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現在、新型コロナウイルス感染症の治療薬は大きく分けて2種類あります。
一つはウイルス自体の増殖を抑える「抗ウイルス薬」、もう一つは新型コロナウイルス感染症の重症化で起こる、「サイトカインストーム」の症状に対する「抗炎症薬」です。サイトカインストームとは過剰な免疫反応のことで、重篤な臓器障害をはじめ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重度の呼吸不全を引き起こすことが分かっています。
新型コロナウイルスの特効薬というものは残念ながらまだなく、現状は他の疾患の治療に使用する既存薬の転用が行なわれています。日本で使用されている主な治療薬としては、抗インフルエンザ薬として知られるファビピラビル(アビガン)、2020年5月に新型コロナ治療薬として特例承認されたレムデシベル(ベクルリー)などが挙げられます。
そのほか、未承認ですが、重症感染症の治療薬・デキサメタゾン(デカドロン)は、「標準的な治療法」として厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第4版)」に掲載されています。
では、これらのような治療薬はどんな症状・重症度の場合に使用されるものなのでしょうか。
風邪のような症状や味覚障害などがみられる軽症の場合は、咳止めや解熱剤など、対症療法での治療を行ないます。軽症であれば約80%が自然に治癒しますが、重症化リスクのある高齢者や基礎疾患を持つ人の場合、入院が必要になることもあります。
中等症では、咳・痰、呼吸困難などの肺炎症状が起こります。このような症状がみられる場合は、酸素吸入と合わせてファビピラビル、レムデシベルなどの抗ウイルス薬を使用します。
最も怖いのは、感染者のうち5%ほどの確率で起こるといわれる重篤化の症状。人工呼吸器が必要なほどの重症レベルに陥ってしまうと、前述の「サイトカインストーム」という炎症反応が起こることがあります。そこで、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の働き(炎症反応)を抑える、トシリズマブ(アクテムラ)などの抗体医薬品などが使用されます。
分類 | 一般名 (商品名) |
日本で承認されている適応症 | 新型コロナ治療薬としての 日本での承認 |
治験状況 | |
抗ウイルス薬 |
ファビピラビル (アビガン) |
新型または再興型インフルエンザウイルス感染症 | なし 厚生労働省は現時点で判断困難と承認を見送った(2020年12月) |
第3相試験 (英・トルコなど)
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レムデシビル (ベクルリー) |
重症感染症、エボラ出血熱、間質性肺炎 | 2020年5月特例承認 承認には有効性、安全性、品質に関わる情報は非常に限られていたため、引き続き情報を収集中 *WHOは積極的に推奨しないとした |
第3相試験 (米・英・仏など) 米欧は緊急使用承認 |
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抗炎症薬 | ステロイド | デキサメタゾン (デカドロン) |
内分泌疾患、リウマチ性疾患、膠原病、腎疾患など | 重症感染症を適応として「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」に追記 | |
IL‐6阻害薬 | トシリズマブ (アクテムラ) |
関節リウマチなど | なし | 第3相試験 (米・英・仏・独など) |
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ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬 | バリシチニブ (オルミエント) |
関節リウマチなど | なし | 第3相試験 (米・英・伊など) |
特例承認を受け、日本でも新型コロナの治療に使用されているレムデシベルですが、WHO(世界保健機関)は「新型コロナウイルス感染症の治療ガイダンス」の内容を更新し、同治療薬を「積極的に推奨しない(弱い推奨)」と公表しました。
理由はレムデシベルの有効性をみるために、世界各地の入院患者に対して行なったいくつかの臨床試験で、死亡率の改善が証明できないという結果が出たため。レムデシベルは、新型コロナが最も体内で増殖する時期(発症から1週間程度)に有効な抗ウイルス薬であることから、重症度、人種、発症から投与された日までの時間、プラセボ薬の有無など、臨床試験の状況の差異が影響したのではないかと推測されます。
