済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2015.06.26
MERS(中東呼吸器症候群)は、MERSコロナウイルスによって引き起こされる感染症で、2012年に初めて確認されました。2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因となったウイルスも、このコロナウイルスの仲間になります。
現在、韓国でMERSが流行していますが、感染患者から発見されたMERSコロナウイルスと同じウイルスが中東のラクダから確認されており、ラクダが感染源の一つと考えられています。
韓国で発生しているMERSは、医療機関における患者間、患者と医療従事者間での濃厚接触(2メートル以内で会話、診療行為、寝食をともにする状況等)による飛沫感染(咳やくしゃみ)を中心に感染が広がっています。
MERSに感染すると、2週間以内の潜伏期間を経て、風邪に似た症状が現れます。主な症状は、発熱、くしゃみ、咳、呼吸困難などで、下痢などの症状を伴うこともあります。感染しても症状のない不顕性感染例や軽症例もあります。
高齢者、慢性呼吸器疾患、糖尿病、がんなどの基礎疾患のある人、免疫力が低い人は重症化しやすく、肺炎を起こしやすくなります。
MERS患者の発生が報告されている地域(中東や韓国など)に旅行し、現地の人と濃厚接触したケースで、帰国後14日以内に発熱や咳などの症状が見られた場合は、MERSに感染している疑いがあります。すぐに医療機関等で受診するようにしましょう。
MERSの感染力は、同じコロナウイルスによって発症するSARSと同様に、発病初期は弱く、重症化して肺炎等を併発するようになって強くなっていくと考えられます。感染力はそれほど強くはなく、実際に中東や韓国国内でも、市中で感染した例がほとんどみられないのにもかかわらず、医療機関の中では、感染対策が適切ではない場合に、1人の発病者から驚くほどたくさんの人に感染させている例が散見されているのはこのためであると思われます。したがって、重症化する前に病院で診断してもらい、適切な処置を受けることが、MERSの流行を食い止めるうえでも重要になります。
MERSは患者と直接接触したり、あるいは患者が発生している医療機関を訪ねたりしなければ、例え日本国内で患者が発生したとしても、そう簡単に感染する機会はないといっていいでしょう。
この感染症の対策にとって大切なことは、万が一自分が発病してしまったと思われるときに、周りの人に感染させないようにすることです。そのためには厚生労働省が通知しているように、「中東や韓国から帰国して2週間以内に発熱や咳などの症状が出た場合にはすぐに医療機関には行かずに、保健所や検疫所に電話する」ことも大切です。
また、普段から咳エチケット(咳やくしゃみを他の人に向けて発しない、咳やくしゃみが出る時はティッシュやハンカチで口を覆う、そしてそのような時はあらかじめマスクを装着しておく)を心がけておくことも重要です。
MERSの感染経路は何も特別なものではなく、咳やくしゃみ、会話等で口から発せられる小さな水滴(飛沫)を浴びて吸い込むことによって起こる飛沫感染であり、他の感冒やインフルエンザ等の飛沫感染する感染症と同じです。この飛沫感染は、周囲の人を思いやる咳エチケットが一番の感染対策となるということを理解してください。
新しい感染症が発生すると、不安感が先に立って、効果的な対策よりも、より安心感の高まる対策に力を入れてしまう事が度々あります。韓国でのMERS流行では、発病者のほとんどが成人で、小児での感染発症例がないにも関わらず、学校を閉鎖し、後にWHO(世界保健機関)から学校を再開するよう勧告されました。このようなときに一番大切なことは、その感染症についての正しい情報を、正しく理解することです。
新しくて、見たことも聞いたこともない感染症が発生し、日本に入ってくるとなったら怖くない人は誰もいないと思います。怖がり過ぎたり、怖がらな過ぎたりする光景は、2009年の新型インフルエンザの流行時にも目についたのですが、このようなときこそ、正しい情報を入手し、正しく理解して、「正しく怖がる」ことが本当に重要になります。
解説:安井 良則
中津病院
臨床教育部長・感染管理室室長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。