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2013.11.25

子どもの急性胃腸炎

child acute gastroenteritis

解説:十河 剛 (横浜市東部病院 小児肝臓消化器科副部長)

子どもの急性胃腸炎はこんな病気

急性胃腸炎とは、ウイルスや細菌に感染することによって、腹痛嘔吐(おうと)、下痢などの症状を起こすことを指します。こうしたことから、急性胃腸炎は感染性胃腸炎または嘔吐下痢症とも呼ばれます。特効薬はありませんが、長くても2週間以内には自然に治る病気です。

子どもの嘔吐や下痢は、この急性胃腸炎によるものがほとんどです。特に、ロタウイルス、ノロウイルスの感染によるものが半数にのぼります。これらのウイルスは感染力が強く、患者さんの便や吐いた物と一緒に排出されたウイルスが、人から人へと感染していきます。ノロウイルスは毎年11月頃から冬にかけて、ロタウイルスは冬から4~5月頃までが、流行のピークです。

嘔吐・下痢時の脱水症に要注意

子どもの身体は、大人に比べて必要とされる水分の割合が多く、また水分量を調節する機能もまだ未熟なために、少しの嘔吐や下痢でも脱水症を起こす可能性があります。脱水を生じると、「泣いても涙があまり出ていない」「口の中がベタベタしている」「おしっこの量が減る」などのサインが出ます。このようなときの水分補給に適しているのが経口補水液です。あらかじめ用意しておき、嘔吐・下痢の症状が始まったら、脱水のサインが出る前に飲ませるようにしましょう(「看病するときのポイント」の項を参照)。
ここから重度の脱水症へ進行すると、目が落ちくぼんできて、泣いても涙が出なくなります。さらに、手足が冷たくなり、意識障害に陥ることもあります。このような症状がみられる場合は、ただちに救急診療を受けましょう。

また、便や吐物の中には多くの塩分(ナトリウム、カリウム等)も含まれています。そのため、下痢や嘔吐がある間は、水分だけでなく塩分不足にも注意が必要となります。塩分不足が進行すると低ナトリウム血症を発症し、頭痛がしたり、意識がもうろうとしたりします。重症になると、ひきつけを起こし、亡くなってしまうこともあります。経口補水液には塩分(ナトリウム、カリウム)が多く含まれており、補給に効果的です。

「ただの胃腸炎」ではない嘔吐・下痢とは

子どもの嘔吐や下痢には、ごくまれに腸閉塞や腸重積、脳症、急性肝不全などの重大な病気が隠れていることがあります。以下のような症状がみられた場合、ただの胃腸炎ではない可能性があるため、すぐに最寄りの医療機関を受診しましょう。

・便に血が混じる
・吐いたものが黄色や緑色をしている
・意識がもうろうとしている
・一定時間をおいて繰り返し激しい痛みを訴えたり、大泣きしたりする

経口補水液で脱水症予防を

急性胃腸炎は、薬などを服用しなくても、時間が経てば自然に治る病気です。つらい嘔吐のピークは半日から1日程度で、長くても2~3日経つと収まります。下痢のピークは2~3日で、長くても1週間程度です。嘔吐や下痢の症状があるこの期間を、脱水症にならないように気をつけて乗りきりましょう。

脱水症予防には、嘔吐や下痢によって失われた水分と塩分をバランスよく補うことが大切です。このとき糖分を一緒にとると、腸からの吸収がよくなり、エネルギー補給にもなります。

胃腸炎などが原因となる嘔吐・下痢時の水分補給には、水分・塩分・糖分がバランスよく含まれている経口補水液が適しています。経口補水液は「OS-1(オーエスワン)」などの市販品があるほか、自宅で作ることもできます。作り方は、1リットルの水に砂糖40g(大さじ4と2分の1)、塩3g(小さじ1)、果汁ひとしぼり(果汁100%のジュースを少量でもよい)を溶かします。果汁を加えることでカリウムも補給でき、味がついて飲みやすくなります。また、お粥を多めの水で炊いて重湯にし、塩をひとつまみ加えたものでも代用できます。

水やお茶、スポーツドリンクやイオン飲料を飲ませ続けると体内の塩分濃度が下がり、低ナトリウム血症を引き起こすことがあります。スポーツドリンクやイオン飲料などは糖分が多くナトリウム、カリウムといった塩分が少ないため、嘔吐・下痢時の水分補給には不適切です。

少量ずつの水分摂取が大切

嘔吐を繰り返していても、その間に少しずつ水分を飲ませることが大切です。すでに脱水のサインが見られる場合は、不足している水分を3~4時間以内に摂取させる必要があります。目安は、体重1kgあたり50~100ミリリットルです。一気に飲むと吐いてしまうので、ティースプーンに1杯程度の量を少しずつ飲ませていきましょう。スプーンでも吐き出してしまう場合は、スポイトを歯ぐきに沿わせて、奥の方に進め、少しずつ注ぐと効果的に摂取できます。

下痢や嘔吐が続いていても、食事やミルクを制限する必要はありません。ここで無理をする必要はありませんが、少しでも食べられる状態なのであれば、食べることによって病気で消耗した体力が早く戻るといわれています。

予防の基礎知識

ロタウイルスは、赤ちゃんのときにワクチンを接種することで感染・重症化を予防できるようになりました。希望者のみが受けられる任意接種(全額自己負担)ですが、予防接種を受けておくとよいでしょう。ノロウイルスなど、そのほかの胃腸炎の原因となるウイルスにはまだワクチンがありません。予防のために、手洗いやうがいを行なうことはとても大切です。しかし、特にノロウイルスは感染力がとても強いため、感染を完全に防ぐことは難しいといえます。

家庭内での感染を防ぐために

胃腸炎を起こすウイルスは、便や吐いたものを介して感染します。そのため、普段から便や吐物の取り扱いにはよく注意を払って対処しましょう。基本的に手袋をして処理にあたり、始末後は手洗いを十分に行ないましょう。

急性胃腸炎にかかった子どもを看病するときは、より注意が必要です。吐いたもので床などが汚れてしまった際は、ふき取った後、1%程度に薄めた塩素系漂白剤でしぼった雑巾を用意し、数分間かぶせておきましょう。それから室内の換気をしっかりと行ないます。これらは、ノロウイルスはアルコールでは死なず、乾燥させてもしばらくは生きているため必要な処置です。アルコール除菌や水でふき取っただけで済ませてしまうと、乾いてからウイルスが風で舞い上がり、ほかの家族に感染する原因となります。

十河 剛

解説:十河 剛
横浜市東部病院
小児肝臓消化器科副部長

横浜市東部病院 こどもセンター


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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