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2020.09.02

破傷風

tetanus

解説:久保園 高明 (鹿児島病院 院長)

破傷風はこんな病気

破傷風は、破傷風菌によって引き起こされる感染症です。開口障害(口が開けにくくなること)、嚥下(えんげ)障害(食べ物が飲みこみにくくなること)、手足がしびれる・引きつるといった症状がみられ、さらには全身のけいれんや呼吸障害などに陥ります。 
主に不潔な状態の深い刺し傷から菌が侵入して感染しますが、小さな傷や、やけどなども原因となり、発症すると重症化することが多いです。近年では1年間に120例程度の報告があり、中高年の人の発症頻度が高いです。

破傷風の原因

破傷風菌は世界中の土壌などに「芽胞(がほう)」と呼ばれる硬い殻をかぶった状態で存在しています。この芽胞が傷口から体内に入ると、増殖していく際に毒素を産生します。これが全身に広がり、脳や神経に障害をもたらすことによって、さまざまな症状を引き起こすのです。破傷風菌の感染の原因となる傷は、通常のけがだけでなく、動物に噛まれた傷や、やけど、凍傷などの場合もあります。破傷風菌の芽胞は土壌のほか、人や家畜の便の中などにも存在しており、日常生活を送る中で破傷風菌に全く触れずに生活することは難しいとされています。

破傷風の症状

破傷風の潜伏期間は3~21日程度で、最初は、開口障害、嚥下障害、首筋の筋肉が張るなどの症状が出現します。その後、開口障害が強くなり、顔の筋肉がこわばり、破傷風顔貌(はしょうふうがんぼう=苦笑したときのような引きつった表情)となります。さらに、腕や身体の大きな筋肉のけいれんがみられるようになり、重症化すると、身体が後ろにのけぞるような全身のけいれん発作が起こります。このような状態でも、意識ははっきりとしていることが多いようです。こうした症状と並行して、自律神経系の異常がみられ、重症になると、呼吸ができなくなったり、血圧や心拍数が急激に変化して突然心停止になったりすることもあります。

破傷風の診断・検査

上記のように症状が特徴的であるため、けがなどの既往歴や、開口障害とその後のけいれんなどの症状・経過から診断を行ない、治療を開始します。傷口から菌を採取して培養して調べることもしますが、破傷風菌の分離・培養は難しく、実際に破傷風であっても、破傷風菌が検出される可能性は低いです。

破傷風の治療法

まず、感染の原因となった傷口を十分に洗浄し、不潔な組織を取り除きます。そして、主な治療として、血液中の破傷風の毒素を中和するために抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)という薬剤を投与します。また、破傷風菌自体を除去する目的でペニシリンなどの抗菌薬、毒素を中和する抗体を作る目的で破傷風のワクチン(破傷風トキソイド)を投与します。
重症化した場合は集中治療室(ICU)での全身管理が必要となります。けいれん発作から呼吸困難を起こす可能性があるため、抗けいれん薬の投与や人工呼吸器の使用とともに、血圧や心拍数などの管理を行ないます。

破傷風に特徴的な症状である開口障害や嚥下障害を感じたときに、この病気を疑うことが最も大切です。このような症状が現れる前にけがややけどをしていれば、破傷風の可能性が高くなりますが、けががはっきりしなくても破傷風を発症することがあります。

このような症状がみられたら、早めにかかりつけ医か外科を受診してください。医師は詳しく病歴を聞いたのちに、口の開き具合などを診察し、破傷風についての診断をします。血液検査や傷口の細菌培養検査などで破傷風であることを証明できる確率は低く、時間がかかるため、病歴や症状が早期発見のポイントとなります。

破傷風菌は世界中のどこにでもいる菌であり、破傷風は誰でもかかる可能性がある病気です。けがややけどをしないように気をつけることと予防接種が重要です。
日本では、破傷風の予防接種(破傷風トキソイド)は幼少期の定期接種に含まれています。1968年から三種混合ワクチン(DPT:ジフテリア、百日咳、破傷風)の接種が行なわれ、2012年11月からは、四種混合ワクチン(DPT-IPV:三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチンを加えたもの)が導入されました。このワクチンは、生後3カ月から1歳までの間に3週から8週あけて3回、さらに初回接種後1年から1年6カ月後に1回接種します。また、11歳から12歳で二種混合ワクチン(DT:ジフテリア、破傷風)も接種するので、破傷風トキソイドは合計5回接種することになっています。さらに可能なら、以後10年ごとの追加接種が望まれます。
1968年より前に生まれた中高年の人は、今までに1回も破傷風トキソイドを接種していないことが多く、発症するリスクが高いです。この世代の人はご自身で医療機関に相談して、破傷風トキソイドを接種することをお勧めします。

解説:久保園 高明

解説:久保園 高明
鹿児島病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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