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2022.08.10
フィッシャー症候群は、末梢神経に異常が生じる病気です。末梢神経は脳や脊髄など中枢神経から枝分かれして身体の各筋肉につながっている神経です。末梢神経に異常が生じる病気のうち比較的知られているものにギラン・バレー症候群があります。
フィッシャー症候群は、ミラー・フィッシャー症候群とも呼ばれます。
1956年に医師のミラー・フィッシャーが、急性の外眼筋(がいがんきん=眼球を動かす筋肉)の麻痺、運動失調、腱反射(肘や膝の筋肉の腱を叩くと反射的に筋肉が収縮すること)の消失といった症状がある3症例を報告し、それにちなんで病名が名づけられました。
多くは咳や鼻水といった感冒様症状のほか、下痢などの前駆症状が出現し、それから1~3週間後に発症します。発症すると、外眼筋の麻痺による複視(物が二重に見えること)や、運動失調によるふらつきが現れます。また、腱反射の消失がみられます。
発症後2週間以内に症状のピークを迎え、その後は自然軽快します。予後は良好ですが、四肢の麻痺や意識障害などの中枢神経障害が出現して重症化する場合もあるので、慎重な経過観察が必要です。
感冒の症状が現れてから、1~3週間後に物が二重に見えたりうまく歩けなかったりするなどの症状があれば、フィッシャー症候群を疑います。
診断に際しては、ギラン・バレー症候群と同様に髄液検査でタンパク細胞解離(タンパク質が増加する一方で白血球数は増加しないこと)があるか、あるいは血液検査で糖脂質「ガングリオシドGQ1b」に対するIgG抗体が検出されるかが重要となります(血清中の抗GQ1bIgG抗体の検出は、2008年度から保険適応となっています)。
通常は自然軽快し、予後良好な病気です。
ただ、患者さんの状態によっては、ギラン・バレー症候群の治療法に準じて経静脈的免疫グロブリン療法(抗体の機能を持つタンパク質の免疫グロブリンを静脈注射で投与する治療法)や、血漿浄化療法(血液中の血漿成分を置き換える治療法)が行なわれることがあります。
呼吸器感染症などの後に2週間ほどして、物がダブって見えたり真っすぐ歩けなかったりするなどの症状が現れた場合は、この病気を疑い、脳神経内科のある病院を受診しましょう。
「医学解説」の検査・診断の項に記したように、髄液中のタンパク細胞解離や血液中のIgG抗体の有無を調べます。特にIgG抗体については、フィッシャー症候群の患者さんの90~95%で発症初期の血清中にIgG抗体が検出されており、重要な診断マーカーとなっています。
フィッシャー症候群は呼吸器感染症などの後にごく限られた人に生じるまれな病気です。うがいや手洗いの励行は予防に有効かもしれませんが、予防法は確立されていません。
物がダブって見えたり真っすぐ歩けなかったりするなどの症状が現れたら、脳神経内科のある病院をすぐに受診し、フィッシャー症候群の可能性がないか診察してもらってください。
解説:法化図(ほけず) 陽一
日向病院
脳神経内科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。