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2024.04.30

家では話せても学校ではだんまり…… しゃべりたくてもしゃべれない「場面緘黙」

家では家族とおしゃべりできるのに、学校や幼稚園などでは全く話せない……。もしかすると「場面緘黙」かもしれません。無理に話させようとすると、本人がさらにつらい思いをしてしまうことも。場面緘黙の症状や周囲の人に知ってもらいたいことについて、鴻巣病院副院長で精神科医の妹尾栄一先生に伺いました。

場面緘黙ってどんな状態?

●特定の場面で話せない

「緘黙」とは「口を閉じて何も言わないこと、押し黙ること」を意味し、「場面緘黙」とは「他の状況で話しているにもかかわらず、特定の社会的状況では話すことが一貫してできない」と医学的に定義されています。
場面ごとに「しゃべれる/しゃべれない」がはっきりしているのが特徴で、事例として多いのは、家庭内ではほぼ問題なくしゃべれているのに、学校に行くと全くしゃべれなくなるパターンです。

●数百人に1人の割合で発症、5歳以下での発症が多い

日本では2~5歳での発症が多くなっています。
発症率は、0.08%~2.2%とする海外の研究や0.15%程度とする学校の調査がありますが、おしなべて1%未満、数百人に1人の割合と考えられています。男子より女子にやや多い傾向があり、日本の報告では男子1人に対し女子は1.8人程度となっています。

知ってほしい、場面緘黙の本当の困りごと

●しゃべりたくてもしゃべれない

「自分の意思でしゃべらない」と思われることがありますが、これは誤りです。人との距離感をうまくはかることができず、コミュニケーションをとることに患者さんは強い不安を感じたり、パニック気味になったりしてしまうため、話したくても話せないのです。
場面緘黙は“選択性”緘黙と呼ばれることもありますが、意図的に話す場面を選んだり、自発的に会話を拒否したりしているのではありません。

●困りごとは「しゃべれないこと」だけではない

実は、患者さんの多くは「学校で話せなくて困っているから」ではなく、不登校など別の困りごとを訴えて来院します。場面緘黙は、社交不安障害に代表される不安障害を併発するケースが多く、不安な心理が前面に出ていて友だちになじめない、学校ではいつも緊張している、といった悩みを抱えがちです。また、発達障害の二次障害として緘黙症状が出ることもあります。むしろ、しゃべれない以外の心理的な問題がない人の方が少ないことが分かっており、場面緘黙だけでなく、合併している症状も踏まえた治療・支援が必要です。


社交不安障害やうつ病などを併発しやすく、それぞれの病気の症状が組み合わさって現れることも

●しゃべらないことで自分の身を守っているケースも

学校でしゃべらないことで「話すこと」へのストレスを避け、心の平穏を保っているケースもあります。そのため、周囲が無理にしゃべらせようとすると症状が悪化したり、不登校などの二次的な問題を引き起こしたりする可能性があります。

●「大人になったら自然に治る」は間違い

適切な治療・支援を受けないと、コミュニケーションに自信が持てず劣等感が増し、うつ状態などの二次障害につながるリスクが高まります。大人になってからも症状が続く場合があるので、お子さんやご自身の症状に気づいたら医師の診察を受け、きちんと治療につなげましょう。

場面緘黙の症状は三つに分けられる

場面緘黙の症状には個人差があり、家庭内の状況と家庭外(学校など)の状況によって大きく三つに分けられます。

軽症型(第1群)
家庭内:ほぼ問題なくしゃべることができる。
家庭外:発話はできないが、筆談やスポーツなどで周囲とコミュニケーションを取ることができる。不安症状はほとんどなく、活力や明瞭さがある。

中間型(第2群)
家庭内:ほぼ問題なくしゃべることができる。
家庭外:発話ができないのに加え、周囲とのコミュニケーションも拒否する。不安症状がある。

重症型(第3群)
家庭内:父親とだけ話せないなど、家族内でも発話できない場面がある。
家庭外:発話ができないのに加え、身振り手振りを含めた他人とのコミュニケーションも拒否する。不安やパニック症状が強く、さらに身体が思うように動かせず固まってしまう「緘動症状」が出ることもある。

症状の重さに違いはありますが、場面緘黙に共通しているのは下記の点です。
・話せる場面とそうでない場面の区別がはっきりしている
・話せない状態が月単位、年単位で長く続く
・その場所ではリラックスできる状態にあっても話すことができない
他の病気や人見知り等の性格に起因する緘黙の場合は、学校だけでなく家庭内や近所でも話しづらさが出ます。

