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新型コロナウイルス感染症の検査で、新たに陽性と診断された人の数です。症状の現れている人だけでなく、無症状の人も含まれます。新型コロナは指定感染症のため、診断後速やかに保健所へ届け出ることが法律で定められており、この数の合計が新規陽性者数として発表されています。届け出があった日に計上されるため、患者さんが感染した日、発症した日とは異なります。
陽性者と診断するためには、PCRをはじめとした核酸増幅法による検査、あるいは抗原検査のいずれかが必須で、たとえ感染が強く疑われる場合でも、検査・診断を受けなければ陽性者数には含まれません。そのため、実際の感染者数は発表されている陽性者数よりも多いと考えられます。
検査陽性率は、1日当たりの検査数に対する新規陽性者数の割合を示したものです。以下の式で示されます。
クラスター(感染者集団)発生の有無や、検査を行なった曜日、検査対象の選び方によって結果に大きなばらつきが出るため、一定期間の平均値をもとに算出する場合があります(東京都では7日間移動平均値)。
なお、一度陽性の診断を受けた患者に対して、ウイルスがいなくなったかどうかを調べるために行なう検査(陰性確認のための検査)は、分母から除外されます。
さて、東京都の実際のデータを例に、検査陽性率をどのように解釈すべきか考えてみましょう。こちらは、第1波のピーク時である4月11日と、9月10日の新規陽性者数、検査数、検査陽性率を比較した表です。
指 標 | 4月11日 | 9月10日 |
1日当たりの新規陽性者数 | 198 | 276 |
1日当たりの検査数 (PCR、抗原検査の陽性・陰性者の総数) |
503 | 5080 |
新規陽性者数(7日間移動平均) | 149.9 | 157.9 |
検査数(7日間移動平均) | 323.4 | 4651.1 |
検査陽性率 | 31.7% | 3.3% |
※東京都の公表データより(2020年10月1日)
第1波のピークである4月11日頃は、感染の拡大に検査が追い付かない状況にあり、症状があるにもかかわらず検査を受けられない患者さんが多くいました。仮に検査数を9月10日の数値にそろえて単純計算した場合、31.7%という検査陽性率から実際の新規陽性者数は1,453人程度だったと考えられます。このように、陽性者の全体像が正確に把握できず、見逃している新規陽性者が多くいたと推測できるのです。
新規陽性者数だけに着目すれば、4月11日よりも9月10日の方が78人も多く、大きく増加しているようにも見えます。しかし、検査数も大幅に増えている点に注意が必要です。これらの変化の比較に役立つのが検査陽性率です。4月11日と9月10日の検査陽性率を見ると、31.7%から3.3%まで大幅に下がっていることが確認できます。
9月10日のデータからは、軽症者から重症者まで、より正確に感染者数を把握できるようになったと考えられます。新規陽性者数だけでなく、検査陽性率を併せて確認することで、全体像を把握できるようになります。
もちろん、どのような集団を検査対象に選ぶかによって、検査陽性率は異なってきます。結果を解釈するうえではその点も考慮しなければなりません。ただし、多くの感染症の専門家は、実際の医療現場での新型コロナの流行状況と、この検査陽性率が相関していると体感しているようです。
感染経路不明者数とは、誰から感染したかが分からない(リンクが追えない)感染者の数です。感染経路は、保健所の担当者などが感染者の行動を詳しく調査して見つけ出していきます。ただし、本人に感染経路の心当たりがあっても、正直に報告しない感染者もいるようです。行政機関が感染経路を把握できない感染者については、感染経路不明者数として計上されます。
感染経路不明者が、もしそれぞれ別の経路から感染していた場合は、その背後にさらに多くの感染者がいることが考えられます。そうなると、感染拡大の可能性を否定できなくなります。
日本での新型コロナ対策は、クラスターを特定して、一つひとつ丹念に対応していくことで効果を上げてきました。しかし、感染経路不明者が増え続ければ、この「クラスターつぶし」では対応しきれなくなり、外出制限や移動制限、さらにはロックダウンといった強い対策が必要となっていきます。
今回は、新規陽性者数、検査陽性率、感染経路不明者数について解説しました。これらの指標は感染状況の全体像を把握するのに有効ですが、感染症の流行には必ず大小の波があります。一つひとつの指標の一時的な数値の上昇・下降に一喜一憂するのではなく、数値を総合的にかつ週単位、月単位で確認したうえで、感染状況を正しく見定め、その後の対策を立てることが大切です。
そのような目で見て、最近の東京都の新規陽性者数と感染経路不明者数は、高い水準が続き、減少傾向とはいえません。経済活動の活発化に伴い、感染の再拡大が懸念されます。東京都での感染拡大は、やがて地方にも波及していきます。
これからインフルエンザの季節を迎えるにあたって、新型コロナの感染拡大によるインフルエンザとの同時流行には最大限に警戒する必要があります。今改めて、手洗いやマスク着用、「3密」を避けるなどの感染対策の徹底が望まれます。
1984年鹿児島大学医学部卒業、1989年同大学院医学研究科生理系修了(医学博士)。1991年同第2内科入局。2007年鹿児島市立病院消化器科科長、2009年済生会鹿児島病院内科部長を経て、2015年に同院長に就任。専門は渡航医学、感染症一般、消化器内科。日本渡航医学会認定医療職・評議員、日本感染症学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医。
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