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2021.05.12
深部静脈血栓症(DVT)とは、主に下肢(通常はふくらはぎや大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固し、血栓ができて血管が詰まる病気です。
DVTは上肢(腕や手)に生じることは少なく、大部分が下肢に発生します。下肢では、血栓がある部位によって以下のように分類されます。
◇中枢型(近位型):膝から腸骨まで
◇末梢型(遠位型、下腿型):膝から足首まで
伸展した(広がった)血栓が遊離したり、血栓の静脈壁付着部がはがれたりして、塞栓源(血管をふさぐ原因)となります。血栓の発生や伸展がみられてから、1週間以内に塞栓化することが多いです。肺塞栓症(エコノミークラス症候群)の重症例での塞栓源は、膝窩(しっか=膝の後ろ側)静脈から中枢側、特に大腿静脈に多いですが、末梢側でも発生します。
【下肢DVTで頻度の高い原因】
• 静脈還流(血液が静脈を通って心臓に戻ること)の障害:寝たきりや手術後の患者さんなど
• 内皮の損傷または機能不全:下肢の骨折後など
• 凝固亢進(血液が固まりやすくなる)状態:がん患者さんなど【上肢DVTで頻度の高い原因】
• 内皮の損傷:中心静脈カテーテルやペースメーカー、注射薬物の使用によるもの
典型的な症状は、急性に現れる下肢の腫れ(片側だけにみられることが多い)、疼痛、皮膚の色調変化、側副血行路(そくふくけっこうろ=血管が詰まったことで自然形成される血管の迂回路)の発達です。
疼痛は血栓ができた部位(深部静脈の周囲)の炎症によるものと、腫れによるものがあります。皮膚の色調変化は、静脈うっ滞(血流などの停滞)による充血が主な原因で、暗赤色となります。炎症性疾患との鑑別が必要ですが、静脈うっ滞では下肢を上げると色調が薄くなり下げると濃くなる一方、炎症性疾患の場合は下肢を上げることによる変化はあまりみられません。
【DVTでよくみられる所見】
・圧痛
・下肢全体の腫れ
・3cmを超える腓腹部(ふくらはぎ)周径の左右差
・圧痕性浮腫(指で押して離した後も凹みが残るむくみ)
・身体表面の側副静脈
上記のうち3つ以上が当てはまり、他に可能性の高い診断がない場合、DVTの可能性が高くなります。ただ、DVTは無症状の場合もあります。
血栓症のスクリーニング(ふるい分け)検査としては、Dダイマーと超音波検査が簡便で有用です。
Dダイマーは血栓中のフィブリンという物質が溶解された際に生じる物質の一つです。Dダイマーの濃度が高いと、近い過去に血栓が存在して溶解したことを示唆します。Dダイマー検査が陰性であれば、DVTの可能性が低いと考えられます。ただ、Dダイマーは肝臓の病気や外傷、妊娠など他の病態によっても上昇する可能性があるため、陽性の結果が出ても診断にはさらなる検査をする必要があります。
超音波検査では、身体を傷つけずに静脈内の血栓を直接描出することができます。さらに、静脈の異常な圧縮率を証明するか、静脈血流の障害を証明することで、血栓を同定することができます。超音波検査は大腿静脈と膝窩静脈の血栓症については感度(正しく陽性と判定する確率)が90%を超え、特異度(正しく陰性と判定する確率)は95%を超えます。
他の画像診断として、造影CT検査はMRV(MR静脈造影)検査も有用です。静脈造影は最も信頼性の高い確定診断の基準検査ですが、身体への負担が大きいため他の画像検査で診断できない場合に適応となります。
治療の目標は以下の3点です。
① 血栓症の進展や再発の予防
② 肺塞栓症(エコノミークラス症候群)の予防
③ 早期と晩期の後遺症の軽減
