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2022.04.27
非結核性抗酸菌症は、非結核性抗酸菌という細菌によって起こる感染症です。「抗酸菌」というのは、細菌を色素で染めたときに、酸で脱色されない性質を持つ菌のことです。その中でも、結核菌やらい菌(ハンセン病の原因)以外の菌のことを非結核性抗酸菌と呼びます。
非結核性抗酸菌は土壌や水系などの自然環境、水道や貯水槽などの給水システム、家畜などに広く生息しています。菌の種類は190種類以上に上りますが、ヒトに感染する菌は約30種類です。菌を含んだ埃(ほこり)や水滴を吸い込むことにより感染すると考えられており、ヒトからヒトへ感染することは極めてまれです。
ヒトに感染する非結核性抗酸菌の約90%を占めるのは、Mycobacterium avium(マイコバクテリウム・アビウム)とMycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラー)という菌です。この2つはまとめてMAC(マック=Mycobacterium avium complex)と呼ばれ、MAC菌による呼吸器感染症のことを肺MAC症といいます。
非結核性抗酸菌症は肺に感染することが多く、2014年の罹患率調査では、推定罹患率が1年に人口10万人あたり約15人と結核を抜き、近年増加してきています。特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎などの肺疾患がある人の発症が多くみられる一方で、基礎疾患のない中高年女性の発症が増えています。また、発症時から比較的痩せている患者さんが多い傾向にあります。
咳、痰、血痰が比較的多い症状ですが、発熱、全身倦怠感、寝汗などがみられることもあります。一方で、症状がなく、健康診断や人間ドックの胸部X線検査で異常を指摘されて診断に至る人もいます。
非結核性抗酸菌は、前述したように自然環境や給水システムなど身近な所に常に存在する菌(常在菌)です。ありふれているがために、非結核性抗酸菌の感染をはっきり突き止めること(確定診断)は簡単ではありません。
胸部のX線検査やCT検査で、非結核性抗酸菌によると考えられる画像所見を確認することに加え、痰の検査などで菌の感染を確かめることが必要です。痰の検査は最低2回行ないます。痰を採取して培養し、2回とも非結核性抗酸菌がみつかれば診断がつきます。
また、MACに感染すると血液中のMAC抗体値が上がることがあるため、血液検査が診断の補助として用いられます。
結核は一部の例外を除き治癒できる病気になりました。しかし、非結核性抗酸菌症は治療法が確立しておらず、治療後に再発することもあります。一方で、数年から10年以上と長い年月をかけてゆっくり進行する病気でもあるので、心にゆとりを持ちながら長く付き合っていく姿勢が大切です。
軽症の場合は自然軽快することもあり、治療せず経過をみることが多いです。薬物治療を行なう場合、MACが肺に感染している肺MAC症では、3種類の抗菌薬を2年程度飲み続ける必要があります。内服薬だけではなく、点滴や筋肉注射で治療をする場合もあります。手術が必要になることはまれですが、肺に空洞があるなど状態によっては肺の一部を切除することがあります。
初期の非結核性抗酸菌症では症状がないことがほとんどです。そのため、健康診断などでの胸部X線検査や人間ドックでの胸部CT検査によって、気管支の拡張や、粒状影(りゅうじょうえい=直径数mmの粒状の影が多数みられること)を指摘され、診断につながることがあります。健康診断や人間ドックを定期的に受けることが、早期発見につながると考えられます。
感染経路は分からないことがほとんどで、残念ながら現在まで確立した予防法はありません。
非結核性抗酸菌は身の回りに存在する環境常在菌で、特にMACは温水中や土壌に多く生息し、風呂場や加湿器、園芸で使用する腐葉土などから検出されることがあります。風呂掃除や園芸をする際にはマスクを着用して、水滴を吸い込まないようにしましょう。また、浴槽やシャワーヘッドは定期的に清掃して乾燥させ、菌の繁殖を防ぎましょう。
解説:岡本 翔一
茨木病院
呼吸器内科部長
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