜血検査(便の中に血液が混ざっていないかどうかを調べる検査)から大腸がんが発見された場合は、早期がんであることが多く、根治が期待できます。特に、40歳以上の人は、大腸がん検診をできれば毎年受けることをお勧めします。
がんの予防は、がんにならないよう日常生活に注意する1次予防と、定期的に検診を受けて早期発見・早期治療して完治させる2次予防があります。
直腸がん特有の1次予防はありませんが、大腸がんの1次予防の柱は「食生活の改善」と「運動」「節酒・禁煙」です。
食生活の改善
便が体内に長くとどまっていると、悪玉菌により便が腐敗し、発癌性物質が発生すると考えられています。
ただ、以前は大腸がんの予防法として”確実”とされていた野菜や、”可能性あり”とされていた果物の摂取ですが、最近発表された研究やレポートでは、予防的な関連が認められなかったり、可能性を示唆するという結果に変更され、”確実”な予防法とは言い難い状況です。
WHO(世界保健機関)は、2003年に、肥満を大腸がんの確実なリスク因子であると認定しました。わが国における大規模疫学研究でも、肥満は大腸がんのリスク因子であることが明らかになっています。
運動
国際的にも、運動は結腸がんのリスクを確実に下げると評価していますし、日本人においても、身体活動は大腸がんリスクをほぼ確実に下げるという結論になりました。ただ、部位別にみると、結腸がんリスクをほぼ確実に下げる一方、直腸がんリスクについては証拠が不十分という結果が出ています。
節酒・禁煙
男性では、アルコール摂取量が日本酒にして「1日平均1合以上、2合未満」の人は、飲酒しない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍、「1日平均2合以上」の人は、2.1倍でした。
また、男性でも女性でも、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍高いといわれています。タバコの煙には、多くの発がん性物質が多く含まれており、直接触れない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出され、これによって癌が発生しやすくなると考えられています。
以上から、過食を避け、肥満を防ぎ、アルコールや赤肉・加工肉の摂取を控え、禁煙するとともに運動することが”確実”な予防法だと思います。
解説:亀田 彰
広島病院
副院長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。