冬は手先が荒れやすい季節。いつの間にかあかぎれになっていて、痛みやかゆみに悩む人が増えます。手荒れはなぜ、冬にひどくなりやすいのでしょうか。皮膚の構造から解説し、予防法も紹介します。
なぜ手は荒れるのか
皮膚の最表層には皮脂膜(皮脂と汗が混ざった膜)で覆われている角質層があります。角質層には角質細胞間を埋める脂質や天然保湿因子などが含まれており、それらが水分を保持することで、皮膚の潤いは保たれています(図1)。
指先は皮膚の中でも脂腺(皮脂を分泌して乾燥を防ぐ皮膚腺の一種)が少なく乾燥しやすいため、角質層で厚く保護されているという特徴があります。しかし、水仕事で使う石鹸や洗剤などは、皮脂膜まで取り除いてしまいがちで、指先に過剰な負担がかかります。そこに冬の乾燥した空気が加わった結果、角質層の水分が喪失し、手荒れが発症します(図2)。
図1: 皮膚の表層断面(正常)
角質細胞同士は角質細胞間脂質などにより接着している。
皮脂膜や天然保湿因子が十分に保たれ、水分保持ができている
図2: 皮膚の表層断面(手荒れ)
角質細胞がはがれ、皮脂膜、角質細胞間脂質および天然保湿因子が減少。水分保持ができず、手が荒れる
手荒れは主婦や美容師、飲食店員、銀行員、段ボールを扱う配送員など、指先に負担がかかりやすい人に多く発症します。そのほかに、小児期にアトピー性皮膚炎を発症した人は皮膚の刺激に弱い傾向があり、手荒れの発症頻度が高いようです。
主に利き手の親指、人差し指、中指の指先から手荒れは始まりやすく、最初は皮膚の乾燥(指先がカサカサするなど)を伴います。症状が進むと、皮膚は硬くなり指紋が消失、次いで、症状が手全体におよぶと、発赤やかゆみ、痛みを伴い、小さな水疱やひび割れが生じて、皮膚がジュクジュクと湿潤します。
気を付けるべき習慣
手を洗いすぎないようにしましょう。洗いすぎることで、指先を守っている皮脂膜が余分に取り除かれてしまいます。さらに手洗い後は、残った水分が蒸発する際に皮膚の乾燥が進み、手荒れが進行しやすくなります。指の先端や指間まで、強くこすらないように水分を十分拭き取ることが大切です。
予防のポイント
ポイント1
過度の刺激を避ける
寒い時期はお湯を使う機会が増えます。皮脂膜はお湯に触れることではがれやすくなるため、水仕事をする場合は木綿の手袋やゴム手袋を重ねて、お湯や水となるべく接触しないようにすることが必要です。食器洗いはなるべく一度にすますよう心がけましょう。可能であれば食洗機や乾燥機の使用をお勧めします。
ポイント2
薬を塗る
皮膚に潤いを与える保湿剤(市販品や医薬品)を塗り、皮膚の潤いを保ちましょう。塗ったあとにかゆみや皮膚の発赤などが生じた場合は、副作用の可能性があります。そういった症状が出たときは薬の使用を中断し、皮膚科を受診してください。病院できちんと診察を受けることで、自分に合った薬も処方してもらえます。
ポイント3
油断せずに予防する
手荒れの症状が軽快しても油断しないことが大切です。治りかけの状態で指先に負担をかけてしまうと再び荒れてしまい、手荒れを繰り返すことになってしまいます。特に乾燥している冬の季節は水分が蒸発しやすいため、手袋の着用や保湿剤を塗るなどの予防を続けることが大切です。
パソコンやスマートフォンが手荒れの原因に?!
最近では、パソコンやスマートフォンを頻繁に扱う人に手荒れの症状が多くみられます。キーボードを叩く、画面をフリックするなどの操作による過度な指先の摩擦が、皮膚のバリアを弱めて手荒れを生じさせます。また、指先への外力やマニキュアの除光液なども手荒れの原因です。加えて、爪の変形などの爪異常を伴う場合は、皮膚の乾燥以外に爪の水分含有量低下などが原因と考えられます。二枚爪になっている人は、鉄欠乏性貧血などのサインである可能性もあるため、一度病院を受診し、医師の診察を受けることをお勧めします。
解説:豊本 貴嗣
富山県済生会高岡病院
皮膚科部長
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