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済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
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2023.08.23
社交不安障害(SAD=social anxiety disorder)は不安障害の一種です。他人から注視される状況で強い恐怖や不安を感じることから「社交恐怖」や「社交不安症」とも呼ばれます。一般的に「対人緊張」や「赤面症」などといわれているものも、これに該当します。
人と会話するときに過度に緊張したり、多くの人の視線が集中する場面で強い恐怖や不安を感じて話ができなくなったりするため、そのような場面を回避する「回避行動」を取るようになり、社会生活に支障が生じます。
明らかな原因は分かっていませんが、自律神経系の交感神経が過度に緊張することで起こると考えられています。
他人の視線を感じる場面で強い恐怖・不安を感じ、手の震え・赤面・発汗・動悸・呼吸困難などの症状が現れます。また、そのような場面を極力回避するなどの行動異常もみられます。そうした回避行動は緊張する場面だけでなく通常の場面にまで拡大し、社会生活に多大な支障をきたすことも多くあります。
診断においては、社交不安障害と同じ症状がある身体的疾患を除外することが重要です。例えば、バセドウ病などの甲状腺疾患や不整脈などの心疾患、呼吸困難を起こす呼吸器疾患、手指の震えを起こす神経疾患などが挙げられます。
また、社交不安障害と類似する病気との鑑別も必要です。代表的なものとして、広場恐怖症(いわゆるパニック障害)がありますが、こちらは閉鎖空間や乗り物など「場所や状況に対して不安・恐怖を感じる」ことが、社交不安障害と鑑別するポイントです。これ以外にも、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、自閉症スペクトラム、適応障害なども似た症状がみられることがあるので、診断には注意が必要です。
「社交不安障害の症状」の項で挙げた症状が、少なくとも6カ月以上持続していることも診断の際に重要なポイントになります。
なお、心理テストで不安の尺度として用いられる「STAI (状態・特性不安検査)」や「MAS(顕在性不安尺度)」などが、診断の補助に利用されることがあります。
薬物治療としては、症状が現れたときの対応としてアルプラゾラムやクロチアゼパムなどの抗不安薬を投与し、症状をコントロールする目的としてSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を投与します。しかし、薬物治療は症状をおさえたりコントロールしたりするのには有効ですが、根本的な恐怖や不安を取り除くには限界があるため、心理療法などと併用することが重要です。
心理療法としては、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス、自律訓練法(AT)などがあります。また、個々のケースに対しては、個人カウンセリングも有効であることが多いです。
社交不安障害の世界的な有病率は2~5%といわれ、決してまれな病気ではありません。発症年齢の中央値は13歳前後で、多くが8~15歳の学童期に集中しているようです。
授業中にみんなの前で発表する場面などで、手の震え・発汗・動悸・呼吸困難などの症状が出て見つかることも多く、そのような場面を回避するため、学校を欠席したり退学したりして見つかることもあります。学校では担任の教師や養護教諭、スクールカウンセラーへの相談などから発見されることも多いようです。
社会人になってから見つかることも多く、朝礼やプレゼンテーションの場面などで発症し、人事担当者や産業医などから指摘されて発見されることも少なくありません。
一方、家庭内では症状が現れることが少なく、家族に発見されるケースは意外と少ない印象です。
いずれにしても早期発見・早期治療が重要で、可能性が疑われる場合は早めに心療内科や精神科などの医療機関を受診することが重要です。
もともと人前で話をするのが苦手な内気な性格の人は世の中に数多く存在しますが、それなりに社会に適応していれば問題となることはありません。しかし学業や仕事上、人前で発表する場面は避けられないこともあり、そのような場面で過度に緊張して失敗した経験などがトラウマとなり、その後回避傾向となって社会生活に支障をきたす場合も少なくありません。
一度の失敗経験を後々に引きずらないためには、場数を踏んで克服していくことも重要です。その際に便利なツールとして、治療法で紹介した「自律訓練法」をお勧めします。
当院でも自律訓練法の集団治療を定期的に行なっています。詳細については当院心療内科のホームページにアクセスしてみてください。また、同ページでは済生会福岡総合病院による自律訓練法のYouTube動画も紹介しています。こちらもぜひご利用ください。
解説:土田 治
飯塚嘉穂病院
副院長 心療内科 消化器病センター長
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