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2016.05.20

尿失禁

urinary incontinence

解説:高野 徳昭 (八幡総合病院 泌尿器科)

尿失禁はこんな病気

尿失禁とは、自分の意志と関係なく尿が漏れてしまうことです。その種類はさまざまで、症状や原因によって、「腹圧性尿失禁」「切迫性尿失禁」「混合性尿失禁」「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」「機能性尿失禁」に大別されます。ここでは最も患者数の多い、腹圧性尿失禁について述べます。

腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁とは、咳をしたときや重いものを持ったときなど、腹圧が上昇する際に起こる尿漏れのことです。特に、成人女性に多い病気で、出産、肥満、加齢などによって、骨盤内の臓器を支持する力が弱くなることで引き起こされます。命に関わる病気ではありませんが、尿漏れによって生活の質(QOL)が低下するような場合は治療が必要です。

治療には、保存的治療と手術による治療とがあります。保存的治療として最もよく行なわれているのが「骨盤底筋訓練」です。これは肛門や膣を意識して締めることで、骨盤の筋肉(骨盤底筋)を鍛える方法です。症状が軽い場合は、単独で効果があります。その他、電気刺激療法や磁気刺激療法と呼ばれる治療もありますが、これらは過活動膀胱に伴う尿失禁においてより効果があると思われます。また、薬物療法として日本で承認されている薬はクレンブテロールのみですが、切迫性尿失禁を合併した混合性尿失禁の場合は、過活動膀胱治療薬も効果が期待できます。
以上のような保存的治療に反応しない場合は、手術による治療が考慮されます。手術療法としては、主にTVT(tension free vaginal tape)手術とTOT(trans obturator tape)手術が行なわれています。以前は尿道を能動的に吊り上げる手術が行なわれていましたが、新たに登場したTVT手術やTOT手術は、尿道を受動的に支えるというイメージです。どちらも、人口素材のメッシュテープを骨盤に通して尿道を支える手術ですが、人口テープを通す位置が異なります。なお、これらは膣から行なう手術ですので大きな傷も残りません。

TVT手術とTOT手術
TVT手術とTOT手術

早期発見のポイント

「医学解説」でも述べたように、尿失禁はその症状によりさまざまなタイプに分けられます。そのため、自分で尿失禁のタイプを判断することは難しいかもしれません。尿失禁によって日常生活に支障をきたし、外出や旅行を控える人も多いようですが、恥ずかしがったり、諦めたりせずに専門医に相談してみてください。

予防の基礎知識

腹圧性尿失禁は加齢に伴う変化ではありますが、肥満や便秘は症状を悪化させますので、これらの改善が重要です。また、保存的治療法の一つである「骨盤底筋訓練」も、予防に有効です。肛門や膣を意識して締めることで、骨盤の筋肉(骨盤底筋)を鍛える訓練です。どこでも簡単にできるので、日常生活に取り入れてみるとよいでしょう。

骨盤底筋訓練

1 身体全体の力を抜き、リラックスして立つ
2 膣と肛門を身体の中へ吸い上げるように締める
3 5秒ほど締めたら、ゆっくりと緩める
これを毎日10分程度続けます。慣れてくれば、座位や仰向けの状態でもできるので、家事や仕事の合間、就寝前に行ないましょう。

高野 徳昭

解説:高野 徳昭
八幡総合病院
泌尿器科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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