社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2020.11.13

コロナ禍だからこそ治療しよう ③高血圧

新型コロナウイルスの感染拡大の傾向がみられる中、重症化リスクが高いとされる患者さんが感染への不安から病院の受診を控える動きが続いているようです。しかしこんな状況だからこそ、治療をしっかりと継続することが何より大切です。今回は高血圧の患者さんが日常生活や治療の上で注意することなどについて、呉病院院長の松浦秀夫先生に解説してもらいました。

高血圧は新型コロナの重症化に関係あるの?

新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクが高い人の特徴として、日本高血圧学会では以下の項目を挙げています。

・65歳以上の高齢者
・介護が必要な人
・肺の病気のある人、たばこを吸う人
・糖尿病のある人、高度の肥満の人
・重い心臓病のある人(心不全など)
・腎不全で透析をしている人

(米国疾病管理予防センター(CDC)による)

これらの項目の中に高血圧は含まれていませんが、65歳以上の高齢者には高血圧の合併や、肥満、糖尿病、慢性腎臓病を合併している場合が多いと思われます。また、高血圧が原因で心不全を生じている場合もあります。そうすると新型コロナの重症化に高血圧が関連しているのではないかと考えられます。しかし、高血圧それ自体により、重症化しやすいということはないとされています。

ただし、高血圧の患者さんでは、新型コロナの重症化との関連が認められている心臓や腎臓の病気を合併する可能性があります。そのため、しっかりと血圧を下げるための取り組みを行なうことが大切なのです。

高血圧患者さんの日常生活での注意

高血圧の予防や治療においては、普段から生活習慣に気を付けることが必要です。生活習慣の乱れは高血圧だけでなく、肥満や糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症(痛風)などを引き起こす原因となります。
日常生活で注意したいポイントを以下にまとめました。複合的に生活習慣を修正するとより効果的です。

①減塩
1日6g未満を目標に、食事の塩分を控えめにしましょう。
②食事パターン
野菜や果物を積極的に食べ、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を制限しましょう。
③適正体重の維持
肥満(BMI<25)を予防することが大事です。
※BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
④運動
毎日30分(または週180分)以上、軽めの有酸素運動を行ないましょう。
⑤節酒
エタノール換算で男性20~30mL(ビールでは中瓶1本、日本酒では1合程度)、女性10~20mL以下を目安にしてください。
⑥禁煙
⑦防寒や情動ストレスの管理

(日本高血圧学会による)

これに加えて、新型コロナの感染予防対策も欠かせません。「3密」(密集、密閉、密接)を避けること、マスクを着用すること、しっかり手を洗うこと・消毒することが基本です。
会話は大声を出さないようにして楽しみ、適度に外を歩いてください。お酒を飲みながらの会食は、ついつい声が大きくなりますので控えてください。新型コロナ感染症を予防しながら、生活習慣病に打ち勝っていきましょう。

降圧薬は飲んでも大丈夫!

「生活習慣の修正」と「降圧薬の服用」の二つが高血圧治療の両輪となります。ところが、降圧薬のうちRAS系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬)を服用していると新型コロナウイルスに感染しやすくなるとの情報が一時流れ、患者さんの間で不安が広がりました。このウイルスが細胞に感染するときに結合する場所(ACE-2受容体)がこれらの薬を飲んでいると増加するため、感染が増加してしまうのではないかと心配されたのです。しかし、これまで報告された臨床研究の結果、RAS系阻害薬は新型コロナウイルスの感染や重症化に関係しないことが示されています。

RAS系阻害薬は血圧を下げるだけでなく、心臓病や糖尿病、腎臓病などを合併している高血圧患者さんに臓器障害の保護の目的で処方されています。したがって、現在RAS系阻害薬を処方されている患者さんは、降圧薬の服用を止めずに治療を続けることが重要です。なお、カルシウム拮抗薬や利尿薬などRAS系阻害薬以外の降圧薬も、新型コロナウイルスの感染や重症化には影響ありません。
自己判断で服薬を止めて血圧が高くなった結果、臓器障害が生じたり悪化したりする方が問題となります。かかりつけ医から処方されている薬は、定められた量・回数を守って服用し続けてください。

 

日本高血圧学会では、ホームページに特設サイト「新型コロナウイルス感染症関連情報」を設け、動画の配信など一般に向けて分かりやすく情報提供しています。こちらもぜひ参考にしてください。
新型コロナウイルス感染症対策を徹底することはもちろん、高血圧の予防・治療を継続することが大切です。しっかりと両立させていきましょう。

※イラストの表現について
実際の医療現場ではマスク着用の上、適切な感染予防対策を行なっています。

松浦 秀夫
PROFILE
松浦 秀夫 済生会呉病院 院長

1973年神戸大学医学部卒業、1978年同大学大学院修了後(医学博士)、兵庫県立病院がんセンター勤務。1980年広島大学医学部内科学第一助手、1983年同大学医学部附属病院第一内科講師を経て、1985年Mayo Clinic留学。2002年広島県済生会呉病院院長就任。2014年より広島県済生会支部常務理事。
《研究分野》
本態性高血圧の成因、維持機構に関する研究(陽イオン代謝を中心として)
高血圧の治療に関する研究(生活習慣の修正を中心として)

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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