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2015.09.28
子宮の内側には、「子宮内膜」という組織が存在します。この子宮内膜に似た組織が、何らかの原因で子宮の内側以外の場所で増殖する病気が子宮内膜症です。月経のある女性の約7~10%に発生するといわれ、卵巣機能の活発な20~30歳代の女性に多く発症します。
子宮の内側にある子宮内膜は、妊娠の準備をするため増殖して厚くなりますが、妊娠が成立しないと剥がれ落ちて、月経として排出されます。その際、月経血が卵管を通って腹腔内(おなかの中)に入る「月経血逆流」は、月経のある女性で一般的にみられる現象で、このとき子宮内膜組織の断片が腹腔内に運ばれます。大半の女性では免疫の力が働き、子宮内膜片は腹腔内で拒絶され生着(せいちゃく:運ばれた細胞が身体の中に定着)することはありません。しかし、免疫の力が不十分な場合、これが腹腔内で生着・増殖して子宮内膜症を引き起こします。子宮内膜症になると、月経に伴って炎症や出血が起こり、重い月経痛がみられます。
子宮の構造と子宮内膜症
子宮内膜症が卵巣で発生すると、毎月の月経血が貯留して「子宮内膜症性のう胞」という袋状の病変(病気による生体の変化)を作ります。これは、たまった古い血液の色から「チョコレートのう胞」ともいわれます。
また、月経血逆流が原因ではありませんが、内膜組織が子宮の筋層内(壁の中)に潜りこみ増殖すると「子宮腺筋症」という病気になり、子宮筋層が厚くなります。子宮のサイズが大きくなると月経痛だけでなく月経量が多くなり、貧血になることもあります。
まれですが、腟、膀胱、直腸、肺、横隔膜などに子宮内膜症ができることがあり、これは、血管やリンパ管を通ることにより、子宮から遠く離れたところに病変ができるためと考えられています。
診断には内診、超音波検査、MRI検査などが用いられます。腹腔内の患部を直接見ることでより確実な診断ができるため、腹腔鏡検査を行なうこともあります。しかし、これは身体に負担になる面が大きいため、症状などから子宮内膜症が強く疑われる場合は「臨床的子宮内膜症」として薬物療法を開始することが多いです。
子宮内膜症の治療法には、薬物療法、手術療法、また、それらの併用療法があります。症状や進行具合、年齢、妊娠を希望するかなどを総合的に判断し、それぞれの患者さんに合った治療法が選ばれます。
薬物療法には鎮痛剤、漢方薬などの対症療法と、ホルモン剤を用いた内分泌療法があります。対症療法がよく効く場合もありますが、十分効かない場合は内分泌療法を行ないます。内分泌療法は、排卵機能を一時的に抑えることになるので、治療中は妊娠できません。
妊娠を希望する場合は、病巣を取り除くための手術療法を行なうこともあります。卵巣子宮内膜症性のう胞の場合も、破裂や感染を引き起こしやすい・薬物療法で少し縮小することはあっても消えてしまうことはない・他の種類の卵巣腫瘍との鑑別も必要である、といった理由から、大きいものでは手術療法が優先されます。手術方法は、傷が小さく術後の回復の早い腹腔鏡下手術を行なうことが多いです。
妊娠を望まない場合は、根治手術として子宮や卵巣、卵管を摘出することもありますが、妊娠希望者には子宮内膜症の病巣部のみを切除し、子宮や卵巣の正常部位を温存します。その場合、月経が続く限り、新しい子宮内膜症が発生する可能性があります。手術の直後は比較的妊娠しやすいのですが、すぐに子づくりをしない場合は、術後に薬物療法を行なって内膜症の再発を防ぎながら、経過観察する必要があります。
子宮内膜症の主な症状は月経痛で、患者さんの約9割にみられます。月経時以外にも下腹痛や腰痛、性交痛、排便痛を引き起こすこともあります。卵巣子宮内膜症性のう胞の場合はかなり大きくなるまで無症状のこともありますが、破裂すると激しい腹痛を発症します。
また、子宮内膜症は不妊症とも関連のある病気です。子宮内膜症の患者さんのうち、30~50%が不妊症を合併し、逆に、不妊症の女性の25~50%が子宮内膜症を有しているといわれています。子宮内膜症によって、卵管、卵巣、子宮、直腸などが互いに癒着したり、卵管の先端が癒着で閉塞したりすると妊娠しにくくなります。卵巣子宮内膜症性のう胞の場合は、卵胞がうまく発育しないことや、排卵機能が低下することもあります。ほかにも、子宮内膜症の病変から放出される「プロスタグランジン」「サイトカイン」という物質は、妊娠の妨げになります。
以上のように、月経痛や月経時以外の骨盤痛が強い場合や、パートナーができてもなかなか妊娠しない場合は、一度産婦人科を受診してみるとよいでしょう。早めの受診が、子宮内膜症の早期診断、治療に結び付き、病気が重症化して深刻な不妊症になることへの予防につながることが期待できます。
子宮内膜症は重い月経痛や不妊症の原因となり、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)を非常に低下させる慢性的な病気です。初経年齢が若くなり、晩婚化・少子化の影響などで、一人の女性が生涯に経験する月経の回数は昔より多くなっています。妊娠~授乳中は月経がないので、妊娠回数が多いと子宮内膜症にかかりにくいのです。このため、現代女性は昔よりも子宮内膜症にかかりやすくなっていると考えてよいでしょう。
予防が難しい子宮内膜症ですが、早期発見して治療を開始することがQOLの改善にもつながります。
また、重い月経痛、不妊以外の子宮内膜症の問題点として、卵巣子宮内膜症性のう胞から発生する卵巣がんがあります。全体で約0.7%の頻度で起こるといわれていますが、40歳以上、のう胞の大きさ10cm以上で頻度が高くなります。女性ホルモンの分泌が減って閉経する頃には、子宮内膜症による痛みの症状は治まりますが、高齢になるほど癌化する確率が高くなるので注意が必要です。
解説:笠原 恭子
滋賀県病院
産科・婦人科部長
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