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2021.05.19
心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の四つの部屋に分かれ、全身に血液を送り出すポンプの役目をしています。血液は全身の静脈から右心房、右心室、肺へ循環し、肺で酸素を取り込んだ後、左心房、左心室、大動脈を通って全身に送り出されます。心臓には血液の逆流を防ぐための弁が四つあり、その一つが左心房と左心室の間にある僧帽弁です。
僧帽弁閉鎖不全症は、左心室から送られる血液が前方(大動脈)に向かわず、一部が後方(左心房)に逆流する病気です。
機能不全の原因は大きく分けて2種類あります。
僧帽弁やその支持組織の異常によって逆流が起こる「器質的僧帽弁逆流」と、左心室や左心房の拡大に伴って僧帽弁尖(前尖と後尖)に接合不良が生じて二次的に逆流が起こる「機能的僧帽弁逆流」で、両者が混在する場合もあります。後者が原因となる機能的僧帽弁閉鎖不全症が全体の8割弱を占めます。
血液の逆流が軽度から中等度の場合、症状を自覚することはほぼありません。高度になると心不全症状が現れることが多くなります。
逆流によって左心房が拡大し、左心房圧が上昇します。この際、肺から左心房に流れ込む肺静脈圧が上昇し、肺胞でのガス交換(呼吸による二酸化炭素と酸素の交換)が障害され、低酸素血症(血液中の酸素が不足している状態)となり息苦しさを生じます(肺水腫)。最初は身体を動かすときにのみ症状が現れますが、徐々に安静時にも症状が現れるようになります。
一方、左心室から大動脈に送り出される血液が減少し、低心拍出の状態に陥ります。脳や肝臓など重要な臓器の血液が不足するようになり、多臓器不全の症状が出現します(低心拍出量症候群)。
確定診断は心臓超音波検査にて行ないます。自覚症状がない場合、しばしば健診などで聴診音の異常で発見されます。僧帽弁逆流に特異的ではありませんが、胸部X線検査や採血検査で心不全状態にあることが分かる場合もあります。
初期は薬物療法が行なわれます。まずは心不全症状が現れるのを予防する目的で、血圧を下げて心臓の負担を減らすACE阻害薬が用いられます。その後、いったん心不全症状が出現すれば、重症度に応じて利尿薬や強心薬が使用されます。2020年前後より心不全への適応を有する新規の治療薬が日本でも複数使用可能となり、予後の改善に寄与しています。
薬剤抵抗性の心不全の場合、非薬物療法が選択されます。従来、外科的に僧帽弁の形成術や弁置換術が主に行なわれてきましたが、2018年からカテーテルによる経皮的僧帽弁接合不全修復術が行なわれるようになり、症例数が増えています。手術やカテーテル治療の前に、特殊なペースメーカーによる心不全治療が行なわれる場合もあります。
(参考:僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療)
普段は何ともなくても、少し無理をすると疲れやすい、息苦しさが出るなどの症状があれば、かかりつけ医を受診しましょう。
聴診や胸部X線検査、採血検査などにより、異常が見つかれば専門医を紹介してもらい、可能な限り早めに受診します。心不全状態になり、体内に水分が過剰にたまると、一般的に体重が増加するので、普段から同じタイミング(夕食後の入浴前や早朝起床時など)で体重を測る習慣をつけておくとよいでしょう。
また、心臓から送り出される血液が減少すると、心拍出量を補うために脈拍が増加します。安静時の自分の脈拍数を把握しておき、普段の値よりも20%以上の増加や100回/分を超える際はかかりつけ医に相談しましょう(心不全だけでなく、貧血や甲状腺機能異常などが見つかる場合もあります)。
僧帽弁の逆流の進行を予防する方法は存在しません。何らかの基礎心疾患が存在する場合、その増悪により心不全が進行し、最終的に機能的僧帽弁逆流の出現につながります。減塩や内服の遵守、暴飲暴食を避ける、規則正しい生活を送るなどの基本的な心不全予防を心がけましょう。
また、器質的僧帽弁逆流の原因として、心筋梗塞などの虚血性心疾患の発症があります。塩分やコレステロール摂取制限などの一般的な動脈硬化進展予防策を講じましょう。特殊な器質的僧帽弁逆流の原因として、胸部の外傷(交通事故や野球のボールなどによる強打)があるため、これを避けることも重要です。
解説:坂本 知浩
済生会熊本病院
心臓血管センター・循環器内科部長
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