社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2022.06.29

バージャー病

Buerger disease

解説:西山 綾子 (川口総合病院 血管外科 部長)

バージャー病はこんな病気

バージャー病は、炎症が原因で血管がふさがる(閉塞する)病気で、閉塞性血栓性血管炎(TAO:thromboangiitis obliterans)とも呼ばれます。病名は、この病気の詳しい報告を初めて行なったアメリカ人医師バージャーの名前に由来します。

バージャー病と同じように足の虚血(血液の流入が足りなくなること)が生じる病気の代表的なものとして、閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obliterans)があります。バージャー病とASOは症状や喫煙が影響する点で似ていますが、バージャー病の原因は血管の炎症で30〜40歳代前後の若年層に多くみられるのに対し、ASOの原因は動脈硬化で高齢者に多いという違いがあります。
喫煙が悪化の原因となり、その影響はASOよりも大きいといわれます。場合によっては、若い喫煙者が手指や足を切断しなければならないこともあります。

アジア・中近東・地中海地域の男性に特に多いとされる一方、日本ではバージャー病にかかる人が減っています。1970年代後半から急速に減少し、2010年代前半からは人口100万人あたり1人程度と少ない状況が続いています。一方で、以前は全体の5%程度と少なかった女性の割合は増加傾向にあります。受動喫煙による発症に加え、女性の喫煙者の増加が影響しているといわれています。

発症と病気の進行に喫煙が強く関与していることは分かっていますが、病気の真の原因(なぜ血管に炎症が起こるのか)は現在でも明らかではありません。喫煙以外の要因として、慢性歯周感染症(歯周病)、栄養障害、自己免疫の関与も指摘されています。

バージャー病の症状

手や足の末梢の血管がふさがって、血液が行き渡らなくなることによって、手足の先端に些細な傷などができただけで強い痛みを伴う潰瘍や壊死(えし=組織が死ぬこと)、壊疽(えそ=壊死に感染が重なったもの)を生じることがしばしばあります。潰瘍や壊死は、主に手足にできますが、より多く発生するのは足です。
潰瘍や壊死は突然できるのではなく、初期症状として冷感・しびれ感・色調変化(発赤や、冷たいところで白色調になるなど)・安静時の痛みなどがみられます。
動脈硬化が原因で起こるASOとの症状の違いは、手にも症状がみられること、足底の跛行(はこう=歩くと痛くなり、止まると戻る症状)、手指・足指の紅潮(赤くなること)、静脈にも炎症が起こること(遊走性静脈炎)などです。
しかし、これらの症状は膠原病をはじめとする他の病気でもみられ、バージャー病特有のものではないため、バージャー病だと気づきにくいことが多いです。バージャー病かどうかを見極めるためには、さまざまな検査結果を踏まえた総合的な判断が必要になります。

バージャー病の検査・診断

まず、血管が慢性的に徐々にふさがる病気(慢性動脈閉塞症)に対する一般的な診察や検査を行ないます。血液検査も一通り行ないますが、バージャー病は血液検査だけで分かるものではなく、これらだけで診断が確定することはまずありません。CT血管造影(CTA)、磁気共鳴血管造影(MRA)、デジタルサブトラクション血管造影(DSA)などの血管画像検査が、診断には重要です。

他の動脈硬化性疾患と見分けるポイントとしては、病変が足では膝より末梢、腕では肘より末梢にみられることと、血管の狭窄(きょうさく=狭くなること)や閉塞の仕方に特徴があることが挙げられます。ただ、膠原病による血管の狭窄・閉塞と画像所見が似ていることがあり、正しく診断するためには総合的に判断する必要があります。

バージャー病の診断基準は、今のところ世界的に統一されたものがありません。日本では、『2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン』(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)に沿って診断します。
バージャー病として矛盾しない症状があり、血液検査、画像検査などの所見がバージャー病の特徴と合致し、他の似た病気の可能性をつぶしていく比較検討を繰り返して、診断にたどりつくことになります。

