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2021.05.06
レビー小体型認知症は、注意力や覚醒状態が時間帯や日によって変動する認知機能障害のほか、幻視、パーキンソン症状、レム睡眠行動障害(RBD)、精神安定剤や睡眠導入剤などの薬剤(抗精神病薬など)に対する過敏症、繰り返す転倒・失神、自律神経障害などを特徴とする認知症です。
アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症は「三大認知症」と呼ばれ、認知症の大半を占めています。レビー小体型認知症は、認知症全体の1割前後を占め、発症頻度は高いです。約100年前に発見されたアルツハイマー型認知症に比べて新しく確立された認知症で、正しく診断できるようになったのは最近のことです。
レビー小体とは?
パーキンソン病患者さんの脳神経細胞に異常な物質がたまってできる“封入体”で、発見した病理学者のレビー医師にちなんで命名されました。パーキンソン病は、中脳と呼ばれるところにレビー小体を認め、手足の震え、動作がゆっくり(緩慢)となり、筋肉のこわばり(固縮)などの運動障害がゆっくり進む病気です。
1970年代に、小阪憲司医師が一部の認知症患者さんの大脳にレビー小体を確認したところから、レビー小体型認知症への理解が大きく進んだ経緯があります。パーキンソン病の経過中に認知症を発症した病態を「パーキンソン病認知症(PDD)」、レビー小体型認知症も含めレビー小体を病理学的特徴とする病態を「レビー小体病」と呼ぶことがあります。
レビー小体型認知症の経過や症状は極めて多様で、人によってさまざまです。
例えば、朝は体調がよくても夕方から調子が悪くなるなど、症状の変動が目立ちます。1日の中で変動することもあれば、週単位で変動することもあります。
特徴的なのは、見えないものが見えてしまう「幻視」を高頻度に認めることです。幻視では人や動物、虫などが鮮明に見えたり、「何も言わない男たちが寝床に並んで立っている」「エアコンの陰に猫がいる」「壁いっぱいに虫がいる」など内容が具体的だったりします。このほかに動作緩慢や筋固縮などのパーキンソン症状がみられることがあります。
起立性低血圧のような体位変換に伴う血圧変動、嗅覚障害、便秘、失神、尿失禁といった自律神経症状を認めることも多く、転倒などのリスクに注意が必要です。
夜間などの睡眠中、レム睡眠時に大声をあげたり、身体をばたばた動かしたり、壁をどんどん叩いたりといった症状もみられ、レム睡眠行動障害(RBD)と呼ばれています。RBDはレビー小体型認知症が発症する数年以上前から認められることも珍しくないため、この病気を疑う上で重要です。
夜間の自宅での様子を含めた詳細な問診、パーキンソン徴候を含めた神経学的診察(脳や神経などの機能を調べるための一連の質問や検査)が診断のために非常に重要です。頭部MRIなどの形態画像検査も、ほかの病気を除外する上で大事です。
認知機能障害を評価するための神経心理検査や、レビー小体の病理を評価するためのMIBG心筋交感神経シンチグラフィ検査(心臓の交感神経の働きを画像化する検査)、ドパミントランスポーターシンチグラフィ検査(DAT Scan=脳のドパミン神経の変化を画像化する検査)なども、診断では重要になります。
認知症をきたす病気は、単一の病気に切り分けられることはまれで、「混合病理」といって複数の原因が共存しており(レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の合併など)、治療やケアの方針を決めるためにも、極めて重要です。
このことは、かかりつけ医やケアマネージャー、ご家族、周囲の人々が、患者さんに向き合うときに生活上の注意点が変わってくるため、必須の知識となります。
薬剤による対症的な治療と、環境変化を少なくするなどの心がけ、自律神経症状の出現に応じた生活上の配慮などが挙げられます。
アルツハイマー型認知症の治療薬として開発されたドネペジルは、低用量を上手に使用すると、症状が安定する場合があります。さまざまな程度や経過で出現するパーキンソン症状については、抗パーキンソン病薬によって一部の症状が増悪することもあり、バランスをみながらの対応が必要です。
薬物治療とともに(場合によってはそれ以上に)重要なのは、療養環境の調整であるといわれています。
レビー小体型認知症は覚醒状態や注意力に変動があり、自律神経症状を合併しやすく、転倒リスクが高いため、十分な注意が必要です。生活習慣病の管理、転倒や誤嚥リスクに注意しながら、廃用症候群(長期間安静状態が続くことで、身体能力の低下や精神状態に悪影響をもたらすこと)のリスクに配慮した生活リハビリテーションの励行も極めて重要です。介護保険サービスなど社会資源をうまく利用しながら、安心して療養できる環境を作ることが大切です。
認知症といえば「もの忘れ」を思い浮かべる人も多いと思いますが、レビー小体型認知症は、初期の段階では、記憶障害が目立たないことが多いです。
以下のような特徴的な症状をきっかけに、病気が疑われることがあります。
・ぼんやりとして注意が散漫
・1日のうちにも睡眠と覚醒のリズムが変動
・睡眠中に大声を出す、ベッドから転げ落ちるなどの異常行動
・夕方から夜間に出現しやすい幻視
多彩で変動する症状のため、診察室の中だけでは診断が難しい病気といえるかもしれません。患者さんの日常生活や生活史を知る身近な人からの情報が、診断につながるヒントとして極めて重要です。
入院や旅行をきっかけにせん妄が現れるなど、環境の変化によって症状が顕在化することもよく起こります。
また、安定剤や睡眠導入剤などにより夜間せん妄などが増悪することがあり、薬剤への過敏性もレビー小体型認知症の特徴です。そうした症状がみられたら、すぐに医師に相談しましょう。
パーキンソン病関連疾患では、緊張や焦燥で症状が増悪し、のんびりと過ごすと症状が安定することはよく経験されます。のんきに、楽しく過ごす工夫をしている患者さんや家族では、長く安定して療養しているケースも少なくありません。家族が患者さんを思って、よいと思っている工夫を試みることに間違いはないともいわれています。
解説:後藤 淳
横浜市東部病院
副院長 脳神経センター 神経内科部長
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