2018.07.04 公開
不眠症(ふみんしょう)
Insomnia
解説:古野 拓 (済生会横浜市南部病院 精神科部長)
不眠症はこんな病気
何らかの形で夜に眠り続けることができず、そのために日中にも眠気、倦怠感などの心身の不調をきたし、生活に影響を及ぼすような状態のことをいいます。不眠症には大きく分けて以下4つのパターンがあります。
入眠困難: なかなか寝付けない
中途覚醒: 夜中に何度も目が覚めてしまう
早朝覚醒: 朝早く目が覚めて、その後眠れない
熟眠障害: ぐっすり寝た気がしない
不眠症は一つの「病気」というよりは、さまざまな要因によって結果的に現れた「症候群」と言うべきものです。そのため、「とにかく薬を飲んで眠れるようになれば解決」というわけではなく、まずは背景にある要因について、具体的に検討してみる必要があります。また、不眠の要因は複合的だったり、明確でないことも多いので、一つの「原因」にとらわれたり、治療を始めても「すぐに治らない…」などと結果を急いで焦ったりしないほうがよいでしょう。
不眠症の要因には、次のようなものがあります。
- 心理的なストレス: 喪失体験、対人関係の悩み、仕事上の負担、入院の環境など
- 精神疾患: うつ病、不安障害など
- 加齢: 加齢による睡眠時間の短縮、睡眠構築の悪化など
- 身体疾患: 身体疾患やその治療薬によって痛み・かゆみ・呼吸の苦しさ・頻尿などがみられ、眠りが妨げられる(心不全、肺疾患、がん、アトピー性皮膚炎、神経障害、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など)
- 嗜好品: カフェイン、アルコール、ニコチンなど
- 薬剤: 神経に作用する薬、ホルモン薬、ステロイド薬など
- 生活上の問題: 長時間の昼寝、夜更かし、夜勤による生活リズムの逆転、海外渡航による時差ボケなど
不眠の治療としては、睡眠薬で症状を緩和させる”対症療法”的な治療がありますが、それだけでなく、背景にある要因に合わせた対処法を考えてみるのも大事です。 例えば、生活習慣の問題がある場合は、その改善を心がけましょう。身体疾患の症状が影響している場合は、治療に関して担当科医師に相談をしてみたり、精神疾患を背景としたものであれば、不眠という一症状だけでなく、その他の病状の変化や悩みも含めて担当医に相談してみましょう。飲酒の問題があるならば、ストレス軽減のために周りの人に相談したり、お酒以外のストレス解消法を探したりしてみることが大事です。
早期発見のポイント
「医学解説」でも述べたとおり、不眠はその背景にさまざまな要因がありうるものです。「普段より眠りが悪くなってきたかな」と感じたら、まずはそのきっかけについて振り返り、生活習慣を見直してみましょう。不眠以外の精神的・身体的な変化が生じていないかと振り返ってみることも、要因を探るにあたって参考になります。その上で必要に応じて、身近な人や専門家に相談をしてみるとよいでしょう。
中には不眠を自分で解決しようとして、寝つくためにお酒を飲み始める・飲酒量が増える、という人がいます。しかし、このような方法は不眠(特に中途覚醒や熟眠障害)をかえって悪化させるだけでなく、さらなる心身の不調をもたらすので控えてください。一度、精神科など専門家に相談してみることをお勧めします。
また、実際には眠れているのに「睡眠時間が短いのではないか」「眠れなかったどうしよう」などと過度に気にしてしまう人がいます。しかし、眠り具合は日によっていくらか変動があり、年齢とともに短くなっていくものです。睡眠時間にこだわるあまりに、不安を抱きつつ床に入ると、よけいに眠れなくなる、といった悪循環になりかねません。このような人は、「眠れない日があれば、その次の日は眠れるだろう」「睡眠時間がどうであれ、日中も特に支障なく過ごせていればよしとしよう」などと割り切ることが精神的によい結果をもたらすでしょう。
予防の基礎知識
次に挙げるような日々の生活における心がけが、不眠の予防や改善に有効です。
朝の心がけ
- 朝の起床時刻は一定にする(休日だからといって夜更かし・朝寝坊をしない)
- 朝に太陽の光を浴びる
日中の心がけ
- 昼寝は午後に30分間までにする(午前中や15時以降の昼寝、長時間の昼寝はしない)
- 寝室・ベッドは寝るためだけに使う(ベッドでごろごろしながら過ごすことはしない)
- 適度な運動をする
- 3度の食事は規則正しい時間にとる
- 気分転換・ストレス解消の方法を持つ
寝る前の心がけ
- 床に入る前にリラックスする時間をもうけ、テレビやパソコン・スマホは見すぎないようにする(読書や音楽、ぬるめのお風呂などがお勧めです)
- 眠りやすい環境づくりをする(寝具、明るすぎない照明など)
- 寝るためにお酒を飲まない
- 睡眠時間の長さにはこだわらない
- 眠気がこなければ、一旦布団から出てもよい(眠気が出てからまた布団に入る)
解説:古野 拓
済生会横浜市南部病院
精神科部長
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