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済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
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気温が低くなり空気が乾燥するこの季節は、ウイルスにとっては安定して活動するのに絶好のシーズン。新型コロナウイルスやノロウイルスなどは低温・低湿度の環境で感染力が高まり、生息できる期間が長くなるという研究結果も出ています。
ウイルスに感染した人がくしゃみやせきをすると、身体の外に「飛沫」がばらまかれます。通常は飛沫に含まれる水分の重さにより、飛び散った後はすぐに地面に落ちていき感染力を失います。しかし冬の乾燥した空気中では、飛沫から水分が蒸発しやすく、飛沫よりも細かくて軽い飛沫核(ウイルスを含んだ粒子)として長時間空気中を漂い続けることが可能になります。その結果、人から人へと感染するリスクが上がってしまうのです。
感染性胃腸炎は、原因ウイルスが付着した食品を食べることで感染しますが(経口感染)、感染した人の嘔吐物や糞便に触れた手で口を触ったり(接触感染)、飛び散った飛沫を吸い込こんだりすることでも感染します(飛沫感染)。冬の乾燥した環境下では嘔吐物や糞便が乾燥しやすく、処理が不十分だとウイルスを含んだ埃が空気中を漂い続けるため、空気感染する可能性もあります。
コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、マスクの着用や手洗い・消毒、密集を避けるといった基本的な感染予防対策が、私たちの生活の中で日常のものとなりました。こうした行動の変化は、他のウイルスが原因の感染症に対しても効果的に働いているとされています。インフルエンザの感染状況をみると、2020年秋~2021年春の累積推計受診者数(全国約5000の医療機関から毎週報告される患者数を基に推計)は約1.3万人と、その前年の同時期の728.9万人と比べて激減しています。
同じく秋から冬にかけて流行するノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者数は、インフルエンザほどの減り方はしていませんが、集団感染の発生件数はおさえられているようです。コロナ禍により大人数で集まって食事をする機会がほとんどなくなっていることも、その一因として考えられるでしょう。
この季節に流行する感染性胃腸炎の原因の代表格はノロウイルス。感染者数が最も多く、年間を通して発生しますが、11月くらいから発生件数が増加し、12月〜翌年1月あたりが流行のピークです。感染力が強く、ドアノブに付着したウイルスによっても感染することがあります。家族が感染した際に、その嘔吐物や糞便の処理が不十分だと二次感染してしまいます。
ロタウイルスは乳幼児(0〜6歳頃)に感染しやすく、ノロウイルスと同様に感染力が強いことが知られています。水のような白っぽい下痢が出ることが特徴的です。ワクチンによって重症化を予防することができます。
アストロウイルスも乳幼児に急性胃腸炎を引き起こしますが、軽症のことが多く、嘔吐や発熱はあまりみられません。
サポウイルスはノロウイルスと同じ種類のウイルスで、発見された「札幌」の地名にちなんで命名されました。ノロウイルスと同様に年間を通してみられますが、症状は軽いとされています。
種類 | 潜伏期間 (感染~発症) |
症状のある期間 | 主な症状 |
---|---|---|---|
ノロウイルス | 1〜2日 | 5~6日 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱など |
ロタウイルス | 2〜4日 | 1週間程度 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱など |
アストロウイルス | 1〜4日 | 4〜5日 | 下痢、嘔吐など(軽症が多い) |
サポウイルス | 1〜2日 | 1〜2日 | 下痢、嘔吐など(軽症が多い) |
感染性胃腸炎と新型コロナ、似ている症状はある?
新型コロナ感染症でも下痢など消化器の症状が出る場合があり、中には症状が下痢だけという人もいます。一方、感染性胃腸炎にかかっても軽い風邪のような症状しか出ない人もいます。症状だけで判断することは難しく、症状が出る前の行動や、他に感染者が周囲にいないかなどを確認することが重要です。
上記に挙げた原因ウイルスによる感染性胃腸炎には、特別な治療法はありません。基本的には安静にして、脱水を起こさないようにすることが大切です。
多くの場合、吐き気や嘔吐から始まり、下痢、腹痛、発熱(熱は出ないこともあります)……と症状が進みます。
吐き気がおさまったら、経口補水液やスポーツ飲料などでなるべく水分をとるようにします。市販の下痢止め薬は飲まないでください。
食事がとれるようなら、少しずつ、消化のよいものを食べるようにして栄養補給に努めます。刺激の強い香辛料や柑橘類、カフェインを含むコーヒーや紅茶は避けた方がよいでしょう。 水分も取れないくらい症状がひどいときは、早めに医療機関を受診してください。特に「脱水弱者」の子どもや高齢者は重症化することがあるため、注意が必要です。
新型コロナの感染予防対策ですっかりおなじみになったアルコール消毒ですが、実は、ノロウイルスやロタウイルスにはあまり効果がありません。
ウイルスには、外側に脂質の膜を持つ「エンベロープウイルス」と、膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」の2タイプあります。アルコールはこの脂質の膜を破壊することでウイルスを不活化(感染力を失わせる)するため、そもそも膜がなくタンパク質でできた殻のみで覆われた「ノンエンベロープウイルス」には効果が出にくいのです。
ノロウイルスやロタウイルスはノンエンベロープウイルスのため、アルコール消毒の効果は低いですが、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒は有効です(次亜塩素酸ナトリウムは家庭用の塩素系漂白剤を薄めることで作れます)。次亜塩素酸ナトリウムは手指の消毒には使えませんが、ドアノブや手すり、カーテンなど日常的に触れるものの消毒に利用して、感染を防ぐことができます。
また、感染した人の嘔吐物や糞便には、大量のウイルスが含まれているため、適切な処理をすることも予防の重要なポイントです。床などに広がった嘔吐物などは、ウイルスが飛び散らないように静かに拭き取り、ビニール袋に密閉してから捨てましょう。このとき、ビニール袋の中に次亜塩素酸ナトリウムを入れるとよいです。汚染された場所(床、ドアノブ、トイレ、カーテンなど)は次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭き、さらに水拭きして清潔にしましょう。
食材や調理器具などを清潔に保つ(よく洗う、加熱・殺菌するなど)こと、また嘔吐物や糞便を適切に処理することもさることながら、人から人への感染を予防するためには、「手洗い」がとても大切です。いまいちど、正しい手の洗い方を確認してしっかり感染を予防しましょう。
POINT
・十分な時間をかけて(目安:30秒間のもみ洗い+15秒間の流水のすすぎを複数回)、洗い残しがないように丁寧に手指の汚れを落とす
・外出から戻ったとき、せきやくしゃみの後、食事や料理の前、トイレの後など……こまめに行なう
解説:久保園 高明
鹿児島病院
院長
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