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2022.01.19
糖尿病ケトアシドーシスは糖尿病の急性合併症の一つで、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを自身で作ることのできない1型糖尿病の患者さんに主にみられます。インスリンの不足により生じたケトン体(脂肪の代謝の過程で発生する物質)が蓄積し、通常は弱アルカリ性で保たれている身体が酸性になってしまう「ケトアシドーシス」の状態を引き起こします。
1型糖尿病の発症時や、1型糖尿病の患者さんがなんらかの理由でインスリンの注射(またはインスリンポンプによる注入)を中断した場合に起こることが多いです。また最近では、1型糖尿病の患者さんでSGLT2阻害薬(尿中にブドウ糖を排出することで血糖値を下げる内服薬)を飲んでいる場合に、血糖値は高くないにもかかわらず体内でケトン体が作られケトアシドーシスを起こす「正常血糖ケトアシドーシス」という病態が報告されており、SGLT2阻害薬を服用している患者さんはそのことを念頭に置いておく必要があります。
2型糖尿病の患者さんでも、糖分を多く含む清涼飲料水を多飲すると「ペットボトル症候群」と呼ばれるケトアシドーシスを起こすことがあり注意が必要です。
糖尿病は「自覚症状に乏しい」「自分では気づきにくい」「長い期間放置していると合併症が怖い」といった比較的ゆったりとした経過をたどる印象があります。しかし、糖尿病ケトアシドーシスは緊急性が高く速やかに対応しなければ命に関わる危険があるため注意が必要です。
全身の倦怠感、口渇感、嘔吐・腹痛、意識障害(重篤な場合は昏睡)などの症状がみられます。ケトン体はフルーツのような香りがするため、吐いた息から甘い匂いがすることも特徴です。
糖尿病ケトアシドーシスに特徴的な症状が出ていることと、血液検査で体内にケトン体ができて身体が酸性になっていることを確認します。
不足したインスリンの補充を行ない、大量の点滴により脱水状態とアシドーシスを改善(酸性になった身体を弱アルカリ性にする)します。
旅先では普段と食事や運動の量など生活のリズムが大きく変わり、血糖コントロールが乱れがちです。普段から習慣的に血糖測定を行なっている人は外出時や旅行時にもそれを継続しましょう。
体調不良のときは普段よりも高血糖に気づきにくく血糖値も高くなりやすいため、こまめに血糖測定を行ない、インスリンの治療を中断しないようにしましょう。インスリンの単位数で迷うとき、体調不良が続くときには早めにかかりつけ医に相談することが大切です。
SGLT2阻害薬を服用している1型糖尿病の患者さんで、血糖値が高くないのに倦怠感や吐き気があるときは、まず自身が1型糖尿病でSGLT2阻害薬を飲んでおり、「正常血糖ケトアシドーシス」という病気が起こりうることを思い出してもらう必要があります。最近では自己血糖測定と同じ要領でケトン体を測ることのできる機器もあるので、可能であれば活用するようにしましょう。
・自己判断で治療を中止しない
・旅行などの際の準備や体調不良の際の対応について日頃から確認しておく
・インスリンポンプのトラブルに日頃から備えておく
・SGLT2阻害薬服用の場合は、極端な糖質制限や過度のアルコール摂取を避ける
糖尿病ケトアシドーシスを起こさないためには体調と血糖コントロールに気を配ることが必要ですが、現在インスリン注射やインスリンポンプによる治療を受けている人は、それを自分の判断で中断しないことが大切です。
旅行などで自宅から長期間離れる際には、必ず普段使用しているインスリン注射やインスリンポンプ、血糖測定器を携帯するようにしましょう。「旅行中くらいはインスリンを打たなくていいか」と安易に考えてインスリン治療を怠りケトアシドーシスになった例が多くあります。
日常生活の中では体調不良の日、いわゆる「シックデイ」の際にも注意が必要です。風邪などの体調不良で食事ができないときに、摂取しやすいジュースやゼリーなどを飲んだり食べたりして「普段ほど食事していないからインスリンは打たなくていいか」と考えてしまってケトアシドーシスを発症するケースが少なくありません。実は、発熱など身体にストレスがかかる状態のときは、むしろ通常よりもインスリンが効きにくく血糖値が上がりやすいのです。
インスリンポンプを使用している患者さんは、ポンプの閉塞・外れなどのトラブルにも注意が必要です。いつも通りインスリンを身体に入れているつもりでも、チューブが詰まっていてインスリンがうまく注入されていなかったり、旅先で不意にポンプの刺入部が外れてしまってインスリンを打てなかったりというケースがあります。
日頃からトラブル対策として予備のインスリン注射を携帯しておいたり、旅先に替えのポンプ用備品を持っていったりすることで、インスリン治療の中断を防ぐことができます。
正常血糖ケトアシドーシスは、SGLT2阻害薬を飲んでいる状態でインスリンの投与量が大きく減った場合や、アルコールを多飲した場合に起こる危険性が高まることが分かっています。
対処法は糖質と水分の摂取とインスリンの投与です。普段から対処法についてよく理解しておき、自分で対処するのが難しい場合にはすぐにかかりつけ医に相談しましょう。
解説:迫 康博
飯塚嘉穂病院
院長・糖尿病センター長
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