社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2021.02.19

コロナ禍だからこそ治療しよう ⑤がん


新型コロナウイルス感染症が収まらない中、本来治療が必要な患者さんが病院の受診を控える傾向がみられます。本シリーズでは、重症化リスクが高いとされる病気を取り上げ、日常生活や治療の際の注意点などについて専門医が解説します。第5回は、福井県済生会病院広報誌「かけはし」の内容より、がん患者さんが新型コロナ感染拡大下で何に注意し、どのように行動したらよいかをまとめました。

がん患者さんは新型コロナに感染・重症化しやすい?

がん患者さんは、がんそのものによる影響に加え、化学療法を行なっている場合は免疫力が低下している可能性があります。また、一般の人に比べて新型コロナにやや感染しやすく、やや重症化しやすいという報告もあります。
もし、などの症状がある場合は自己判断はせず、必ず主治医に相談しましょう。その際に、症状の詳細を伝えることで、がんの病状や治療内容を勘案した指示がもらえます。

以下の項目が当てはまる場合は通院や入院の際に注意が必要なため、受診前に必ず医療機関に連絡しましょう。

・2週間以内に新型コロナウイルス感染症患者やその疑いがある人と接した
高熱、呼吸器症状(咽頭痛呼吸苦)、強い倦怠感がある
・これまでのがん治療の際に出た症状とは異なる症状が出ている
・そのほか心配な症状がある

治療の延期・継続の判断についても、がんの種類や体の状態、治療の目的や状況によるため主治医とよく相談することが大切です。

新型コロナ感染拡大下での治療は大丈夫?

●がん治療薬による治療
がん治療薬は広く抗がん剤と呼ばれますが、細かくは「抗がん剤」と「がん免疫療法薬剤」の二つに分けられます。「抗がん剤」には、がん以外の正常な細胞も大きく影響を受ける「細胞障害性薬剤」と、がん細胞に特有の分子のみ攻撃し比較的副作用が少ない「分子標的治療薬」があります(図)。

がん治療薬ごとの免疫力・肺炎の副作用

抗がん剤 がん免疫療法薬剤
細胞障害性薬剤 分子標的治療薬
免疫力 低下 維持
※一部例外あり
維持
肺炎の副作用

このように、すべての薬剤が免疫力の低下を引き起こすわけではありません。しかし、どの治療薬も副作用として肺炎を起こす可能性があり、新型コロナとの区別が困難になる場合があります。
新型コロナ感染拡大下では、がんの大きさや進行スピードに加え、がん治療薬の種類によって治療の是非を判断します。ただしがん患者さんが新型コロナに感染した場合、原則として治療は延期されます。
※同居家族の感染などにより患者さんが濃厚接触者となった場合も、がんが大きい・進行が速い場合を除いて延期となります。

ウイルスの陰性が完全に確認されるまでは、通常通りのがん治療は行なえないということです。患者さん本人だけでなく、家族全員が協力して感染予防対策を行なうことがとても大切です。

●放射線による治療
一般的な放射線治療で免疫力が下がることはありませんが、抗がん剤を併用した化学放射線療法では免疫力の低下がみられる場合があります。
また、胸部への放射線照射には注意が必要です。数カ月後に放射線肺炎が起こることがあり、これに新型コロナによる肺炎が重なると重症化のリスクが高くなる可能性は否定できません。
「どのような治療を受けているか」「免疫力はどの程度低下しているか」など、自身のリスクについて主治医に確認し、把握しておくことが重要です。

通院での緩和ケアは継続できる?

がんによるつらい症状を和らげる緩和ケアは、QOL(quality of life=生活の質)の向上につながりとても大切です。通院での緩和ケアの継続は可能ですが、外出や医療機関での接触が気になり不安な人は、主治医に相談してみてください。病状や新型コロナの流行状況によっては、受診間隔の延長や電話での診療ができる場合もあります。
在宅緩和療養で気をつけたいのは家族間の感染です。家族内で新型コロナを発症してしまうと、患者さん本人だけでなく、往診や訪問看護、在宅ケアサービスなどを介して、他の家族にも感染が拡大する可能性があります。
そうならないためには、一人ひとりが標準的な感染予防対策を行ない、家庭へ新型コロナを持ち込まないことが第一です。そのうえで「自分が感染者のつもり」で周りの人に感染させない配慮をしながら生活することが望まれます。

不安な気持ちを一人で抱え込まないで

不安とは「対象のない恐れの感情」で、得体の知れない脅威に対する心と体の反応です。しかし、私たちは不安な感情があるおかげで、安全で適切な行動をとることもできます。まずは、不安材料=がんと新型コロナについての正しい知識を得ることが大切です。厚生労働省日本癌学会国立がん研究センターがん情報サービスなどが提供する信頼性の高い情報に触れるようにしましょう。
また、テレビやインターネットなどを見すぎるのはかえってストレスの原因になります。閲覧は1日1〜2時間程度にとどめ、新型コロナのことを考えない時間を作ることをお勧めします。
不安な気持ちは、誰かに聞いてもらうことで多少和らぐこともあります。一人で抱え込まず、家族や友人などに話してみましょう。実際に会うのは難しくても、テレビ電話など表情が伝わるツールを活用する方法があります。

新型コロナを正しく恐れ、適切な対応を

新型コロナウイルスにはまだまだ不明な点が多く、がん患者さんとその家族の不安は並大抵のものではないでしょう。まずは、信頼できる正しい情報を得ることが不安の解消への一歩です。
医療機関では感染拡大防止対策を徹底し、患者さんのがんの進行状況や治療効果、地域の流行状況などから総合的に判断して治療を進めていきます。何か心配な点があるときは自己判断せずに、必ずかかりつけ医や主治医へ相談しましょう。
全国のがん診療連携拠点病院や小児がん拠点病院、地域がん診療病院には「がん相談支援センター」が設置され、電話や対面でがん専門相談員が、がん患者さん・家族の相談を聞いています。不安に思ったら、気軽に利用をしてみてください。

※イラストや写真の表現について
実際の医療現場ではマスク着用の上、適切な感染予防対策を行なっています。

PROFILE

宗本義則
宗本 義則
福井県済生会病院
副院長・集学的がん診療センター長

白﨑浩樹
白﨑 浩樹
福井県済生会病院
呼吸器内科部長

中山俊
中山 俊
福井県済生会病院
腫瘍内科部長

菊池雄三
菊池 雄三
福井県済生会病院
放射線治療センター長

土田敬
土田 敬
福井県済生会病院
緩和ケア科主任部長

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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