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2015.12.14

A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)咽頭炎

a group hemolytic streptococcus pharyngitis

解説:岡部 太郎 (済生会宇都宮病院 総合内科)

A群溶血性レンサ球菌とは

A群溶血性レンサ球菌とは、細菌の一種です。大きさは2マイクロメートル(0.002mm)以下、30~40個並べてようやく髪の毛の太さになる程度の目に見えない小さな生き物です。連なった鎖のように増える球状の菌体のため「連鎖(レンサ)球菌」と呼ばれます。普段から人の鼻やのどの粘膜、皮膚にいますが、それがどういった原理・きっかけで病気をもたらすのかはよくわかっていません。
A群溶血性レンサ球菌は、咽頭炎(のどの風邪)を引き起こすことで有名ですが、皮膚やその下の脂肪組織、筋肉などに感染し、丹毒(たんどく)、蜂窩織炎(ほうかしきえん)、壊死性筋膜炎といった病気を引き起こすこともあります。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とはこんな病気

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、咽頭(のど)に炎症が起こるため、のどが痛くなります。症状がある人からの分泌物が、鼻やのどの粘膜へ接触することで感染し(飛沫感染、接触感染)、感染してから1~4日(潜伏期間)で発症します。子どもの咽頭炎の20~30%、大人の咽頭炎の5~15%程度を占め、小児科だけの報告でも、日本国内で毎年25万人の感染の報告があります。1年を通して流行がみられますが、春先から初夏が比較的多い時期です。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の人ののど

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎と似たような症状で発症する別の病気には、非常にまれですが、命の危険を伴うものもあります。そのような病気の特徴としては、のどの痛みが強すぎてつばも飲み込めない、口が開けられない、首が大きく腫れ上がる、のどでヒューヒューと音が出る、声がかすれるなどの特徴があります。これらの症状がある場合は、早期に医療機関を受診することをおすすめします。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の治療法

ほとんどの場合、咽頭炎はウイルスによるもので、抗生物質では効果がありません。ただ、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は細菌による咽頭炎であり、抗生物質で治療することでつらい期間を短くでき、職場や学校への復帰が早まり、まれな合併症をある程度予防できるといわれています。しかし、特に治療をせずとも、多くの場合は1~2週間で自然によくなるので、絶対に抗生物質が必要なわけではありません。抗生物質を含めたあらゆる薬には(まれですが)、重い副作用の可能性があることも認識しておきましょう。
使用される抗生物質はペニシリン系が第一選択、二番手には第1世代セフェム(セファロスポリン)系、ペニシリンアレルギーの人にはクリンダマイシンなどが使われます。マクロライド系は、日本ではその乱用によりA群溶血性レンサ球菌のマクロライドへの耐性化が進んでおり、使用には注意が必要でしょう。第3世代セフェム系やキノロン系の抗生物質は、A群溶血性レンサ球菌以外の非常に多くの菌に効果がある反面、前述の抗生物質と比較し体内に耐性菌を生じさせるリスクが高まるため、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の治療には推奨されていません。
抗生物質を使用すると、おおよそ48時間程度で症状は改善していきます。ただ、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎では、症状が改善しても、のどに残っている菌を排除するために決められた日数だけ抗菌薬を継続するべきとされています。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎に限らず、抗生物質での治療を受ける場合は用法用量通りに飲み、調子が完全によくなったと思っても処方された日数だけ飲みきることが大切です。

早期発見のポイント

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎と他の咽頭炎との違いは、高熱が出やすいことと、のどの痛みがより強いことです。
診断に使われる有名なツールとして、センタースコア(Modified Centor Score)があります。のどの痛みにいくつかの症状や年齢を組み合わせることで、特別な検査を行わずにA群溶血性レンサ球菌咽頭炎をある程度推測できます。
センタースコア(Modified Centor Score)

のどに痛みがある人で、

1 体温が38.0℃より高い +1点
2 咳がない +1点
3 首の前のリンパ節が腫れており、押すと痛む +1点
4 扁桃が腫れている、または滲出液がある +1点
5 15歳未満 +1点
6 45歳以上 -1点

※合計4点以上であればA群溶血性レンサ球菌咽頭炎である確率は約50%
※合計1点以下であればA群溶血性レンサ球菌咽頭炎である確率は10%以下

また、のどの粘膜から採取したサンプルを調べることでA群溶血性レンサ球菌咽頭炎を診断できる検査(迅速診断キット)があり、10~30分程度で結果が出ます。ただ、多くの他の迅速診断キットと同様、検査結果が陰性だからといってA群溶血性レンサ球菌咽頭炎ではないとは言い切れません。実際にはA群溶血性レンサ球菌咽頭炎であっても、7人に1人程度の割合で迅速診断キットは陰性と判定してしまうことがあるといわれています。全く症状を示さずに、のどにA群溶血性レンサ球菌が慢性的に定着している人もいます(無症候性保菌者。流行期には学童の20%が無症候性保菌者になるというデータもありますが、そのような人から感染が広まるリスクは低いといわれています)。それだけが原因ではありませんが、20人に1人程度、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎でなくても検査結果が陽性と出てしまうこともあります。検査だけに頼らず、医療機関を受診して、症状の程度や流行状況も考慮した判断をしてもらうことが大切です。

予防の基礎知識

「医学解説」でも述べたように、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、症状がある人からの分泌物が鼻やのどの粘膜へ接触することで感染し(飛沫感染、接触感染)、感染してから1~4日(潜伏期間)で発症します。よって、日常的によく手を洗ったりアルコールで消毒したりすることが大切です。特に、咳やくしゃみをした後や食事の準備・食前には、手洗い・手の消毒を心がけましょう。また、感染者と同じコップで飲み物を飲んだり、同じ皿から食べ物を食べたりすることで感染が広まる可能性があるので、自分や家族に症状があるときは注意が必要です。

抗生物質(抗菌薬)での治療を24時間以上受けた人や無症候性保菌者(全く症状を示さずに、のどにA群溶血性レンサ球菌が慢性的に定着している人)から感染することはまれとされています。もしA群溶血性レンサ球菌咽頭炎と診断されたら、症状がよくなるまで、または抗生物質を飲み始めてから24時間以上が経過するまでは、職場や学校などには行かない方がいいかもしれません。

参考
[1]国立感染症研究所HP “A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは”
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus
[2]アメリカ疾病予防管理センター(CDC)HP: “Group A Streptococcal (GAS) Disease” http://www.cdc.gov/groupastrep/
[3]Modified Centor Score: Empirical validation of guidelines for the management of pharyngitis in children and adults. JAMA. 2004 Apr 7;291(13):1587-95. PMID 15069046
[4]Rapid diagnostic tests for group A streptococcal pharyngitis: a meta-analysis. Pediatrics. 2014 Oct;134(4):771-81. PMID: 25201792
[5]Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012 Nov 15;55(10):1279-82. PMID: 23091044

岡部 太郎

解説:岡部 太郎
済生会宇都宮病院
総合内科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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