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2019.06.14
肺水腫は病名ではなく肺に水がたまった状態のことです。肺には、肺胞(はいほう)と呼ばれる、酸素と二酸化炭素を交換するフィルターの役割をする小さな袋状の構造物があります。この肺胞の周りには多くの網目状の毛細血管が取り巻いていて、空気と血液との間で酸素と二酸化炭素が効率よく交換されるような仕組みになっています。肺水腫は、この毛細血管から血液の液体成分が肺胞内へ滲み出した状態です。肺胞の中に液体成分がたまるため、肺で酸素を取り込む際の効率が低下し、重症化すると呼吸不全に陥ることもあります。
原因は、大きく分けて「心原性肺水腫」と「非心原性肺水腫」の2種類があります。
心原性肺水腫は、心筋梗塞や不整脈など心臓に原因がある場合で、いわゆる心不全が原因となって起こるものを指します。
非心原性肺水腫は、心臓以外の原因で生じるもので、敗血症や重症肺炎、重症外傷、高山病などさまざまな疾患が原因となり得ます。これらの原因疾患の中でも、急性呼吸窮迫症候群(きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん(ARDS)=肺炎や敗血症などがきっかけとなって重症の呼吸不全をきたす病気)は、死亡率も高い疾患です。
主な症状は呼吸困難です。心不全の患者さんは心臓のポンプ機能が弱っており、心臓から血液を送り出す機能が低下しているためです。特に、仰向けになると息苦しくなるため、起き上がって座りたくなったり、夜中に突然息苦しくて目が覚めたりします。中には、立って活動しているときには症状がなくても横になると息苦しさを感じてしまうため、座った状態で眠る人もいます。
他の典型的な症状としては、喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイという呼吸の音)や、血液混じりの泡立った痰(たん)、チアノーゼ(爪や唇が青紫色になる状態)が出現します。
胸部X線画像で肺の末梢部分である肺野に典型的な陰影がみられれば容易ですが、そうでない場合にはさまざまな検査を組み合わせる必要があります。
肺水腫の治療は、すなわち原因となっているそれぞれの病気や病態の治療です。共通の治療としては、肺胞内の水分を除去するための利尿薬や、肺の炎症をおさえるための種々の薬剤、酸素投与などが用いられます。さらに、重症の場合には人工呼吸器を用いて呼吸管理が行なわれることもあります。
肺水腫は、発作や呼吸困難が起きた段階では病状がかなり進行していることが多く、救命できる確率が大きく低下します。そのため、肺水腫が進行する前の症状を自覚した段階で、医療機関を受診することが非常に重要です。特に、心原性肺水腫の原因となる不整脈や冠血管障害(コレステロールによって冠動脈が狭くなるなど冠動脈に起こるトラブル)など心臓疾患のある人は定期通院を怠らないようにし、心臓の機能をチェックしておくことが大切です。
「医学解説」に記載したような症状がないか確認してみましょう。また、前述の喘鳴という呼吸音やピンク色の泡のような痰が肺水腫発見のきっかけになることもあります。これらの症状がみられたら、突然肺水腫を引き起こす可能性があるので、早期に医療機関を受診してください。
心原性肺水腫では、原因となる心不全の悪化を見過ごさないことが非常に重要です。一度心不全と診断された患者さんは、医療機関から「心不全手帳」をもらいましょう。これには、毎日の血圧や脈拍、体重など、心不全悪化の兆候を見過ごさないための記載項目があります。肺水腫を予防するためにはこれらの変化に敏感になることが大切なので、忘れずに記載しましょう。
しかし、高齢者の場合は心不全と診断されずに見過ごされしまうことが多くあります。例えば、心筋梗塞などの病気が要因になって起こる心不全は、心臓が全身に血液を送り出すポンプの機能が弱ってしまう「収縮不全」であることが多く、これを起こしている場合は検査で比較的容易に診断できます。しかし、高齢者に起こる心不全は、収縮する機能に問題はないものの、心臓自体が硬くなり拡張機能が低下する「拡張不全」が多いという特徴があります。この拡張不全による心不全は、検査をしても一見心臓が元気に動いているように見えるため、心不全と診断されない、いわゆる「隠れ心不全」であることが多いです。心臓疾患があると認識されていない高齢の患者さんが、突然肺水腫を発症して呼吸困難で救急搬送されてくることも多くあります。高齢者と同居しているご家族は、普段と様子が違うなどの気づきがあったら、早めに医療機関を受診させてください。
非心原性肺水腫はさまざまな原因により引き起こされるので、原因となる疾患が重症化しないうちに発見、治療することが重要です。特に、最も多い原因疾患は肺炎です。高齢者は風邪をこじらせたり食べ物を誤嚥したりすることで肺炎を引き起こすことが多いです。したがって、風邪の段階で治しておくことや、食べ物を慎重に飲み込む習慣をつけておくことが大切です。また肺炎の予防接種や定期的に肺の検査を受けるなどの予防を徹底しましょう。
解説:佐々木 義明
奈良病院
副院長 兼 内科統括部長
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