場面緘黙と混同しやすい病気

場面緘黙以外にも、話せない症状がみられる病気はいくつかあります。それぞれ具体的な症状や原因が異なるので、適切な治療を受けるために医療機関を受診しましょう。

場面緘黙の発症要因

特定の原因や発症のメカニズムは正確には分かっていませんが、本人の気質面と環境的な要因面の両面から影響を受けていると考えられています。

●生まれつきの本人の気質

気質とは「生まれつき備わっている感受性の強さや反応の速さ」のことで、場面緘黙の人は「不安になりやすい」「緊張を感じやすい」気質を持っていることが多くなっています。
この気質は遺伝が関係しているという説があり、ある研究では、遺伝子情報の一致している一卵性双生児が2人とも緘黙症を発症した場合は治りにくい傾向がある、患者さんの親族にも発症者がいる場合が多い、と報告されています。

●環境的な要因

原因の一つとして、話すことがストレスとなる環境が挙げられます。
近年の移民に関する研究によると、異なる文化圏から移住してきた集団では緘黙状態になる子どもが多い傾向があります。これは、新しい文化での言語習得の難しさとそれによるストレスが原因として挙げられます。

上記の原因はいずれも仮説であり、今も研究が進められています。なお、親の育て方に原因があるとする考えもありましたが、現在、因果関係は認められていません。

「この子、場面緘黙かも……」と思ったら

お子さんや受け持っている児童に場面緘黙が疑われる場合は、ウェブサイト「かんもくネット」内にあるSMQ-R(場面緘黙質問票)などのチェックリストも活用してみてください。かんもくネットは、場面緘黙についての情報交換・理解促進の場を目指して活動する非営利の任意団体です。

場面緘黙と付き合っていくために

場面緘黙の治療では主に、少しずつ話せる範囲を広げていく「行動療法的アプローチ」と、不安症状を軽減させる「薬物療法」を行ないます。

●できる範囲を広げていく行動療法

行動療法的アプローチでは、家庭内でできているコミュニケーションを徐々に家庭外にも広げていきます。ポイントは「できることを少しずつ広げること」「成功体験を積ませてあげること」ことです。
例えば、発達障害を併発しているある患者さんは、通院を始めた頃は不安症状が強く診察室に入ることができない状態でした。そのため、診察室の外で母親にひそひそ声で要件を伝えてもらいながら問診を行ないました。通院を続けるうちに診察室へ入れるようになり、筆談で趣味(サボテン)の話などもできるように。お願いすると、サボテンに関する詳しい資料も作って来てくれました。つまり、診察室の外で母親としか話せなかったところから、少しずつ、医師と筆談でコミュニケーションを取れるまでに進歩したのです。

●併存する症状を緩和させる薬物療法

残念ながら、緘黙の症状そのものを改善する薬はありません。しかし、併存している発達障害(自閉スペクトラム症など)による症状や不安感を軽減させることはできます。

●周囲の大人は「居場所」をつくってあげて

患者さん本人は、話したくても話せない状況に苦しんでいます。場面緘黙の根本には「不安」があることも多く、家族や学校・園の先生が「話す能力はあるから学校でも話せるだろう」などと無理にしゃべらせようとしたり、しゃべれないことへの劣等感を抱かせたりしてしまうと、この不安はさらに大きくなってしまうでしょう。
重要なのは、患者さんに「安心できる居場所があると知ってもらうこと」です。例えば、学校の授業で発表する際に筆談を許可するなど、本人ができる方法でコミュニケーションを取るようにすることで、自分の居場所があると感じることができ、自信にもつながります。

少しずつ自信を回復し、社会に適応しやすくなることが、一番理想的な治療ではないでしょうか。そのためには根気強く通院し続けること、家庭や学校など周囲の大人の協力が必要不可欠です。 場面緘黙は決して珍しい症状ではなく、児童期であれば誰にでも起こり得ます。本人ができることを少しずつ、一緒にやってあげてください。

参考文献
1)濱本優,金生由紀子:場面緘黙.1章 不安または恐怖関連症群.三村將(編),不安または恐怖関連症群 強迫症 ストレス関連症群 パーソナリティ症.pp.99-108,医学書院,2021
2)田中哲:緘黙・吃音.神経症性障害.山崎晃資ほか(編),児童青年期精神障害(臨床精神医学講座 第11巻).pp.203-209,医学書院,1998

解説:妹尾栄一

解説:妹尾栄一
鴻巣病院
副院長

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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