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新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスは、大きさも形も非常によく似ています。いずれも直径約100nmの球状で、カプシドというタンパク質の殻の中にゲノム(遺伝物質)が入った、ウイルスでは一般的な作りになっています。
ウイルスには、カプシドがエンベロープと呼ばれる脂質膜で覆われたものと、そうでないものがありますが、新型コロナとインフルはいずれもエンベロープを持つウイルスです。このエンベロープは、アルコールや石鹸に弱いという特徴があります。
また、両ウイルスとも、表面にタンパク質がとげのようについています。ウイルスが人体に感染する際、このタンパク質が人体の細胞にある受容体と結合します。新型コロナとインフルは表面についているタンパク質の種類が違うので、対応する受容体も異なります。
新型コロナに対して働く受容体はACE2(angiotensin-converting enzyme 2)といいます。ACE2は肺、腸、腎臓、眼、脳など多数の臓器の細胞に存在しています。このため、新型コロナによって障害を受ける臓器も多岐にわたると考えられています。
それぞれの感染症について、症状やデータを表にまとめました。感染経路や症状など、共通点も多いですが、いくつか違うポイントがあります。
新型コロナウイルス感染症 |
インフルエンザ |
|
---|---|---|
感染経路 |
飛沫、接触、飛沫核(空気)※ |
飛沫、接触、飛沫核(空気)※ |
国内での |
約11万人 |
約1000万人 |
症状の |
2~3週間 |
3~7日間 |
致死率 |
0.25~3% |
0.1% |
季節性 |
今のところなし |
あり(1~2月がピーク) |
潜伏期間 |
2~14日(平均5日) |
1~4日(平均2日) |
感染した場合の |
数%~60% |
10% |
症状 |
※…飛沫感染・接触感染がメインだが、換気の悪い場所では空気感染が起こり得るとの情報が多い
まず、重症度の違いです。現状の感染者数はインフルのほうが多いものの、致死率と症状の持続期間を見ると、症状の重さは新型コロナが上回ることが分かります。両者の感染力は大差ないことが分かっているほか、国内ではまだ新型コロナのワクチンがないため、今後新型コロナの感染者数がインフルを上回る可能性があります。
次に、新型コロナの大きな特徴として、無症状率の高さが挙げられます。新型コロナは潜伏期間が長く、一部は無症状のまま治癒しますが、無症状の時期にも強い感染力があります。症状が出てから感染のピークを迎えるインフルとは違い、新型コロナは、症状のない状態でも、既に多くの人にうつしている可能性が高いのです。
息切れや嗅覚・味覚障害は新型コロナの特徴的な症状ですが、必ずしもあらわれるとは限りません。インフルは関節痛や鼻水がひどくなることが多いですが、新型コロナにおいてもこれらの症状があらわれないとは限らないため、症状のみから判断することは危険です。
新型コロナの感染者数はまだまだ減少しませんが、1~2月にかけて、例年通りであればインフルの感染者数がピークを迎えます。これからは風邪の症状があれば、新型コロナとインフル両方の可能性を考えなければなりません。もし症状があらわれたら、どうすればよいのでしょうか。
インフルの流行期には、発熱などの症状があった場合、新型コロナとインフルの両方を検査することが推奨されています。
現在行なわれている検査には抗原検査とPCR検査があり、新型コロナはPCR検査が主流、インフルはほとんど抗原検査となっています。それぞれの検査方法の違いは以下の通りです。
主に実施されている感染症 |
検出するもの |
メリット |
デメリット |
|
---|---|---|---|---|
抗原検査 |
新型コロナウイルス感染症 インフルエンザ |
ウイルスを特徴づけるタンパク質 |
検査結果が出るのが早い |
ウイルス量が少ないと検出されない |
PCR検査 |
新型コロナウイルス感染症 |
ウイルスを特徴づける遺伝子配列 |
少ないウイルス量でも検出できる |
検査結果が出るのが遅い |
今まで別々の検査方法をとられてきた新型コロナとインフルですが、現在、全国で同時検査の体制が整備されています。抗原検査で新型コロナとインフルの両方を検査できる検査キットが販売されているほか、PCR検査による同時測定も近日中に保険適用になる見込みです。
抗原検査は、PCR検査に比べて結果が出るのが早いという利点がありますが、一定のウイルス量がないと検出されないことがあります。そのため、可能であれば両者ともにPCR検査を行なうのが最も正確な結果を得られる可能性が高いです。
ただし、これからの感染者の増加次第では、医療体制や検査体制が混乱する恐れがあります。特に、新型コロナのPCR検査は、まだまだ実施が限られています。そのため、両方の検査が難しい場合は、まずインフルの検査をして、症状の経過を見る、という方法が政府により提唱されています。
すぐにPCR検査を受けられなくても、抗原検査キットを使って同時検査を行ない、両方陰性が出てコロナの可能性が否定できない場合のみ、PCR検査にて再検査を行なう、という手もあります。
状況に応じた方法をとるなど、より確実で無駄のない検査体制が望まれます。
冬からは新型コロナとインフル、両方の流行が予想されます。前述のとおり、インフルの流行に伴い、発熱などの症状を訴える人が増えることで、今までよりも検査が遅れたり、医療機関をスムーズに受診できなかったりする恐れがあります。そのため、感染予防対策に加え、感染したらどうするか、を考えておく必要があります。
新型コロナの対策としては、引き続き、マスクの着用、手洗い・うがいの実施、アルコール消毒の実施、密を避ける、換気などを徹底しましょう。新型コロナは、無症状の人からの感染が多い病気です。「うつらない」だけでなく「うつさない」という心がけが大事です。
インフルの対策としては、新型コロナの対策がそのまま使えるといってよいでしょう。実際に、今年のインフルの感染者数は、昨年に比べ1%以下(2020年11月現在)と非常に低くなっており、これは新型コロナ対策の効果といわれています。また、インフルは新型コロナと違い、有効とされるワクチンがあります。自分自身と医療機関、両方の混乱を防ぐためにも、今年は特にワクチンを接種すべきです。
そして、万が一感染した場合に慌てないよう、感染したらどうするか前もって考えておきましょう。
まず、かかりつけ医がある場合は、発熱等の症状が出現した場合の受診方法を確認しておきましょう。ない場合は、受診・相談センターの連絡方法を確認しておくとよいでしょう。
また、家族が発症した場合に家庭内感染を広げないように、あらかじめ注意事項を入手しておくことも大切です。
今年は新型コロナ対策をしっかりすることで、例年よりもインフルの感染を防ぐことができる可能性が高いです。感染が疑われる症状が出たときにパニックにならないよう、両方の共通点と違いを理解し、適切な対策をとりましょう。
1985年 奈良県立医科大学卒業 第二内科入局
2006年 済生会中和病院内科部長
2017年 済生会中和病院副院長
日本呼吸器病学会専門医・指導医
日本呼吸器内視鏡学会専門医・指導医
日本医師会認定産業医
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