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2014.04.09
卵巣という組織は女性の骨盤内に左右二つ存在し、子宮のかど(角部)からやや後方に位置し、卵管の下に垂れ下がっている状態で存在します。子宮と卵巣をつなぐ卵巣固有靱帯(らんそうこゆうじんたい/卵巣固有索ともいう支持組織)と、卵巣と骨盤壁につながる骨盤漏斗靱帯(こつばんろうとじんたい/卵巣堤索ともいいます)の間で支えられています(図1)。
性成熟期(20~40歳くらい)の女性の正常卵巣は、成人男性の親指大程度(約3~4cm)であり、性ホルモンを生み出す場所であると同時に、さまざまなタイプの腫瘍(できもの)が発生することが知られています。卵巣のう腫とは、卵巣の中に液状成分がたまって腫れている状態(水風船のようなイメージ)と考えれば理解しやすいかもしれません。また、よくみられる卵巣のう腫の一つに、皮のう胞腫(ひようのうほうしゅ/奇形腫あるいはデルモイドとも呼ばれています)があり、これはのう腫のなかに髪の毛や脂肪組織、軟骨などの充実成分(堅い中身の詰まったもの)を含みます。
卵巣のう腫が発生した場合には、子宮とつながっている部分でねじれることがあり、これを卵巣のう腫茎捻転と呼んでいます(図2)。一般的には、卵巣のう腫が5~6cm近くになると茎捻転を起こす危険性があるといわれていますが、これ以下の大きさや、逆に10cm近くになった大きい卵巣のう腫でもねじれることはあります。茎捻転を起こした場合の主な症状は、お腹の痛み(下腹痛)です。ねじれかけても元に戻ることもあるといわれ、その場合には痛みはいったん治まりますが、完全にねじれてしまうと、卵巣に血液が届かなくなり、壊死(組織が腐ってくる)を起こします。激痛となって救急車で運ばれてくる場合も少なくありません。
従来は、卵巣のう腫茎捻転をきたして、暗紫色に変色した卵巣のう腫に対してはお腹を5~10cm程度切開(開腹手術)して、卵巣のう腫と卵管を一緒に摘出すること(付属器摘出)が一般的とされていました。以前は、茎捻転を起こした卵巣にたまった血液の一部が全身の血流にのって、肺の血管に詰まって血栓症をきたすと考えられていましたが、その後の研究では血栓症をきたす頻度は0.2%程度とされ、実際の頻度は非常に少ないことが分かってきています。また、茎捻転を解除する(元に戻す)と、卵巣機能が正常に復活するようになるのは93%近くになることが分かってきました[1][2]。さらに最近では、お腹を大きく切開せずに行なう腹腔鏡という手術方法で、卵巣のう腫茎捻転の手術を行なうことが可能になっています。このようなことから、未婚女性や将来妊娠を望む患者さんには、卵巣を温存する手術が行なわれるようになりました。最初の腹腔鏡手術のときに捻転を解除するにとどめ、数カ月後に再度腹腔鏡手術を行ない、腫瘍の部分のみを摘出し、正常卵巣部分を残す方法(核出術ともいいます)を選択できるケースもあります[3]。
[1]McGovern PG, Noah R, Koenigsberg R, Little AB. Adnexal torsion and pulmonary embolism: case report and review of the literature. Obstet Gynecol Surv. 1999; 54: 601-8.
[2]Oelsner G, Cohen SB, Soriano D, Admon D, Mashiach S, Carp H. Minimal surgery for the twisted ischaemic adnexa can preserve ovarian function. Hum Reprod. 2003; 18: 2599-602.
[3]中山 大介、藤下 晃:付属器茎捻転に対する一期的あるいは二期的腹腔鏡下保存手術.日本内視鏡外科学会雑誌、17:696-699、2012.
卵巣のう腫がいつ茎捻転を起こすか予測することはほとんど不可能です。しかし、茎捻転の原因となる、卵巣が腫れているかどうか(卵巣のう腫の早期発見)は婦人科での検診が何より重要です。なぜならば、卵巣の腫瘍(できもの)はいつ発生するか予測ができないからです。卵巣がある方は年齢に関係なく腫瘍が発生する可能性があります。また卵巣腫瘍の多くは「ものを言わない腫瘍(silent tumor)」といわれており、症状がない場合がほとんどです。茎捻転や破裂を起こして痛みが出現したり、腫瘍がかなり大きくなると腹部膨満感が出現することはありますが、それ以外は偶然発見されることが多いので、定期的に婦人科で検診を受けましょう。
卵巣のう腫茎捻転の予防は困難です。まずは原因となる卵巣が腫れているかどうかを発見してもらうことが重要です。もし卵巣のう腫があると診断された場合には、精密検査を受けて、定期的な経過観察でよいか、手術が必要かを専門家の先生に判断してもらうことが必要でしょう。飛び跳ねたりする運動や性行為の後に、卵巣のう腫茎捻転をきたすことがありますが、何の誘因もなく捻転することもあります。
解説:藤下 晃
済生会長崎病院
副院長・婦人科部長
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