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漢方は、古代中国から伝来した医学をもとに、日本の気候や日本人の体質などに合わせて、独自の伝統医学として発展したものです。現代医療の現場でも、漢方医学や漢方薬は用いられています。今回は済生会栗橋病院にある漢方内科の山﨑麻由子先生に冬バテの原因や対策法について聞きました。
冬は寒さによって、身体のバランスが崩れやすくなる季節です。だるさを感じたり、疲れがとれなかったりなどの体調不良は「冬バテ」とも呼ばれ、夏バテと同様に気候が原因となって、自律神経がバランスを崩すことで起こるとされています。
自律神経とは、交感神経と副交感神経の2種類があり、呼吸や血流、消化吸収、体温調節など、身体のバランスを保つ役割を担っている神経です。これらの調節は意識的ではなく、無意識化で行なわれることから「自律神経」という名前がつけられました。一般的に、緊張しているときや、身体を活発に動かしているときは交感神経が、リラックスしているときは副交感神経が活発になります。2つの神経がバランスをとることで、健康な状態が保たれています。
交感神経 | 副交感神経 | ||
---|---|---|---|
活動モード | 休息モード | ||
脈拍が早くなる | 心臓 | 脈拍が遅くなる | |
収縮する | 末梢血管 | 拡張する | |
上昇する | 血圧 | 低下する | |
拡大する | 瞳孔 | 縮小する | |
動きが鈍くなる | 腸管 | 活発に動く | |
気管支が緩む | 気道 | 気管支が収縮する |
漢方の世界で冬は「閉蔵」といい、万物が納まり隠れるときです。人もこれにしたがって、内臓を養い、よく眠り、あたたかくして、元気を逃がさないよう春に備えることが大切だと考えられています。
ストレスの多い現代社会では、常に交感神経が優位の生活を送る人が増えています。特に冬は寒さに加えて、年末年始の多忙によるストレスや睡眠不足、さらに忘年会・新年会などで胃腸にも負担がかかり、不調をきたすことがあります。冬の気候だけではなく、このような生活習慣も冬バテの原因の一つです。
冬バテは、西洋医学的には検査結果に異常がなく、病名としての診断はつきません。しかし、漢方では「未病」といって、病気の前段階ととらえ、この段階での対策が重要と考えられています。
「未病」の対策には、自律神経を整え、養生することが大切です。養生とは、日々の生活に注意して、健康の増進を目指すことです。薬やサプリメントに頼るのではなく、まずは自分の生活を見直してみましょう。そうすることによって、環境などの変化に負けない心と身体を作ることができます。大切なことは、①食事、②睡眠、③運動です。
「いま、自分の身体はどういう状態なのか」を知ることから養生は始まります。例えば、近年「腸の状態を整えるためにヨーグルトを食べること」が良いとされています。しかし、実際にはもともと胃腸が弱く、日々ヨーグルトを食べることが原因でかえってお腹を冷やしてしまい、体調を崩している人が多くいます。もちろん、腸の状態が改善される人もいるでしょう。その取り組みが自分に合っているのかを、しっかりと見極めることが大事です。
また、日々の生活から離れて、自然の中に身をゆだねてみるのもオススメです。医学の父と呼ばれるヒポクラテスは「人は自然から遠ざかると病気に近づく」という言葉を残しています。時には都会のけん騒を忘れ、森の中や自然豊かなところを散策するのもいいでしょう。陽気がいいときには、裸足になって土の上を歩いてみるのもいいと思います。
みなさんは「時間がきたから食事をとる」「お腹がすいたから食事をとる」のどちらでしょうか。「時間がきたから食事をとる」という方は、空腹を感じないままに食事を続けることで、本来身体が欲していない食事をし、胃腸に負荷をかけている可能性があります。また、夕食の量が多すぎたり、食べる時間が遅いなどの理由で、胃腸に負担がかかっていることもあります。前日に食べすぎて空腹を感じない場合などは、一食抜いて胃腸を休めてあげてもいいでしょう。飲酒をする機会が多い場合は、身体を冷やさないよう、ホットワインや熱燗、梅酒や焼酎のお湯割りを選択してみてもいいかもしれません。
睡眠は、漢方でいう「氣」(エネルギーや元気)を養うための重要な行為です。眠りの質が悪いと十分な機能が発揮できない上に、疲れやすい、だるいなどさまざまな不調が起こり、集中力や注意力も低下してしまいます。不眠の原因は、ストレス、生活リズムの乱れ、寝る環境の問題などがあります。身体が睡眠に向かっていけるように、交感神経を活発にさせるスマートフォンやゲームは極力避け、副交感神経のはたらきを優位にすることが大切です。身体が温まると副交感神経が優位になるため、お風呂はシャワーで済ませるのではなく、湯船につかって身体を温め、リラックスするように心がけましょう。足が冷える場合は、締め付けの少ない靴下、湯たんぽなどもお勧めです。
自律神経を鍛えて、氣のめぐりをよくするためには運動が重要です。個人の運動習慣や身体の状態に合わせて行ないます。目安としては、軽く汗をかく程度のもので、週1回でも続けていけるものがいいでしょう。急な運動はケガのもとにもなるので、運動習慣が全くない人は、ストレッチをするところからはじめてみてください。ストレッチや運動をするときに腹式呼吸を取り入れることで、副交感神経のはたらを優位にすることもできます。
なんとなく不調を感じる人こそ、漢方内科へ
患者さんの心情としては、漠然と体調が悪いくらいでは医者にかかることに抵抗があると思います。しかし、漢方内科ではむしろそういった「検査では異常が出ないが、漠然とした体調不良」を感じている人を診ることを得意としています。患者さん自身の感覚と、個人の身体の特徴を重視して問診し、おなかに触れ、舌の状態を見て、脈をとるなど、それぞれの症状がどんなタイプか判断し、漢方薬を処方します。その後、自身にどんな変化があったか教えてもらいます。「私はストレスがたまってくると過食になって体調が悪くなる」など、自分について発見してもらうことが大切です。検査で異常がなくても不調を感じている方は、ぜひ一度漢方内科を受診してみましょう。
解説:山﨑 麻由子
埼玉県済生会栗橋病院
漢方内科科長