治療法の中心は、抗凝固薬(血栓の形成を抑え脳梗塞や心筋梗塞などを予防する薬剤)による抗凝固療法です。近年、新しい経口抗凝固薬(直接トロンビン阻害薬、第Xa因子阻害薬)が開発・導入され、大規模臨床試験でDVTに対する有効性が示されています。従来の経口抗凝固薬ワルファリンに比べ頭蓋内出血が少ないことから、その代替薬として期待されています。最低でも3~6カ月間継続して投与する必要がありますが、患者さんの病態を考慮して投与期間を設定することが重要です。
抗凝固薬で最もよくみられる合併症は出血で、生命を脅かす可能性があります。出血の危険因子には以下のものが挙げられます。
出血リスクの高い患者さんには、注意深い観察や抗凝固薬の用量調節が必要です。
DVTは発症後の臨床症状と静脈還流障害から、急性期と慢性期に区別します。
発症早期の症状としては、中枢型では三大症状である腫れ、疼痛、皮膚の色調変化が現れます。末梢型では主に疼痛がみられますが、無症状のことも多いです。急性期の約半分では、症状や所見が認められないとされています。理学的所見では、血栓化静脈の触知や圧痛とともに、浮腫・腫れ、下腿筋(かたいきん=膝から足首にわたる筋肉)の硬化が重要になります。
各種検査の前に深部静脈血栓症の臨床確率を調べる方法として、危険因子や症状所見から点数化する方法があります。血流停滞・凝固亢進・内皮障害といった危険因子に加え、歩行障害・静脈還流障害・循環障害に関連する基礎疾患も考慮されます。代表的なものにWellsスコアがあります。Wellsスコアで臨床確率が低く、Dダイマー検査が陰性であれば、深部静脈血栓症ではないと判断できます。
Wellsスコア(DVT用) |
|
臨床的特徴 | 点数 |
活動性のがん(6カ月以内治療や緩和的治療を含む) | 1 |
完全麻痺、不全麻痺あるいは最近のギプス装着による固定 | 1 |
臥床安静3日以上または12週以内の全身あるいは部分麻酔を伴う手術 | 1 |
下肢深部静脈分布に沿った圧痛 | 1 |
下肢全体の腫脹(腫れ) | 1 |
腓腹部腹部(脛骨粗面の10cm下方)の左右差>3cm | 1 |
症状のある下肢の圧痕性浮腫 | 1 |
表在静脈の側副血行路の発達(静脈瘤ではない) | 1 |
DVTの既往 | 1 |
DVTと同じくらい可能性のある他の診断がある | -2 |
低確率 | 0 |
中確率 | 1~2 |
高確率 | ≧ 3 |
(Wells PS,et al.2006/ 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)より)
早期歩行と積極的な運動
下肢を積極的に動かして歩くことで、下腿のポンプ機能を活性化させて静脈うっ滞を減少させます。早期離床が困難な患者さんでは、下肢を上げたりマッサージをしたりするほか、足関節運動を行なうことも重要です。
弾性ストッキングの使用
下肢を圧迫して静脈の総断面積を減少させることで静脈の血流速度を速め、下肢への静脈うっ滞を減少させます。他の予防法と比較しても、出血などの合併症がなく、簡易で安価というメリットがあります。中リスクの患者さんでは静脈血栓塞栓症の予防効果が認められます。高リスク以上の患者さんでは単独使用での効果は弱いため、入院中は術前術後を問わずリスクが続く限り終日装着することが推奨されます。
間欠的空気圧迫法
下肢に巻いたカフ(圧迫帯)に機器を使って空気を間欠的に送入することで下肢をマッサージし、弾性ストッキングと同様に下肢への静脈うっ滞を減少させます。高リスクでも有意に静脈血栓塞栓症の発生頻度を低下させることが証明され、特に出血の危険が高い場合に有用です。原則として、手術前や手術中から装着を始め、少なくとも十分な歩行ができるまで続けます。
解説:小野 史朗
山口総合病院
副院長
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