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2025.02.19
髄膜腫とは、脳の中に発生する腫瘍である神経膠腫(グリオーマ)とは異なり、脳を包む髄膜(硬膜・くも膜・軟膜) を構成する細胞から発生する脳腫瘍で、原発性脳腫瘍(がんの転移でない脳腫瘍)の中でも特に高頻度で発生する腫瘍です。
腫瘍の大半は良性のものですが、悪性腫瘍が発生することもあります。その場合、腫瘍が頭蓋内を超えて、副鼻腔など他の部分へ広がって進行していくこともあります。
50~70代で発症がすることが多く、女性患者の人数は男性患者の約2倍です。髄膜腫の発生や増大には、ホルモンや放射線照射なども関連しているといわれています。
脳を包んでいる髄膜に発生した腫瘍が、近くの脳や脳神経を圧迫することで症状が現れます。そのため、髄膜腫の症状は頭蓋内のどこに腫瘍ができているかで決まり、症状は運動麻痺やしびれ、言葉が出にくくなる失語症など、多岐にわたります。脳には身体の感覚や嗅覚、聴覚などをつかさどる重要な脳神経が12種類あるため、たとえ腫瘍が小さくても特定の脳神経が腫瘍で強く圧迫されている場合は、脳神経ごとに視力障害、顔面のしびれ、聴力低下などの症状が出ます。
腫瘍が大きい場合は、圧迫によって頭蓋内全体の圧が高くなり(頭蓋内圧亢進=ずがいないあつこうしん)、頭痛や意識障害(認知症のような症状も含む)が現れます。
髄膜腫によって脳が部分的に傷つき、うまく働かなくなることで、てんかん(全身けいれんなど)を発症することもあります。そのため、てんかんを発症し、画像診断を行なった際に髄膜腫が見つかることも少なくありません。
髄膜腫の多くは良性の腫瘍なので、腫瘍の増大は比較的ゆっくり進んでいきます。経過中に急激に症状が悪化する、ということはあまりありません。
診断は頭部CTやMRIなどの画像検査で行ないます。小さな病変の場合はCTでは分かりにくく、MRIが確実です。最終的な診断は、手術で腫瘍を摘出し、腫瘍組織を顕微鏡で観察して診断する病理検査で確定できます。
髄膜腫の治療には、経過観察を含めた保存療法(人体を傷付けずに症状の改善や緩和を目指す治療)、手術、放射線治療の3つの方針があります。現時点では、薬の服用による化学療法は確立されていません。
症状は特にないものの、脳ドックなどで髄膜腫と思われる腫瘍が見つかったという場合は、MRIを用いた定期的な経過観察が一般的です。ただ腫瘍が脳を圧迫するほど大きい、サイズが徐々に大きくなってきている、悪性腫瘍の可能性があるなどのケースは、症状に関わらず手術による治療が行なわれます。
症状が現れている場合は、基本的に手術による腫瘍摘出が行なわれます。手術は、頭蓋骨の一部を開けて脳を露出した状態で行なう開頭術、内視鏡を用いて鼻の穴からアプローチする経鼻(けいび)手術などを腫瘍の部位や大きさなどによって選択し、使い分けます。
手術によって腫瘍をすべて摘出できた場合は治癒が期待できますが、腫瘍が周囲の血管や脳神経と強く癒着している場合は手術による新たな障害が出ないようにするため、腫瘍の全摘出が望ましくないと判断するケースもあります。
また、悪性の髄膜腫の場合は、手術と合わせて放射線治療を行なうことが一般的です。血管や脳神経の周囲に残った腫瘍の制御や、再発した髄膜腫などに対する治療にも、放射線治療が選択されることが多いです。
髄膜腫はMRIで見つけることができるので、早期発見のためには定期的に頭部MRI検査を受診することが必要です。症状が生じていない状態であっても、脳ドック等で腫瘍が見つかる場合があります。
腫瘍によって脳そのものや近くの脳神経が圧迫されると、運動麻痺、感覚障害、言葉が出てこないなどの症状(「医学解説」の「髄膜腫が疑われる症状」に記載)が現れます。このような異常を感じた際には、早めに病院を受診し、画像検査を受けることをお勧めします。
多くの髄膜腫はゆっくりと増大するため、かなり大きくなってから症状が現れる場合も少なくありません。その場合は、脳全体が圧迫されることで頭痛や吐き気などが生じます。普段はない頭痛がする、いつもと違う頭痛が最近続いているなどの場合は、脳神経内科や脳神経外科を受診しましょう。
遺伝性疾患の一部に髄膜腫の発症が多いことが知られていますが、髄膜腫の発症を予防する方法はありません。頭部への放射線治療が髄膜腫の発症に影響を及ぼす可能性があるといわれているので、放射線を用いた治療経験がある方は、定期的に脳ドックを受けるなどして早期発見につなげましょう。
解説:後藤浩之
大阪府済生会 中津病院
脳神経外科部長
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