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2015.06.12
以前より「子宮外妊娠」といわれ、現在も通称として使用されてはいますが、2009年3月に、学術用語としては「異所性妊娠」として統一することが日本産婦人科学会で決定されましたので、ここでは「異所性妊娠」という用語で解説します。
異所性妊娠とは、受精卵が正所である子宮内膜以外の場所に着床することをいい、着床部位によって卵管妊娠、卵巣妊娠、腹腔妊娠、頸管妊娠などに分類されます。最も頻度の高いものは卵管妊娠で、異所性妊娠の約95%を占めます。
異所性妊娠の例
異常とはいえ、妊娠が成立するため無月経となりますが、月経不順の女性では判断が難しく、不正出血を認めることも多いので、不正出血を月経と勘違いしている患者さんもいます。そのほかの初期症状として、つわりのような吐き気を感じることもありますが、全く無症状の場合もあります。ただ、気を付けなければならない症状は、腹痛です。卵管などの弱い部分で妊娠が成立すると、妊娠の進行によって破裂が起こってしまい、お腹の中で大量出血が発生し、最悪の場合には出血性ショックで死亡してしまう可能性もあります。こうした腹腔内出血は、外からの見た目では分からず、腹痛やお腹の張った感じが初期の症状となります。
異所性妊娠と診断された際の治療は、手術が一番に選ばれます。なぜなら、開腹または腹腔鏡手術で妊娠部位を切除・除去してしまうのが、最も確実な治療法だからです。さらに、腹腔内出血が多量の場合は、早急に出血を止める必要があるため、緊急手術が行なわれます。
一方、手術の難しい部位での妊娠や、妊娠がそれほど進行していない場合は、「メソトレキセート」という抗がん剤の一つを使用した薬物治療が選ばれることもあります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)の診断のために必要なことは、妊娠反応が陽性であることと、胎(たい)のうと呼ばれる胎児の発育する袋が、子宮内膜以外の部位に確認されることです。ただ、胎のうの確認は難しいことが多く、妊娠反応は陽性であるが子宮内に妊娠が確認されないため、異所性妊娠を疑って手術を行ない、手術の際に妊娠部位が確定することもあります。この場合は、手術が治療目的ではなく、検査目的で開始されることになります。
妊娠週数が進まないと診断が困難な異所性妊娠は、早期発見が非常に難しいので、深刻な腹腔内出血に陥る前に発見するポイントを説明します。
まず、妊娠そのものを早期に発見するために、女性は自分の月経周期をしっかりと把握しておく必要があります。月経周期が不順な方でも、せめて前回の月経がいつあったのか、その月経が普通の月経であったのか、それとも不正出血のようなものであったのかくらいは、どこかに記録しておくことが望ましいと思います。最近では、スマートフォンのアプリに月経周期が記録でき、なかには基礎体温の記録まで可能なものもあるようです。自分で月経周期が分かるようになれば、月経の遅れにも気づきやすくなりますので、妊娠の可能性があるときには、早めに妊娠検査を行なうことをおすすめします。
続いて胎のうの確認ですが、妊娠5~6週になれば超音波検査で胎のうが確認できるようになります。そのため、月経が1~2週遅れても子宮内に胎のうが確認できないようであれば、異所性妊娠の可能性が疑われます。しかし、前述のとおり、異所性妊娠の胎のうを確認することは簡単ではないので、破裂を疑う症状を理解することが重要になります。腹腔内に出血が起こってきたときの初期症状は、腹痛とお腹の張りで、少し進行すると、血圧低下に伴う立ちくらみなどが起こります。このような症状があれば、かかりつけの病院に連絡した方がよいと思われます。
異所性妊娠の可能性がある期間は、夜間や休日など、かかりつけの病院が対応できないときに、どうすればよいのかを確認しておくことも大事です。
異所性妊娠の予防となると、実際には不可能です。全妊娠の1~2%の頻度で発生するため、妊娠を望んでいる方は、早期発見を心掛ける方がよいでしょう。妊娠を望んでいない方は、しっかりと避妊をして妊娠を避けることがその予防につながります。
ただ、女性の人生を長い視野で見ると、異所性妊娠の予防はできなくもないので、簡単に紹介します。
異所性妊娠で最も頻度の高い妊娠部位は卵管で、卵巣から排卵された卵子が、受精卵となって子宮に向かう途中の卵管で着床してしまうため卵管妊娠となります。なぜ、途中で着床してしまうのかというと、これは卵管の通過性が悪いことが一因です。では、どうして卵管の通過性が悪くなるのかというと、これにはクラミジア感染や、子宮内膜症による卵管内の炎症が大きく関わってきます。つまり、妊娠を希望する年代までに、クラミジア感染や子宮内膜症になることを予防すれば、異所性妊娠の予防にもつながるといえます。
まず、クラミジア感染症は性行為感染症の一つで、性行為によって感染が起こります。そのため、コンドームを使用することによって予防が可能です。ただし、近年ではオーラルセックスなどによる咽頭感染が広がっており、コンドームが万能とはいえないことも知っておく必要があります。
次に、子宮内膜症は原因がはっきりしていませんが、月経と関係があることは確かです。月経回数が増えると子宮内膜症が発症する危険性が高まると考えると、可能な限り早く妊娠するという方法がありますが、これはすべての女性に当てはめることができない方法です。低用量ピルの使用が子宮内膜の発育を抑制するので、妊娠を考えていない期間は、避妊目的も含めて低用量ピルを使用してみるのも一つの方法かもしれません。
解説:吉本 英生
高岡病院
産婦人科部長
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