社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2025.01.29

頭蓋底腫瘍

cranial(skull) base tumor

解説:後藤浩之 (大阪府済生会 中津病院 脳神経外科部長)

頭蓋底腫瘍はこんな病気

頭蓋底腫瘍とは、頭蓋骨の最も深い場所であり、“頭蓋骨の底”を指す「頭蓋底(ずがいてい)」に発生する脳腫瘍の総称です。頭蓋底には中枢神経系を構成する脳幹や、それを取り巻く微小な血管があります。匂いや視力、聴力など身体の感覚やバランスに関わる脳神経も集合しているため、腫瘍の大きさや発生部位によって身体や脳にさまざまな症状が現れます。

頭蓋底腫瘍は、脳と脊髄を包む髄膜から発生する髄膜腫、運動や感覚に関わる末梢神経を包んでいる神経鞘(しんけいしょう)にできる神経鞘腫・ホルモン分泌に関わる下垂体(かすいたい)にできる下垂体腺腫など、良性の腫瘍の場合がほとんどです。
しかし、脊索腫や軟骨肉腫などの中悪性度の腫瘍、癌の転移などの悪性の腫瘍の場合もあります。

頭蓋底腫瘍の症状

頭蓋底腫瘍の症状は、腫瘍の大きさや発生部位によって異なります。脳幹や小脳が圧迫されてしまう大きさだと、ふらつき、歩行障害、失調症状などの症状が出てきます。
また、腫瘍が小さくても、周囲の脳神経を圧迫している場合などは、圧迫されている脳神経に関わる障害が現れます。具体的には、嗅覚障害(においがわかりにくい)、視力・視野障害(見えにくい)、複視(二重に見える)、顔面のしびれ、聴力障害(聞こえにくい)、声のかすれ、嚥下障害(飲み込みにくさ)などが生じます。

頭蓋底腫瘍の検査・診断

頭部CT・MRI・PET(放射性薬剤を体内に投与し、その分布を特殊なカメラで撮影して画像化する)などの画像検査で診断を行ないます。小さい腫瘍はCTではわかりにくいため、MRIが確実な検査になります。小さな病変であっても、周囲の脳神経への圧迫によって症状が出る場合もあります。

頭蓋底腫瘍の治療

治療法も腫瘍の種類や大きさや発生部位によって異なりますが、手術、放射線治療、化学療法が一般的です。良性腫瘍が小さく、無症状の場合は一般的に経過観察を行ないます。腫瘍が発生した部位に応じて、主に脳神経外科、耳鼻科、形成外科が担当します。それぞれの科が連携して治療を進めていくことも多いです。

髄膜腫などの良性腫瘍が疑われる頭蓋底腫瘍の場合は、主に手術での治療を行ないます。頭蓋底腫瘍の手術は難易度が高い手術の一つですが、現在は顕微鏡や内視鏡などの医療機器が発展し、より高度な手術が行なえるようになりました。
手術中に脳に電気刺激を与えることで神経の機能が低下していないか確認できる神経モニタリング、手術前に撮影したCTやMRIの画像をもとに、手術部位に対する手術器具の位置関係をリアルタイムで共有・誘導する手術用ナビゲーションシステムなど、日々さまざまな手術法や技術が開発され、進化を続けています。

脳神経が複雑に存在する部位に発生した腫瘍や、腫瘍と脳神経が強く癒着している場合などは、同じ場所や周囲にある腫瘍を意図的に残し、後日、ガンマナイフ(放射線を用いてナイフで切り取るように病巣を取り除く治療) などの放射線治療を行なう場合があります。放射線治療は、腫瘍が再発した際に選択されることもあります。

中悪性度~悪性の腫瘍の場合は手術に加え、放射線治療と抗がん剤を用いた化学療法が行なわれます。複数の科で担当することが多く、複合的な治療が必要になります。

 

頭蓋底腫瘍は主にMRIやCTなどの画像検査で発見されます。髄膜腫・神経鞘腫・下垂体腺腫など良性腫瘍で小さいものは無症状であることが多く、早期に発見できた場合は一般的に経過観察となります。

腫瘍によって脳幹や小脳、周囲の脳神経が圧迫されると以下のような症状が出てきます。これらの症状がある場合は早めに受診し 、画像検査を受けましょう。

・ふらつき、めまい
・歩きにくさ、バランスがとりにくい
・匂いが分かりにくい
・視力や視野の障害
・物や人が二重に見える
・顔面のしびれ
・聴力の低下
・声がかすれる
・食べ物が飲み込みにくい
・舌を動かしにくい

頭蓋底腫瘍を予防にできる方法は、残念ながらありません。前述の症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、早期発見することがとても大切です。

解説:後藤浩之

解説:後藤浩之
大阪府済生会 中津病院
脳神経外科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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