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2022.05.02
SGAとは、「Small for Gestational Age」の略で、母胎にいる期間(在胎週数)に応じた標準の身長・体重に比べて、小さく生まれることを指します。同じ性別・在胎週数の赤ちゃん100人で比べたとき、身長と体重が小さい方から10番目以内に入るとSGA児と呼ばれます。
SGAの原因は主に胎児の栄養障害によって生じた胎児発育不全と考えられますが、栄養障害の要因としては、
①母体側の要因(母親の糖尿病、循環器疾患など)
②妊娠に関わる要因(生殖補助医療による妊娠、妊娠高血圧、覚醒剤などの薬物使用、飲酒および喫煙など)
③胎児側の要因(ジカウイルス感染などの感染症、染色体異常、遺伝子異常など)
があります。
SGA児のうち90%は生後2〜3歳で標準的な身長に追いつきますが、約10%は追いつくことができず低身長のままです。このような状態をSGA性低身長症といいます。
SGA児が3歳以降も低身長であればSGA性低身長症と診断されますが、上述のように原因は単一ではなく、原因によって多様な症状を現します。
未熟児の場合は、仮死や呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん=出生後に肺がうまく膨らまない状態)の発症も多いので、それによる後遺障害が続いている場合もあります。
発育不全は「対称性」と「非対称性」に分けることができます。
・対称性:頭も身体の各部位も同じように小さい
・非対称性:頭部は在胎期間相当の発育をしているのに対し、身体が小さくなる
対称性は妊娠の比較的早い時期に異常が生じたと考えられるため、胎児の全身に影響を及ぼしている可能性があります。そのため、通常の成長発達をする可能性が低いとされています。
出生時の状況と現在の低身長の程度で容易に診断できますが、治療適応の判定には正確な身体計測や各種検査が必要となります。
治療の対象となるのは、出生後の成長障害が「子宮内発育遅延以外の疾患等(先天性の骨疾患、染色体異常などの先天異常)」には起因しない患者さんです。というのも、先天異常によるものなど成長障害の原因が明らかな場合には治療の対象とはならないためです。
身体計測では、先天的な骨疾患がないか、手足の長さが身長に比べて短過ぎたり長過ぎたりしていないかを計測します。また、生後の栄養障害や甲状腺機能低下症など、低身長を引き起こす他の病気がないかも検査します。
特に未熟児では、出産時のストレスのために成長ホルモンなどを分泌する脳下垂体に障害がある場合もあり、成長ホルモンの分泌を調べる検査は必須です。
健康保険で成長ホルモン治療を行なうことができるのは以下のすべてを満たす場合です。
■ 出産時の体重と身長がSGAの条件を満たしている
■ 出産時の身長と体重のどちらか一方が、100人中小さい方から5番目以内である
■ 3歳以降の身長が、平均値との差を表すSD(標準偏差)で−2.5SD未満(100人中小さい方から2番目以内)である
成長ホルモンの投与量は、成長ホルモンが不足して起きる成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療で使用する量の1.5倍から開始して、薬の効き方によって2.5倍まで増量することができます。
遺伝的な成人身長は、両親の身長から予測することができます。成長ホルモン治療を適切に行なうことによって、98%の人はこの予測身長に到達できるという報告があります。
なお、成長曲線(身長や体重などを年齢別にグラフ化したもの)の記録から、身長が平均値からどのくらい離れているか分かります。
小さく生まれた子どもが3歳健診時に低身長を指摘された場合には、専門医に相談することをお勧めします。出生身長や出生体重、在胎期間から成長ホルモン治療の適応となるかどうかを産科退院時や1カ月健診時に教えてくれる医療機関もあります。
なお、成長ホルモン治療が適応にならない場合でも、SGAで出生した子どもの場合は幼児期以降も成長曲線を作成し、成長を慎重に見守る必要があります。
3歳以降に成長曲線が標準の曲線からじわじわ離れていく場合には、成長ホルモン分泌不全など他の疾患を合併している可能性もあります。また、SGA出生の子どもは低身長で思春期に入る傾向がある上、思春期の間に身長の伸びが少ない傾向もあり、成人身長が低くなってしまうことがあります。成長曲線を作成して早期に発見することにより、こうした状況に対して適した治療を行なうことができます。
SGAの原因はさまざまですが、予防できるものもあります。
① 母体側の要因(母親の糖尿病、循環器疾患など):母体に基礎疾患があっても、しっかり体調管理をすることで、SGA出生のリスクは下がります。
② 妊娠に関わる要因(生殖補助医療による妊娠、妊娠高血圧、覚醒剤などの薬物使用、飲酒および喫煙など):飲酒と喫煙の禁止はSGA出生リスクを低下させます。特に妊婦の喫煙とSGAの関連には非常に多くの報告があるため、妊娠中は禁煙しましょう。
解説:田中 弘之
岡山済生会総合病院
小児科 診療顧問
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