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2024.08.30

もし自分や大切な人が発症したら……? 若年性認知症の実態と向き合い方

「認知症」と聞くと高齢者がかかる病気と思われがちですが、働き盛りの世代でも発症することがあります。本⼈だけでなく家族の⽣活への影響が⼤きくなりやすく、早期発見・早期対応が特に重要となります。 年齢にかかわらず広く知ってほしい若年性認知症について、宇都宮病院脳神経内科の大島壮生先生に聞きました。

若くても発症する可能性がある認知症

●若年性認知症とは

認知症とは、一度正常に発達した認知機能が、なんらかの脳の障害が原因で持続的に低下し、生活に支障をきたすようになった状態をいいます。一般的に高齢者に多くみられますが、65歳未満(18~64歳)で発症した場合を「若年性認知症」と呼んでいます。若年性認知症という独立した病気があるわけではなく、発症年齢で区分したものです。
全国の若年性認知症の患者数は約35,700人といわれています(令和2年3月/日本医療研究開発機構 認知症研究開発事業による調査)。男性に多くみられ、推定発症年齢の平均は54.4歳です。

☆認知症全般について→症状別病気解説「認知症」

●原因となる疾患の特徴

認知症を引き起こす原因はさまざまで、いくつかのタイプに分かれます。一般的に多くみられるのは、脳の変性によって発症する「アルツハイマー型認知症」と「レビー小体型認知症」、脳梗塞や脳出血などによって発症する「血管性認知症」で、三大認知症と呼ばれることもあります。そのほか、脳の特定の部分が萎縮し機能が低下することで発症する「前頭側頭型認知症」、事故などで脳を損傷して発症する「外傷による認知症」、アルコール依存症などアルコールが原因で発症する「アルコール性認知症」などがあります。
若年性認知症の原因疾患の特徴として、血管性認知症や前頭側頭型認知症、外傷による認知症、アルコール性認知症の割合が高齢者と比べて多いことが挙げられます。

若年性認知症の原因疾患
(参考:若年性認知症支援ガイドブック改訂5版)

「認知症かも?」と思ったら

●発症の兆候と注意すべき症状

認知症の発症に気づく症状として最も多いのは「物忘れ」で、次に「行動の変化」や「性格の変化」、「言語障害」が続きます。家庭で気づきやすい認知症の初期症状の例として、最近怒りっぽくなってきた、几帳面だったのに掃除がおろそかになっている、料理の手順が分からなくなっているなどが挙げられます。
若年性認知症の発症時は現役で働いている人がほとんどで、自分で気づく場合もありますが、職場で症状を指摘されて受診につながることも多くなっています。職場で行なう業務は複雑な処理が必要となるものも多く、これまでできていた仕事がスムーズにできなくなる、タスクや約束を忘れる、日時を間違えるといった認知症による症状が発見されやすいといえます。

●セルフチェックをしてみよう

「認知症ではないだろうか」「気になる症状の人がいる」と思ったときは、早期発見のためにもチェックリストで確認してみましょう。各自治体や生命保険会社などが、確認項目を記載したチェックリストを公開しています。例えば、東京都福祉局監修のウェブサイト「とうきょう認知症ナビ」では、「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」が公開されています。若年性認知症に限ったものではありませんが、主にアルツハイマー型認知症の発見に役立つ内容となっています。

●早期発見が大切。気になったら受診を

認知症は若くても発症する可能性があるということが知られていないため、発見が遅れる傾向にあります。異常に気づいていても、過労や体調不良の影響だと考えて放置してしまうことも多いようです。早期発見には早期受診が必要です。少しでも気になったらためらわずに受診しましょう。
かかりつけ医がいる場合は、まずは受診して相談してみてください。かかりつけ医がいない場合は、各都道府県で認定されている「認知症サポート医」、学会の認定した「認知症専門医」のいる医療機関への相談、または各都道府県に設置されている「認知症疾患医療センター」への受診を検討してください。

☆認知症全般の検査・診断、治療について→症状別病気解説「認知症」

●新しい認知症治療薬「レカネマブ」

2023年、新しい認知症治療薬「レカネマブ」が厚生労働省で承認されました。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβというたんぱく質がたまることによって発症するといわれています。レカネマブにはアミロイドβを除去する作用があります。
従来の認知症治療薬の作用は「脳内の情報伝達の改善」であり、認知症の診断後にしか使用できませんでした。レカネマブは認知症を引き起こす原因物質の除去という根本的な作用を持ち、認知症の前段階の軽度認知障害にも使用できることが薬剤として画期的です。
レカネマブは若年性認知症にも使用できますが、適応となるのは「アルツハイマー病に伴う軽度認知障害」と「初期のアルツハイマー型認知症」で、どんな認知症にも使用できるわけではありません。進行してしまったアルツハイマー型認知症には使用が認められていません。

☆もっと詳しく→知っておきたい「認知症」治療薬の基本と最新事情

認知症になる前段階、軽度認知障害
認知症は、ある日突然発症するわけではありません。特にアルツハイマー型認知症など脳の変性によって起こる認知症は、少しずつ症状の進行がみられます。認知症の定義では「生活に支障をきたす」ことが診断の条件ですが、物忘れなどの症状があっても軽度の場合、日常生活が維持できていることもあります。このように認知症の領域に入る一歩手前の状態を「軽度認知障害(MCI)」といいます。
この段階で認知症予防策を行なうことで、健常の状態への回復や認知症への移行を遅らせることが期待できるため、早期受診はとても重要です。

病気とともに生活をしていくために

●支援制度やサービスを活用

若年性認知症の患者さんは働き盛り世代に該当する場合が多く、就労や子育てなど家族も含めた生活への影響が大きくなりやすいといえます。若年性認知症をサポートする支援制度には、就労に関する支援や経済的な支援、生活支援、退職した場合の支援など、さまざまなものがあります。
これからの生活で利用できるサービスや支援の詳細は、まずは通院する医療機関のソーシャルワーカーに確認しましょう。また、地域包括支援センター(各市町村に設置)、若年性認知症コールセンター若年性認知症支援コーディネーター(各都道府県に配置)、各家族会などでも相談が可能です。
40歳以上であれば、介護保険を利用することができます。若年性認知症の場合、主介護者が配偶者に偏ってしまいがちです。子育てや家事、さらには親の介護が重なる年代でもあり、主介護者の負担を軽減するためにも、介護サービスを活用することは生活を維持していく上で必要なことです。

●病気について理解し、安心できる環境をつくる

若年性認知症では身体的な問題が目立たないので「病気であること」が理解されにくく、そのことが患者さんのストレスとなり精神状態の不安定につながることがあります。本人と一緒に家族、周囲の人が病気のことを知って理解を深め、本人が安心できる環境をつくっていきましょう。
また、主介護者となる家族はさまざまな問題を抱え込みすぎないように支援制度などを積極的に利用し、介護疲れの軽減だけでなく困りごとを相談できる体制をつくることが大切です。

解説:大島 壮生

解説:大島 壮生
宇都宮病院
脳神経内科 主任診療科長

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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