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2020.09.09
糖尿病腎症とは、糖尿病の合併症の一つで、上昇した血糖値が腎臓の機能を低下させる病気です。
腎臓には約100万個の糸球体(老廃物をろ過する毛細血管の束)があり、私たちはそのはたらきによって体内の老廃物を排泄しています。しかし、糖尿病のために血糖値が高い状態が続くと、糸球体のはたらきが低下します。すると、本来は老廃物のみをろ過するはずの糸球体が、身体にとって必要なタンパク質などもろ過してしまい、尿にタンパクが出るようになります。また、病状が進行すると、糸球体がつぶれてろ過が行なわれなくなり、身体に老廃物や水分がたまってしまいます。病状がさらに悪化すると、腎不全や尿毒症に陥ります。
糖尿病腎症の初期症状は尿にタンパクが出るのみで、自覚症状はありません。しかし、症状が進行すると、尿中に大量のタンパクが出るようになり、血液中のタンパク質が減少し、むくんだり疲れやすくなったりします。身体に老廃物がたまり、腎不全や尿毒症の状態になると、食欲の低下や強い疲労感、むくみがさらにひどくなるなど、さまざまな症状が出現し、透析治療(人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除く治療法)が必要になります。
糖尿病腎症の検査には、尿検査と血液検査があります。尿検査では、尿にタンパク質や血液が混ざっていないかどうかを調べます。また、尿中のアルブミン(タンパク質)排泄量を検査することで、糸球体の機能低下がどの程度進行しているのか調べることができます。尿中アルブミン排泄量が30~299mg/g Crの場合は「微量アルブミン尿」と呼ばれ、糸球体や尿細管の傷害があることが考えられます。傷害がさらに進み、尿中アルブミン排泄量が300mg/g Crを超えると「顕性アルブミン尿」と呼ばれます。
昨今では微量アルブミン尿検査法によって、尿中のアルブミンがごく少量の場合でも見つけ出せるようになりました。定期的に尿検査を受けることにより、早期に糖尿病腎症を発見し、治療することができます。
血液検査では、糸球体のろ過量(GFR)を調べます。正確な量を調べるためには、24時間の畜尿や採血が必要であり、患者さんに負担がかかります。そのため、1回の血液検査で分かる血液中のクレアチニン(筋肉に含まれるタンパク質の老廃物)濃度を年齢や性別で換算した推算糸球体ろ過量(eGFR)を用いて糸球体のろ過量を評価しています。eGFRが30mL/分/1.73m2未満になると腎不全と診断されます。
尿中アルブミン排泄量・糸球体ろ過量(推算糸球体ろ過量)による、糖尿病腎症の病期分類(進行度合い)は以下のようになります。
病期 | 尿アルブミン値(mg/gCr) あるいは 尿タンパク値(g/gCr) |
GFR(eGFR) (mL/分/1.73m2) |
第1期(腎症前期) | 正常アルブミン尿(30未満) | 30以上 |
第2期(早期腎症期) | 微量アルブミン尿(30~299) | 30以上 |
第3期(顕性腎症期) | 顕性アルブミン尿(300以上) あるいは 持続性タンパク尿(0.5以上) |
30以上 |
第4期(腎不全期) | 問わない | 30未満 |
第5期(透析療法期) | 透析療法中 |
(糖尿病57:529-534,2014より一部改変)
症状を悪化させないためには、早期に治療を始める必要があります。治療の中で最も大切なのは、運動療法・食事療法のほか、血糖値を下げる経口血糖降下剤やインスリン(血糖値を一定に保つホルモン)などを正しく用い、血糖のコントロールをきちんと行なうことです。微量アルブミン尿の時期であれば、特に腎臓に対する治療をしなくても、血糖コントロールを厳密に行なうことで尿検査の数値が正常に戻ることが多いです。高血圧や高コレステロール血症の症状がある人は、それらを併せて治療する必要があります。
糖尿病腎症の進行度合いに応じて、血液をサラサラにする抗血小板剤、血圧を下げるACE阻害剤、利尿剤、血液中の毒素を吸着し排出を促す経口吸着剤など、さまざまな薬品が使用されます。また、症状が進行し、尿中のタンパク質が増加すると、腎臓への血流量や糸球体ろ過量が低下する恐れがあるため、運動療法は若干制限されます。食事療法も、それまでのエネルギー量や栄養バランスに配慮した食事に加えて、塩分やタンパク質量の制限も必要となります。
前述のように、糖尿病腎症は、初期にはほとんど自覚症状がありません。このため、定期的に診察・検査を受けることが重要です。少なくとも半年に1回は尿検査と血液検査を受け、自分の状態を主治医に確認してもらいましょう。
一部の特殊な病態を除いて、糖尿病の治療の目標は、将来合併症になるのを予防することです。糖尿病腎症の予防には、普段から血糖コントロールを良好に保つことが最も重要です。これに加え、高血圧症や脂質異常症の合併は悪化の原因となるため、併せて治療することが重要です。塩分の摂取量を減らすことが腎機能低下の予防に有効であるという研究結果も複数報告されています。
また、自覚症状があまりない糖尿病腎症が悪化することを防ぐため、2018年2月に日本医師会が専門医への紹介基準を示しました。この基準を参考に、早い段階で専門医にかかることで、症状の悪化を防ぐことができます。
大阪府済生会野江病院の取り組み
当院を含めた大阪東部地区では、日本医師会の紹介基準をより簡便に運用するため、以下の指針を示しています。
糖尿病腎症重症化予防のために専門医へ紹介していただく指針
以下のいずれかに当てはまる糖尿病患者(尿定性検査 必須)
① 尿タンパク ±以上(繰り返す)または尿アルブミン30mg/g Cr以上(繰り返す)
② 尿タンパクと血尿がともに+1以上
③ eGFR 45mL/分以下また、かかりつけ医と当院の医師が協力し、患者さんの治療経過を共有する地域連携パス「DM net ONE」を通じて、地域全体で早期から患者さんが治療を開始できるよう努力しています。
解説:安田 浩一朗
野江病院
副院長 兼 糖尿病・内分泌内科 部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。