バージャー病の治療法

治療には、何はともあれ禁煙が必要です。禁煙と、手足の病変に対する適切な処置により症状が改善します。喫煙を続けると症状は悪化します。
薬物治療としては、血液をサラサラにして血管内の通過をよくする抗血小板薬や、血管を広げる作用のあるプロスタグランジン(PG)製剤などが用いられることが多いです。

壊死・壊疽が重症の場合は、「血行再建術」という手術を検討します。血行再建術では、動脈の狭窄部や閉塞部を迂回してつなぐバイパス術が主に行なわれます。バイパス術とは、人工血管や、自分の下肢の静脈を採取したものを使用して、動脈の迂回ルートを作る手術法です。バージャー病だけなく他の下肢虚血性疾患でも用いられます。
また、近年は低侵襲(患者さんへの身体への負担が少ない)の血管内治療を選択することが増えています。動脈にカテーテルという細い管を入れ、狭窄部・閉塞部にワイヤーとバルーン(特殊な風船)を通して広げ、血流の改善を図る治療法です。

血行再建術や血管内治療が困難な場合は、腰椎の近くの神経節を焼灼(しょうしゃく=熱で焼くこと)して血管を広げる「交感神経遮断手術」や、血管が新しく発生するのを助ける薬剤を筋肉注射する「血管新生療法」という選択肢もあります。

以上のようなさまざまな治療を組み合わせても、壊死や痛みが改善しなかったり、感染が食い止められなかったりする場合は、手や足の壊死部の切断が避けられなくなることもあります。

手や足に下記のような症状がみられたら、まずバージャー病を疑うことが重要です。典型的な状況を考えてみましょう。

あなたは、30~40歳のヘビースモーカーの男性です(女性でも多少可能性はあります)。最近、足の指先の傷がなかなか治らず、痛みが続いています。手の爪の先に黒紫の血豆のような痛みを伴う色の変化があり、こういった症状が複数の(手や足の)指に生じています。よく見ると、足の静脈に沿って赤い線があり、チリチリとする痛みも感じます――。

上記のような典型的な症状がすべてみられることはなかなかないかもしれませんが、喫煙者で手足の痛みや色の変化がある場合、禁煙と病院の受診を考えましょう。

バージャー病の最大の危険因子は喫煙なので、禁煙が最も有効な予防法です。他人が吐き出すタバコの煙や、タバコから立ち上る煙を吸ってしまう受動喫煙も避けましょう。

いったんバージャー病になったとしても、禁煙して、治療が成功した場合には病気の進行を抑えられます。そして病気の進行を抑えたまま60歳を過ぎれば、バージャー病のために手指や足を切断しなければならなくなるリスクは、非常に小さくなるといわれています。禁煙は、動脈硬化性疾患、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患のリスクも下げますので、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

症状の悪化を予防するためには、手足に傷ができないように気をつけたり、手足を清潔に保ち、小さな傷が潰瘍や壊死へと進まないようにすることも大切です。さらに、動脈硬化が起こると動脈がますます狭くなるため、高血圧糖尿病脂質異常症など動脈硬化を進行させる病気の予防や治療に取り組みましょう。
歯周病がバージャー病を悪化させるという報告もあります。歯周病は糖尿病や心血管疾患との関連も指摘されているので、きちんと治療することが大切です。

解説:西山 綾子

解説:西山 綾子
川口総合病院
血管外科 部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE

関連記事

  1. 歯周病(歯周炎)(病名から探す | 2017.7.24)
  2. 重症下肢虚血(病名から探す | 2016.1.18)
  3. 脂質異常症(病名から探す | 2015.3.25)
  4. 閉塞性動脈硬化症(病名から探す | 2014.9.10)
  5. COPD(慢性閉塞性肺疾患)(病名から探す | 2014.5.14)
  6. 糖尿病(病名から探す | 2013.6.17)