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2014.04.30

真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)

cholesteatoma

解説:新田 清一 (宇都宮病院 耳鼻咽喉科診療科長)

真珠腫性中耳炎はこんな病気

真珠腫性中耳炎は、鼓膜の一部の角化(かくか/固くなること)した皮膚が、内部にDebris(デブリ)と呼ばれる剥離物を伴って中耳に侵入し、細菌感染などの炎症を起こしながら、骨など周囲の構造物を破壊して増大する病気です。発生する原因はいまだ解明されていませんが、鼻と中耳の換気を行なっている耳管の機能が悪いことや、中耳のガス交換を担当している乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)の働きが悪いことが関係しているといわれています。耳管の機能やガス交換機能が悪いと、鼓膜が奥に引き込まれて、そこに上皮(皮膚の表面)の剥離物が積み重なって真珠腫が生じるということです。

真珠腫という名称は、その見た目が白くて真珠に似ているところから名付けられました。「腫」という名が付いていますが、真の腫瘍(異常な細胞が増えてできたかたまり)とは異なる、炎症性の腫瘤(できもの)です。
真珠腫の種類には、胎生期(受精してから約10カ月までの期間)に、表皮となる細胞の素である表皮芽の迷入(本来あるべき部位以外に位置すること)により、生まれつき生じている先天性真珠腫と、出生後に生じた後天性真珠腫があります。さらに後天性真珠腫には、鼓膜上方の弛緩部から発生する弛緩部型真珠腫と、鼓膜緊張部の後上部から発生する緊張部型真珠腫があり、まれなものとして、穿孔(穴があいた状態)の縁から発生する二次性真珠腫があります。頻度として最も高いのは、弛緩部型真珠腫です。

真珠腫性中耳炎は先に述べたように、骨を壊して進む病気です。耳の奥には、脳やバランスの神経(半規管、前庭)、聞こえの神経(蝸牛)、味覚の神経(鼓索神経/こさくしんけい)、顔を動かす神経(顔面神経)などの大事な神経がたくさんあります。真珠腫を放っておくと、そのような神経に障害を及ぼすために非常に危険です。真珠腫と診断された場合は、すぐに治療をしてもらいましょう。

耳の構造

真珠腫性中耳炎の治療法

真珠腫の進み具合によりますが、治療効果のある薬物がないために、基本的には手術を行ないます。手術は入院して全身麻酔で行なうことが一般的です。鼓室形成術、乳突削開術(にゅうとつさっかいじゅつ)という手術を行なうことが多いです。真珠腫は手術を行なっても再発することが少なくなく、その再発を防ぐ方法はいまだ確立されていません。各施設で、再発予防のためにさまざまな工夫をしているのが現状です。手術後には再発の有無を観察するために、長期間の経過観察が必要となります。
まだ真珠腫が進んでいない早期の場合には、外来の治療で真珠腫を除去することが可能なことがあります。

早期発見のポイント

真珠腫性中耳炎では、以下のような症状がみられます。

・耳の痛み、圧迫感
・耳から膿が出る(耳だれ)
・耳から出血する(耳出血)
・聞こえが悪くなる(難聴)

また、まれにですが、以下のような症状もみられます。

めまい
・片方の顔の動きが悪くなる(顔面神経麻痺)
・味覚がおかしくなる
・強い頭痛発熱

このような症状は、急性中耳炎や慢性穿孔性中耳炎(鼓膜に穴があいている中耳炎)でも起こる可能性があります。いずれにしろ上記の症状がある場合は、すぐに耳鼻咽喉科を受診して診断してもらいましょう。特殊な状態でない限り、耳鼻咽喉科医が鼓膜をみることで診断が可能です。

先天性真珠腫の場合は、上記のような症状がなく、耳鼻咽喉科で鼓膜をみてもらったときに偶然発見される場合が少なくありません。特にお子さんが健康診断などで異常を指摘されて、耳鼻咽喉科を受診して発見されることもあります。耳鼻咽喉科検診などで耳の異常を指摘された場合は、必ず病院の耳鼻咽喉科を受診しましょう。

予防の基礎知識

幼少時に急性中耳炎滲出性中耳炎を繰り返し発症した人が、真珠腫性中耳炎になりやすいといわれています。急性中耳炎や滲出性中耳炎になった場合は、医療機関を継続的に通院して、しっかり治すことが第一の予防となります。また、鼻をすすることが真珠腫を生じさせる一つの原因といわれているので、鼻をすする癖がある人は止めましょう。

真珠腫性中耳炎になってしまった患者さんの場合、風邪などにかかると鼻やのどの炎症が生じて、さらに耳にも感染が及んで真珠腫が悪化することがあります。その場合は、耳だれが出る、耳から血が出る、聞こえづらさが悪化する、耳が痛いなどの症状が出ることが多いので、そのようなときはすぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。悪化させない予防策として、定期的に耳鼻咽喉科へ通院することが大事となってきます。

新田 清一

解説:新田 清一
宇都宮病院
耳鼻咽喉科診療科長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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