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2020.10.14
近年、子どもの身長が低い、あるいは身長が伸びないと保護者が心配して小児科を受診するケースが増えています。保健センター、保育園・幼稚園、小学校などからのすすめで受診するケースも多いです。これらを詳しく調べると、成長ホルモンが十分出ていないために身長が伸びていない場合があります。この病気を成長ホルモン分泌不全性低身長症といいます。かつては「下垂体性小人症」と呼ばれていましたが、この病名は現在は使われていません。
成長ホルモンは、脳の奥の下垂体と呼ばれる親指の先くらいの大きさの部分から分泌され、肝臓や骨にはたらいて身長を伸ばします。低身長の原因は、両親の身長が低いなどの体質によるものが約70%を占めます。その他の原因は、脳腫瘍、クッシング症候群、骨・軟骨の病気、慢性腎不全、甲状腺機能の低下、栄養不足、心理社会的な原因、ステロイド剤の長期内服などさまざまで、成長ホルモン不足によるものはわずか10%にすぎません。他の下垂体ホルモンの低下が複合することもあります。
身長が低い、身長が伸びないといった症状がみられます。出生時はそれほど低身長ではなく、年齢とともに標準から離れていきます。また、患者さんは年齢よりも顔つきが幼く、手足と身体の均整はとれているという特徴があります。
身長が標準からどのくらい離れているかをみる指標として、2000年の日本の小児の年齢・性別ごとのデータを用いた、SD(標準偏差)スコアが使われます。SDスコアは、以下の数式で求められます。
身長SDスコア=(現在の身長-標準身長)÷SD
低身長と定義されるのは、SDスコアが-2.0SD未満のときです。
器質的な(体のどこかにはっきりと異常が認められる)病気のために成長ホルモンが不足する場合は、低身長以外にその病気特有の症状があります。脳腫瘍であれば、頭痛、吐き気、けいれん、視力低下、視野狭窄などの症状が発見のきっかけになることがあります。年間の身長増加が年齢・性別ごとの基準より-1.5SD未満の状態が2年以上続く場合も、成長ホルモン分泌低下が疑われます。
出生時の状況(母子手帳で確認)、両親の身長データが必要です。まず、外来で、出生時からの身長・体重のデータを確認し、成長曲線を作成します。そのため、母子手帳や、保育園・幼稚園・学校などの身長・体重計測記録の持参をおすすめします。成長曲線を作成することで、低身長の原因をおおまかに推定することが可能です。
一般検査として、血液検査、尿検査、骨年齢検査(手のX線)などを行ないます。この病気では、骨年齢が実年齢より低くなります。必要に応じて、脳下垂体を詳しくみるため、頭部のCT検査またはMRI検査を施行します。これにより、脳腫瘍などの異常が発見されることがあります。なお、MRI検査を行なう場合、年少児では眠らせる処置が必要なことがあります。女子では、ターナー症候群と呼ばれる生まれつきの染色体の異常を否定するために、採血で染色体検査を行なうこともあります。
脳下垂体から成長ホルモンが十分出ているかを調べるためには、まず血液検査でソマトメジンC(成長にかかわるタンパク質)の量を測定します。基準以下の低値であれば、成長ホルモン分泌刺激負荷試験を行なうことがあります。さまざまな検査方法がありますが、点滴をして、飲み薬または注射の検査薬を投与し、多くは2時間かけて30分毎に1回、計5回採血します。点滴ルートの途中から採血するので痛みはありません。2種類以上の負荷検査で、成長ホルモンの値が基準値以下であれば、成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されます。
成長ホルモンは、以前はなかなか手に入りませんでしたが、約30年前から遺伝子工学の発達によって安全に十分な供給が可能になり、低身長をきたす多くの病気の治療が可能になってきています。重症の場合、生活習慣病の予防や生活の質向上のため、成人になっても少量の補充療法を続けることがあります。
治療は、1日1回(週6~7回)、入浴後・就寝前に、成長ホルモンを臀部、腹部、太もも、上腕のいずれかに、ペン型の専用注射器で皮下注射します。毎日受診することは難しいため、在宅自己注射の指導を受けていただき、自宅で家族が患児の臀部に注射することが多いです。小学校高学年になれば自己注射も可能です。注射部位の発赤、股関節や膝の痛みなどの副反応が見られることがあります。まれですが血糖値の上昇、糖尿病の報告もあります。以前、白血病発生の危険が報告されたことがありましたが、現在は成長ホルモンが原因ではないと考えられています。
定期的に検査を受け、安全に治療を続けることが必要です。発熱があるなど体調の悪いときや、2~3日の旅行で、注射を一時中止することもできます。主治医の指示にしたがってください。経過中、甲状腺ホルモンが低下することがあり、その場合は甲状腺ホルモン内服を併用します。成長ホルモン治療は比較的高額な治療となるため、小児慢性特定疾病の医療費助成制度がありますが、助成を受けられる身長の基準は-2.5SD未満と、やや厳しいです。
現在の身長が-2.0SDより小さいかどうか計算してみてください。成長の記録(母子手帳、保育園や学校の身体測定記録)を集めて、受診の際に持参するか、可能ならば成長曲線をつけてみましょう。身長が標準から次第に離れて、年間身長増加4cm台以下が続くようなら、成長ホルモン分泌の低下が疑われます。低身長の定義に当てはまらなくても、年間の身長の伸びが急に止まってきた場合は、受診が必要です。成長ホルモン治療ができるのは、骨端線(成長期の骨の端にある軟骨層)が閉鎖するまでの期間ですので、できるだけ早期に発見し、早期に治療することが最終身長を伸ばすことにつながります。3歳児健診から小学校入学前までに受診することをおすすめします。
原因不明の場合、予防はできませんが、低身長や成長率の低下があれば、なるべく早めに医療機関に相談しましょう。骨端線が閉じてしまえば、身長は伸びません。個人差はありますが、女子では15歳、男子では17歳くらいで骨端線は閉鎖します。この病気であれば、なるべく早期に成長ホルモンの不足を補い、根気よく治療を続けることで、最終身長を標準に近づけることが期待できます。注射をする・しないにかかわらず、以下の4点が大変重要です。
・バランスのとれた栄養摂取(タンパク質をしっかり摂りましょう)
・規則正しい生活
・十分な質のよい睡眠(夜間に1日の70%の成長ホルモンが分泌されます)
・適度な運動(成長ホルモン分泌が増えます)
解説:中司 謙二
豊浦病院
院長・小児科科長
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