済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2014.05.07
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺炎や敗血症などがきっかけとなって、重症の呼吸不全をきたす病気です。さまざまな原因によって肺の血管透過性(血液中の成分が血管を通り抜けること)が進行した結果、血液中の成分が肺胞腔内に移動して肺水腫を起こします。
1967年に12例の呼吸不全として初めて報告されましたが、その内訳は重症外傷7例(そのうち肺挫傷が5例)、ウイルス性肺炎4例、急性すい炎1例と、いろいろな病気が原因となっていました。現在この病気の原因は、直接肺を障害するものと、間接的に肺を障害するものに大別されます。直接肺を障害するものとして、肺炎や胃酸の誤嚥(ごえん/食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと)、肺挫傷、溺水(できすい)などが挙げられ、間接的に肺を障害するものとして、敗血症や重症な外傷、大量輸血などが挙げられます。
アメリカからの報告では、10万人あたり50~80人程度の発症頻度とされており、決して珍しい病気ではありません。原因ごとに、どのくらいこの病気になるか調べられていますが、敗血症の場合は約40%、外傷後の場合は約25%、胃酸の誤嚥後の場合は約20~30%と報告されています。死亡率は治療の進歩によって以前より低下したものの、現在でも30~40%、もしくはそれ以上と考えられています。
まず原因疾患の治療が最優先ですが、さまざまな疾患から発症するために病態(病気の状態)が複雑であり、根本的な治療法がありません。肺炎や敗血症に対する適切な抗生物質を服用することは当然欠かせませんが、人工呼吸管理、薬物療法、全身管理を含め、複数の治療法を組み合わせた治療が必要です。
治療法については人工呼吸管理法と薬物療法に大別されます。人工呼吸管理法としては、肺保護戦略(肺にやさしい治療法)として、少ない一回換気量(一回の呼吸で出入りする空気の量)で呼吸管理を行なう「低用量換気法」が推奨されています。そのほかにも、さまざまな換気方法や体外式肺補助装置(ECMO)の装着が試みられています。また、集中治療室で行なわれる方法ですが、人工呼吸管理下でうつ伏せに体位変換を行なう腹臥位換気法(ふくがいかんきほう)も有効であるとされています。
薬物療法として、単独で病状を改善させる薬剤は存在しませんが、個々の病態に応じて一酸化窒素吸入、ステロイドホルモンや好中球エラスターゼ阻害薬の使用、血液を固まりにくくする薬物を使用する抗凝固療法などを選択して治療を行ないます。
下記の症状が見られると、この病気と診断されます。
1 原因となる疾患の存在
2 1週間以内の急性発症
3 胸部画像で左右両側に陰影が見られる
4 心不全では説明できない症状がある
5 体内の酸素が低下している
さらに、呼吸困難や呼吸不全をきたす心不全や肺血栓塞栓症などと、間質性肺炎やアレルギー・免疫学的なものが原因による肺病変ではないと判断するために、さまざまな検査(血液検査、心エコー、胸部CTなど)が必要です。
救急外来や入院診療中に診断されることが多いですが、決してまれな病気ではないため、原因となる疾患をいち早く診断してその程度を把握すること、さらに経過中にこの病気に至ることがあるので、その点を念頭に置いて注意深く経過をみていくことが早期発見に役立ちます。一見呼吸器の病気と関係のない敗血症や輸血、すい炎などからも生じるため、頻呼吸、発熱、息苦しさなどの症状に注意することが重要です。
自宅での判断は非常に難しいため、発熱やせき、痰、息苦しさ、頻呼吸、誤嚥などの症状が生じた場合には、早めに病院を受診して相談するようにしてください。
急性呼吸窮迫症候群はここまで述べたように原因疾患がたくさんあります。肺炎や胃酸の誤嚥、敗血症、多発外傷、急性すい炎、輸血、脂肪塞栓(脂肪細胞が血管を詰まらせる状態)、溺水、刺激性ガスの吸入、心肺バイパス(人工心肺を用いること)、血液製剤投与などさまざまであり、予防できないものも多く含まれます。
かぜや肺炎にかからぬようにワクチン接種を行なったり、嚥下機能(えんげきのう/食物を飲み込み、食道を経て胃に送る機能)に問題のある方は、誤嚥に気をつけることが大切です。また禁煙は基本的な習慣として重要でしょう。
解説:黄 英文
宇都宮病院
呼吸器内科診療科長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。