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ホットケーキ(パンケーキ)やお好み焼き、たこ焼きなどを食べた後に全身性アレルギー症状を引き起こす患者さんがいます。そうした患者さんには小麦などに対する食物アレルギーではなく、その食べ物の中に混入しているダニ由来のアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)のタンパク質によって症状が出ているケースがあります。この状態をダニアナフィラキシー、別名「パンケーキ症候群」と呼びます。
アナフィラキシーについての詳細はこちら 「アナフィラキシーにご用心」
通常、少量のダニが体内に入ったからといってアレルギー症状が現れることはありません。一度に大量のダニを経口摂取することでパンケーキ症候群が起こります。
小麦粉、お好み焼き粉、たこ焼き粉、ホットケーキミックスなどの袋を開封して常温で数カ月放置していると、袋の中でダニが大量に繁殖し、それを経口摂取した場合にアレルギー症状が引き起こされます。加熱調理してダニが死んでいてもアレルゲンは身体に作用するため、加熱の有無は関係ありません。
もともと製造工程中に袋に混入していたダニが増えるケースや、一度封を開けた袋の中に家の中のダニが混入して増殖するケースがあります。なお、外食産業では小麦粉やお好み焼き粉などはすぐに消費され長期間放置されることが少ないため、パンケーキ症候群を起こすことはほとんどありません。
パンケーキ症候群の発症が季節ごとにどう変わるかを調べた研究は少ないですが、日本で主にアレルゲンとなるチリダニ科のダニは、温暖湿潤な気候の地域に多くいます。中でも気温25℃、相対湿度60%以上でよく繁殖するといわれており、基本的には夏場に増えると思われます。そうした時期はダニが繁殖しやすいため、一層の注意が必要です。
パンケーキ症候群の症状は、一般的なアナフィラキシーと同じです。蕁麻疹や浮腫、腹痛や下痢、嘔吐、喘鳴(ぜんめい=呼吸時にぜーぜーと音がすること)、呼吸困難、鼻炎、意識障害などがみられます。日本の36例をまとめた報告では、蕁麻疹・浮腫が最も多くみられ、次に呼吸困難、喘鳴と続きます。ほとんどが経口摂取後30分以内に発症しています。
パンケーキ症候群特有の症状がないため、診断では小麦アレルギーや他の食品のアレルギーがないかなど病歴を調べたり、粉が保存されていた状況を確認したりすることが大事です。
原因となった粉が残っていれば、それを顕微鏡で検査してダニの確認やダニアレルゲン量を測定するほか、プリックテスト(アレルゲンの疑いのある物質を少しだけ針で皮膚に入れて反応を調べる検査法)をすることもあります。
パンケーキ症候群になった場合、急性期(発症後すぐ)はアナフィラキシーへの対応が必要となります。医療機関を受診する前にできることは次のような内容です。
医療機関を受診して落ち着いた後は、再発予防が重要になります。アナフィラキシーを起こした場合は、今後に備えてアドレナリン自己注射薬の「エピペン」を携帯することも予防の一つです。
なお、ダニアレルギーに対してはアレルゲン免疫療法を行なうことも可能です。アレルゲン免疫療法は皮下と舌下の2通りあり、最近ではより安全・簡便に実施でき、通院負担も少ない舌下免疫療法が好まれています。ただし、その際は「毎日服用する必要がある」「3年以上継続することが望ましい」「保険適応となるのはアレルギー性鼻炎合併例である」という点を理解した上で治療するようにしましょう。
<特に注意が必要な人は?>
パンケーキ症候群の発症はダニアレルギーがあることが前提となります。ダニアレルギーは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の発症や進行に関係するため、パンケーキ症候群は気管支喘息や通年性のアレルギー性鼻炎を持っている人に起こることが多いといえます。該当する人は特に注意が必要です。
なお、病院で自分に何らかのアレルギーがあるかを調べることも可能です。血液検査をして1週間程度で結果が分かります。気になる人は、内科や皮膚科などで一度検査することをお勧めします。
パンケーキ症候群を予防するには、小麦粉、お好み焼き粉、たこ焼き粉、ホットケーキミックスなどを開封した後、一度で使い切るのが最も有効です。一度で使い切れなくても、開封後1カ月以内ではパンケーキ症候群を引き起こしたという報告はないので、それまでに使い切るようにするとよいでしょう。
開封して食べきれない場合は、冷蔵庫で保存するとダニは繁殖しません。すぐに食べないのであれば、冷蔵庫にしまっておきましょう。
開けたら1カ月以内で使い切る
食べ切れないときは冷蔵庫で保存
家の中のダニのアレルゲンそのものを減らすための方法としては、以下の3項目で効果があったという報告があります。
1. 週に1回以上寝具に掃除機をかける
2. 天日干しした後で寝具に掃除機をかける
3. 掃除機をかける前に床を水拭きする
上記のような対策もしながら、パンケーキ症候群にならないよう気をつけましょう。
参考文献
Takahashi K et al. Allergol Int 2014;63:51-56
Tsurikisawa N et al. J Asthma 2016;53:843-853
解説:松本 健
野江病院
呼吸器内科副部長
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