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2024.07.31
ロタウイルス感染症は、ロタウイルス(rotavirus)が原因の胃腸炎です。ロタウイルスは感染力が強く、特に生後3カ月〜2歳の乳幼児が感染すると重症化しやすいといわれており、冬から春にかけて流行します。昨今、ロタウイルスワクチンを早期に接種する人が増えたため、感染者は大幅に減少してきています。
重度の脱水を起こすことはありますが、早いうちに適切な対応を行なえば通常は予後良好な疾患です。一方、数は少ないですが、脳炎・脳症が合併することもあり、難治性のけいれんなどの後遺症例や死亡例も確認されています。
ロタウイルスは感染者の吐しゃ物(吐物・便)中に排泄されたウイルスが、手などを介して体内に入ることで感染します。潜伏期間は1〜2日とされています。感染者の便中へのウイルス排泄はおよそ10日間続くため、一緒に住む家族や周辺の人たちも注意が必要です。
症状は、繰り返す嘔吐・発熱に始まり、その後、頻回の水様性下痢(血便を伴わない水のように緩い便)が起こる激しい胃腸炎症状が典型的なパターンです。米のとぎ汁状の白色下痢便がみられることもあります。水様性下痢症状が強く、水分摂取ができない状態が続くと脱水を起こします。脱水症状が酷くなると尿が濃くなったり出なくなったり、患者さんの活気がなくなるため、栄養や水分の補給を十分に行ない、体力を消耗しないようにしましょう。症状はおよそ数日〜1週間で改善していきます。
また、ロタウイルス胃腸炎感染後1〜2日後くらいに、発熱を伴わないけいれんを起こすことがあります。1日に複数回起こることも少なくありません。これは「胃腸炎関連けいれん」や「軽症胃腸炎にともなうけいれん」などと呼ばれますが、治療薬もあり、一般的には後遺症も残さないといわれています。
一方で、まれに脳炎・脳症を引き起こすことがあります。これは「インフルエンザ脳症」と同様に症状が重篤で、けいれんだけでなく意識障害を伴い、予後も不良なことが多いとされています。
多くの病院では「迅速診断キット」が使用されています。下痢便を検体として陽性・陰性を判断するもので、通常10分程度で結果が出ます。ただし、どのウイルスも胃腸炎の治療方法は共通しているため、検査の必要性は医師の判断に任せましょう。
ロタウイルスに対する抗ウイルス薬はないため、対症療法を行ないます。特に胃腸炎症状からくる脱水症状への治療が中心になります。軽症〜中等症の脱水・胃腸炎症状には、経口補水液をこまめに飲むことが一番の治療となります。嘔吐があっても、飲めるタイミングで少しずつ口にすることが脱水症状を悪化させないポイントです。経口補水液はドラッグストアなどでも売っていますが、家にあるもので簡単に作ることができます(リンク参照)。
吐き気止め・下痢止め・整腸剤などは、あまり効果がみられません。一方、むくみ・頭痛・二日酔いなどに使われる漢方薬の「五苓散(ごれいさん)」を使用することで、症状が軽減されることもあります。中等症以上の脱水となり、尿も出なくなっているような状態は入院での持続点滴が必要になりますので、かかりつけ医に相談しましょう。嘔吐がおさまり水分が十分に取れるようになったら、食べられるものを選び、早期に食事も開始していきましょう。
胃腸炎関連けいれんに対しては、抗てんかん薬「カルバマゼピン」を1回内服するだけで、以後のけいれん発作が出なくなることがほとんどです。
保育園・幼稚園など、居住地域でのロタウイルス(もしくは胃腸炎)の流行状況を知っておくことが重要です。流行している保育園に通っていて、嘔吐・下痢が始まった場合は、ロタウイルス胃腸炎になった可能性を考え、症状が強ければ早めに病院を受診しましょう。
ロタウイルス感染症は、感染者の吐しゃ物に混じったロタウイルスが、手指などを介して体内に入ることによって感染します。また、便→手→口と順次ウイルスが運ばれることで起こるため、糞口感染(接触感染)とされています。飛沫感染や空気感染ではないので、近くにいるだけでは感染しません。
オムツをしている乳幼児が感染した場合、下痢便のついたオムツを処理したそのままの手で何かを食べたり、食事の用意(食器や食材にロタウイルスが付着する)をしたりすると、家庭内での感染リスクが上がります。
感染を防ぐために最も重要なのは、「手を洗うこと」です。手についた汚れを水道水で流し、石鹸をよく泡立てて洗いましょう。ロタウイルスは手指衛生用のアルコールでは効き目がないため、流水+石鹸が適しています。
吐しゃ物で汚染された床・ドアノブなどを消毒する場合は、アルコールではなく「次亜塩素酸ナトリウム(濃度0.1%)」を使って2度拭きします。家庭では、塩素系漂白剤や哺乳瓶の除菌に使用されるつけ置きタイプの商品(次亜塩素酸ナトリウムのもの)を薄めて使用します。また、手洗い場の手拭きタオルもこまめに取り替え、共用は避けましょう。
現在、2種類(1価と5価)の経口生ワクチンがあり、全世界的に定期接種されています。2つのワクチンの有効性に大きな差はなく、生後2カ月から接種(内服)可能で、他の不活化ワクチンとの同時接種も可能です。
ロタウイルスワクチン接種後に「腸重積」の発症リスクがごくわずかに高まることが指摘され、特に初回のワクチン接種から1〜7日後に起こりやすいといわれています。腸重積は生後4カ月から発症の確率が上がってきますので、かかりつけ医に相談しながら、初回のワクチンはできるだけ早い月齢で受けておきましょう。
世界のデータを見ても、ワクチン導入後には、ロタウイルス感染症で救急外来を受診・入院する人、重症化する人の数が激減していますので、ワクチンの効果が認められています。ロタウイルスワクチンは、他のワクチンと一緒に受けておくようにしましょう。
解説:奥谷 貴弘
兵庫県病院
副院長 小児科
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