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2022.02.22

鼓膜穿孔 (こまくせんこう)

perforation of tympanic membrane

解説:小田 直治 (境港総合病院 耳鼻咽喉科部長)

鼓膜穿孔はこんな状態

鼓膜は耳の奥にあり、中耳と外耳を隔てている薄い膜です。ここに外耳道を通ってきた音波が当たって震え、耳小骨を介してその振動が中耳から内耳に伝えられます。そして、内耳の蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変換され、聴神経を経て脳に送られることで、私たちは「音が聞こえる」と認識します。

音が聞こえるしくみ

中耳炎などで鼓膜に炎症が起こると、その一部に穴が開くことがあります。また、耳かきや平手打ちなどの外傷によっても鼓膜に穴が開きます。このようにして鼓膜に穴が開いた状態を鼓膜穿孔(こまくせんこう)といいます。
小さい穴であれば鼓膜は自然に再生しますが、大きな穴であったり、繰り返し穴が開いたりすると、再生できなくなり穴が開いたままになります。

鼓膜に穴が開くと音がうまく伝わらないため、聞こえが悪くなります(難聴)。中耳炎などにかかると中耳の膿(うみ)が鼓膜の穴を通して外耳に流れ出るので、耳の穴から膿が出てきます。水泳などで耳に水が入ったりすると簡単に中耳まで到達するため、中耳炎を繰り返しやすくなります。

鼓膜穿孔の検査・診断

鼓膜穿孔があるかどうかは、耳鼻科医が鼓膜の状態をみることですぐに分かります。耳の穴をのぞくだけのごく簡単な検査で診断でき、痛みなども全くありません。

鼓膜穿孔の治療法

鼓膜穿孔は皮下組織などを使って手術でふさぐことができます。穴が開いている位置や大きさによりますが、耳の後ろをわずかに切開して皮下組織を採取し、耳の穴から挿入して穿孔をふさぐ簡単な日帰り手術で治療できることもあります。近年ではゼラチンスポンジと組織成長因子製剤(特定の細胞の増殖や分化を促すタンパク質)を使って鼓膜を再生する、さらに簡単な治療法が行なわれています。大きい穿孔や難しい位置の穿孔では入院手術が必要になります。

小児によくみられる急性中耳炎では、増悪すると鼓膜に小さい穴が開いて耳漏(じろう=耳から液が出ること、耳だれ)を生じることがあります。小さい穴は自然に再生してふさがりますが、耳漏がみられる場合は穴が開いていると考えられ、何らかの治療をする必要があります。特に何度も穿孔を繰り返す場合は、再生できなくなっている可能性がありますので耳鼻咽喉科を受診してください。

高齢者では、若い頃に中耳炎などで聞こえが悪くなったまま放置されているケースも珍しくありません。まだ医療体制が不十分だった時代に成長期を過ごしており、専門科の受診が困難で正確に診断されていなかったり、不適切な治療を受けていたりする可能性があります。そのため、鼓膜穿孔ができて難聴になっていることがあります。

風邪をひいたときなどに時々耳から膿が出てくる、水泳の後に中耳炎になりやすいという場合、鼓膜穿孔が疑われます。また、耳かきを耳の奥深くまで入れてしまった、平手打ちを受けた後などに聞こえが悪くなった場合も、穴が開いている可能性が高いです。
中耳炎や外傷による鼓膜穿孔は通常、痛みを伴うため放置する人は少ないと思われますが、痛みと難聴がある場合など、疑わしい症状があればまずは耳鼻咽喉科を受診してください。ごく簡単な検査で診断することが可能です。

鼓膜穿孔の主な原因として急性中耳炎が挙げられます。急性中耳炎は風邪をひいて鼻水をすすり上げるなどしたときにも発症しますので、風邪をひかないようにすること、鼻水が出るのを放置したりすすり上げたりしないことが重要です。小さいお子さんで鼻がかめない場合は、保護者が鼻水を吸い取るなどして中耳炎を予防することが鼓膜穿孔の予防になります。
耳の外傷は、ほとんどが耳かきと平手打ちによるものです。耳かきは東アジアの文化的行為であり、医学的には必要ありません。過剰な耳かきは外傷以外にもさまざまな病気の原因になりますので、安全に実施できないのであればやめましょう。

解説:小田 直治

解説:小田 直治
境港総合病院
耳鼻咽喉科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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