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2021.04.28
血管性認知症は、脳血管障害(脳卒中)によって起こる認知症のことをいいます。脳卒中には、脳血管が詰まって起こる脳梗塞や、脳血管が破綻して生じる脳出血などがあります。
血管性認知症には、小さな梗塞や出血を繰り返す多発性の脳卒中(多発性脳梗塞)によって起こるものや、単発の脳梗塞であっても認知機能にとって重要な部位(戦略的部位)の障害によって起こるものなど、さまざまな種類があります。
戦略的部位に脳卒中を起こして認知症を示すものを「戦略的脳卒中」と呼び、脳の視床(ししょう)や尾状核(びじょうかく)という部位に起こった脳卒中などがよく知られています。
血管性認知症では、そのほかの認知症でもみられる症状(記憶障害、見当識障害、注意障害、言語障害など)と、脳血管障害による神経症状(運動麻痺、歩行障害、感覚障害、構音障害、嚥下障害などの局所神経症状)が認められます。脳血管障害は脳のさまざまな部位に起こるので、現れる症状もさまざまです。障害のある部位とない部位が“まだら状”に分布するため、記憶障害が目立つものの判断力や専門知識は保たれるなどの状態となり、「まだら認知症」とも呼ばれています。
抑うつ症状や不安、意欲低下、感情鈍麻(喜怒哀楽の感情表現が乏しくなること)や感情失禁(感情のコントロールができなくなること)、動作緩慢などを伴うこともあります。
血管性認知症は、脳血管障害によって起こる認知症なので、脳卒中の再発予防やリハビリテーションが極めて重要です。脳卒中は、生活習慣病としての高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病、心房細動などの危険因子が明らかになっているので、修正可能な危険因子に向き合い、脳卒中を再発させない(二次予防)生活習慣の改善と適切なリハビリテーションによる機能回復訓練、生活リハビリが重要になります。
血管性認知症は、脳卒中に関連して起こりますが、脳卒中の種類(タイプ)によっては、発見されにくいものもあるため注意が必要です。脳卒中とは、その名の通りに脳に卒然(突然)起こる血管障害のことで、通常は症状が突発完成(すぐに現れること)します。しかし、中には症状がはっきりしないもの(無症候性脳卒中)や、小さな脳卒中を繰り返して症状がゆっくり現れてくるものもあるので注意しましょう。脳卒中の危険因子がある人の中には、脳ドックなどで頭部MRIなどの画像検査を受けて早期発見される人もいます。
血管性認知症は、脳卒中による障害を受けていない機能は保たれているため、発見が遅れる傾向があります。生活の中で、失行(日常の動作ができなくなること)、失認(認知能力が正常に働かないこと)、失語(話す・聞く・読む・書くなどができなくなること)といったサインを見逃さないようにしましょう。
血管性認知症では、脳卒中とうまく付き合うために工夫することが大切です。豊かな四季を通じて気候変化の激しい日本では、冬季には血圧変動に注意する、夏季には脱水を予防するなど、細やかな心がけが大変重要になります。
予防のカギは高血圧との付き合い方
血管性認知症の原因となる脳卒中には、さまざまなタイプがありますが、近年、細い動脈の病気として「小血管病」が注目されています。小血管病の原因としては、高血圧が最も多く挙げられます。
この高血圧の対策として、病院や診療所での血圧測定だけでは十分でないことが明らかになっています。「サイレントキラー(静かな殺し屋)」ともいわれる高血圧は、自覚症状に乏しく、診察室の外で大きく変動するため見逃されやすく、放置されやすい危険因子の代表です。そこで、自宅での血圧測定(家庭血圧)を含めた24時間の血圧管理は、脳卒中のみならず血管性認知症の発症予防や進行予防の観点から極めて重要です。
高血圧は、まず自分の家庭血圧を知ることから始まり、塩分制限を含む食事療法、体重・睡眠の管理、必要時には医師の指示で適切な降圧剤を服用することも重要です。残念ながら高血圧は、症状が乏しいために服薬を患者さん自身の判断で中断するケースも少なくありません。なお、加齢とともに心房細動と呼ばれる不整脈が増加し、心原性脳塞栓症と呼ばれる重症脳梗塞の原因となるので十分な注意が必要です。
認知症の進行に伴って、セルフケアや薬の自己管理が難しくなり、血圧のコントロールなどもうまくいかなくなってしまいます。こんなときには、家族の支援や、介護保険制度などの社会資源の利用が大きな力になります。かかりつけ医を持つことや、自治体の地域包括支援センターなどを利用することも、困ったときの大きな支えになってくれます。
解説:後藤 淳
横浜市東部病院
副院長 脳神経センター 神経内科部長
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