済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2021.11.05
卵管とは子宮の左右両側にある長さ約10cmの細い管です。この卵管が詰まったり(閉塞)、狭くなったり(狭窄)する状態を卵管閉塞(卵管狭窄)といいます。不妊症の原因の一つとしても知られています。
卵管は、卵巣から出てきた卵子を卵管采で捕獲し、子宮に輸送する重要な役割を果たしています。子宮から泳いできた精子と卵子が出合い、受精する場所でもあります。そのため、卵管が閉塞してしまうと受精できなくなります。また、狭窄があると、受精はできても、受精卵が子宮までたどり着けず着床できない、あるいは卵管の途中で着床して卵管妊娠(異所性妊娠)となる可能性があります。
卵管閉塞の症状はほとんどないため、不妊症で受診・検査した際に発見されることが多いです。主な原因として、性感染症の一つであるクラミジア感染症、子宮内膜症、腹腔内の炎症による卵管周囲の癒着などが挙げられます。
卵管疎通性(卵管の通りやすさ、詰まり具合)の評価や、癒着などによる卵管口の閉塞の有無を確認するためのさまざまな検査があります。
子宮卵管造影は、子宮口より造影剤を注入してX線撮影をし、子宮の位置、形態、卵管の通過性や走行、腹腔内で卵管采が腹膜(胃や腸などの内臓表面を覆っている膜)や子宮、直腸などに癒着しているかどうかなどを調べる検査です。不妊治療では、卵管の異常の有無により治療方針が大きく異なってきますので、早期に検査することが勧められます。また、卵管に軽度の通過障害がある場合、この検査をすることによって卵管の通過性がよくなり、妊娠しやすくなる場合もあります。
そのほか、卵管通気法・通水法(子宮口から炭酸ガスや生理食塩水などを注入し腹腔内への拡散を確認)、子宮鏡検査(子宮腔内から卵管口を観察)や卵管鏡検査(直接卵管内腔を観察)などを行ないます。
1.薬物療法
薬による治療は、既に生じた卵管閉鎖・狭窄・癒着を改善するものではありません。卵管閉塞(卵管狭窄)の原因としてクラミジア感染症が考えられる場合に、抗生剤を使用して治療します。性交渉によって感染するため、パートナーの感染の有無にかかわらず、2人同時に治療することが必要です。
2.手術療法
検査によって卵管末端部の病変(卵管采閉鎖・卵管水腫)があると診断された場合は、腹腔鏡手術を行ないます。卵管粘膜の状態(損傷の程度や癒着の有無など)・卵管留症(炎症により卵管に膿などがたまり腫れた状態)の大きさ・卵管壁の厚さなどを考慮し、手術の方法(卵管開口術か卵管切除術)を決定します。
卵管水腫(閉塞した卵管に液体がたまっている状態)の存在が体外受精の着床障害の原因となり、体外受精前に卵管切除術を行なうことで妊娠率が改善するとの報告もあります。そのため、卵管水腫を合併している場合、体外受精の胚移植前に卵管切除術を行なう場合があります。
卵管閉塞は間質部、峡部、膨大部の順に多く発生し、卵管内の病変は多発性、両側性(左右にできやすい)であることが多いといわれています。治療法としては卵管鏡下卵管形成術があります。卵管鏡を用いて卵管内にバルーンカテーテルを挿入し、閉塞(狭窄)がある部分をバルーンで膨らませることにより、広げて開通させる手術です。手術は局所麻酔または全身麻酔で行なわれます。
術後の卵管通過性回復率は80%ほどですが再閉塞のケースも多いとされ、術後妊娠率は約30%です。妊娠例の約80%が、術後9カ月以内に妊娠したという報告があります。
3.体外受精
体外受精も薬物療法と同じく、既に生じた卵管閉鎖・狭窄・癒着を改善するものではなく、卵管閉塞を原因とする不妊症に向けた治療法の一つです。両側の卵管に閉塞があり、他の治療法で通過性が回復しない場合は、体外受精の絶対的適応(妊娠するために必須)になります。具体的には、卵巣から卵子を採取し体外で受精させた後、受精卵を子宮に移植します。前述したように、卵管水腫が存在すると、着床率が低下する可能性があり、体外受精前に卵管切除を考慮する場合があります。
卵管は卵巣から排卵した卵子をキャッチし子宮に運ぶ役割を持っています。子宮から泳いできた精子と卵子が出合う受精の場でもあります。このように、卵管は妊娠に関して非常に重要な臓器ですが、それ以外の役割はありません。
卵管閉塞(卵管狭窄)があったとしても、患部が炎症を起こさない限り自覚症状はなく、日常生活に支障をきたすものではありません。
基本的に、妊娠を希望していない女性が予防的に卵管閉塞の検査を行なうことはないため、不妊症検査として子宮卵管造影を受けて発見される場合がほとんどです。
妊娠を希望して1年(35歳以上の場合は半年)以上妊娠しない場合、 40歳以上の場合にはすぐにでも子宮卵管造影を受けた方がよいでしょう。このほか、クラミジア感染症、子宮内膜症、腹腔内の炎症、開腹術の既往がある人は早めの検査が望ましいです。
性感染症であるクラミジア感染症が卵管閉塞の主な原因となることから、日常より性感染症の予防対策(コンドームの使用など)を心がけましょう。感染初期では自覚症状がほとんどないため、パートナーが感染した場合は、同時に治療を受けることが必要です。
そのほか、子宮内膜症が進行すると卵管周囲に癒着が生じ、卵子のキャッチアップ障害(捕獲障害)が生じる可能性があります。子宮内膜症がある場合には適切な治療を受け、病状の進行をおさえておくことが重要と思われます。
解説:菅谷 健
松阪総合病院
ART・生殖医療センター長 兼 産婦人科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。