しかし、まだ確かなエビデンスがあるわけではなく、厚生労働省は「承認の根拠となった治験データが否定されたわけでも、有効性がないという結果でもないため、治療薬として見直す予定はない」と発表しています。
現在、医療機関では「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」(厚生労働省)などに準じて患者の治療が行なわれていますが、施設によっては選択する薬剤、投与方法が異なることがあります。
治療方法は診断によって判断され、また、未承認薬の投与に関しては十分な説明と同意の上で実施されます。特にファビピラビルは妊娠中に服用することで胎児の奇形や流産・死産を起こす可能性があり、母乳や精液にも移行するので、医療機関で説明される注意事項を必ず守ってください。治療を受ける側においても各薬剤の説明を十分理解し、納得した上で治療に臨むことが重要です。
現在、世界各国の製薬会社や研究機関がさまざまなタイプの新型コロナウイルス感染症の治療薬を開発中です。多数開発されている、抗体医薬品(抗体薬)とは、体内に侵入した異物を排除する抗体を利用した医薬品のことで、がん、感染症、難病などの治療に期待されています。がん細胞やウイルスなどの表面にある標的(抗原)をピンポイントで狙って攻撃するため、高い治療効果が期待でき、一方、正常な細胞に影響を及ぼさないことが特徴です。
以下、開発中の治療薬で主なものを表にまとめました。
分類 |
薬品名(治験名) |
開発企業 (国) |
概要 | 開発状況 |
抗ウイルス薬
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バムラニビマブ (LY-coV555) |
イーライ・リリー(米) アブセレラ・バイオロジクス (カナダ) |
対象:主に軽症 新型コロナ感染症から回復した患者の中和抗体(ウイルスの増殖を抑えるタンパク質)をもとにつくられた抗体薬(注射薬) ※作用のしくみは下図参照 |
緊急使用承認 (米・カナダ) |
抗ウイルス薬 | REGN-COV2 | リジェネロン(米) | 対象:主に軽症 2種類の抗体を組み合わせてつくられた抗体薬(注射薬)。ウイルスの表面タンパク質に結合し、ウイルスが細胞へ侵入するのを防ぐ |
緊急使用承認(米) トランプ大統領が使用したことで話題に |
抗ウイルス薬 | VIR-7831、VIR-7832、GSK4182136 | ビル・バイオテクノロジー(米) グラクソ・スミス・クライン(英) |
対象:主に軽症 新型コロナウイルスへの中和能を示した抗体薬(注射薬)。肺へ移行しやすいことから肺での抗ウイルス効果が期待されている |
第3相試験 (国際治験) |
抗ウイルス薬 | MK4482 | メルク(米) リッジバック・バイオセラピューティクス(米) |
対象:軽症 SARSのウイルス量を減少させ、ウイルス伝播を抑制することが動物実験で示唆された。経口薬のため簡便に投与できることで新型コロナウイルスの市中感染を抑制できる可能性があるとされている |
第2/3相試験(国際治験) |
高免疫グロブリン製剤 | TAK-888 | 武田薬品工業(日本) CSLベーリング(米) |
対象:主に重症 新型コロナ感染症から回復した患者の血漿の中から抗体を分離・精製し濃縮した製剤(点滴薬) |
第3相試験 (国際治験) |
特に注目される薬として、イーライリリー社とアブセレラ社が共同開発した抗体医薬バムラニビマブがあります。新型コロナウイルスは表面にあるスパイクタンパク質(鍵)が、ヒトの細胞表面にあるACE-2受容体(鍵穴)と結合することで細胞内に侵入し、感染しますが、バムラニビマブはウイルスのスパイクタンパク質に直接作用し、ACE-2と結合するのを阻止します。
同治療薬は既存薬からの転用ではなく新型コロナの治療薬として新たに開発、実用化されたものです。そのほかにも各国で治療薬開発の研究が進んでおり、今後の動向に関心が集まっています。
1974年 明治薬科大学薬学部卒業
1974年 日本赤十字社医療センター 薬剤部 入職
2013年 日本赤十字社医療センター 薬剤部 部長
2014年 慶應義塾大学薬学部大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)
2016年 社会福祉法人済生会 特別参与(薬務)、共同治験事務局長
認定:小児薬物療法認定薬剤師、妊婦・授乳婦専門薬剤師、糖尿病療養指導士
専門分野:妊娠期・授乳期薬物療法、女性のライフステージと薬物療法
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