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2024.04.24
妊娠糖尿病とは、妊娠中に発症した糖尿病とまではいえない程度の高血糖状態のことです。そのため、糖尿病と診断されていた女性が妊娠した場合の「糖尿病合併妊娠」や、妊娠中に診断された明らかな糖尿病は含まれません。
もともと、妊娠するとお母さんは赤ちゃんに栄養(糖分)を与えるために、血糖値を上昇させるホルモンを胎盤から分泌します。そのホルモンが、血糖値を下げるインスリンのはたらきを抑制するため、お母さんの血糖値は妊娠前に比べてやや高くなります。したがって、妊娠中は妊娠前より若干血糖値が上がることは正常ですが、一定の基準を超えると妊娠糖尿病と診断されます。
妊娠糖尿病を発症しても、特に妊娠初期はほとんど自覚症状がありません。ただし、血糖値が高い状態が続くと、主に以下のような合併症が現れる場合があります。
●羊水過多症
羊水の量が増えることで、おなかの張りや圧迫感がある、苦しくて食事が摂れない、胎児が逆子や横向きになりやすいなどの症状が出ることがあります。さらに、早い時期に破水しやすくなり、早産につながる可能性もあります。自覚症状が乏しくても、内診すると子宮口が開きかかっていたり、子宮頸管長(子宮の入り口の長さ)が短縮していたりします。
●巨大児
出生時体重が4,000g以上4,500g未満の赤ちゃんを指します。赤ちゃんが大きくなり過ぎることで難産になり、分娩のときに赤ちゃんの肩が引っかかる肩甲難産(けんこうなんざん)を引き起こすこともあります。また、分娩によって産道が傷つく恐れもあります。
●妊娠高血圧症候群
高血圧や尿タンパクの増加によって、お母さんや赤ちゃんにストレスがかかります。そうすると、赤ちゃんの成長を妨げたり、お母さんにも脳や肝臓、腎臓などの臓器障害が発症したりする場合があります。これらの合併症から帝王切開分娩となる割合が上昇するといわれています。
●新生児低血糖
胎盤を通じて赤ちゃんに供給される血糖が多いと、赤ちゃんの膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンもやや多くなりますが、出生後にお母さんからの血糖の供給がなくなると、赤ちゃんが低血糖に陥ることがあります。妊娠中の血糖値をコントロールすることで、これらの合併症のリスクが減少することが報告されています。
日本産科婦人科学会では、妊娠糖尿病の可能性のある人の見逃しを防ぐため、妊娠初期~中期のすべての妊婦さんを対象に、採血で血糖値を測定するスクリーニング検査を推奨しています。スクリーニング検査には以下のような種類があります。
スクリーニング検査 | 方法 | スクリーニング陽性値 |
随時血糖法 | 食事時間に関係なく血糖値を測定 | 95〜100mg/dL以上 |
空腹時血糖法 |
10時間以上食事を摂らない状態で血糖値を測定 |
100mg/dL以上 |
50gGCT(グルコースチャレンジテスト)法 |
食事時間に関係なくブドウ糖50gを飲用し、1時間後に血糖値を測定 |
140mg/dL以上 |
妊娠初期には随時血糖法、妊娠中期には随時血糖法、または50gGCT法を行なうことが一般的です。スクリーニングで陽性だった場合には、診断のために75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を行ないます。75gOGTTでは空腹時に血糖値を測定し、その後ブドウ糖75gを飲用して1時間後と2時間後に血糖値を測定します。
妊娠糖尿病の診断基準
・空腹時血糖値 92mg/dL以上
・1時間値 180mg/dL以上
・2時間値 153mg/dL以上
3項目のうち1つ以上満たすものを妊娠糖尿病と診断します。妊婦の約10人に1人が妊娠糖尿病と診断されています。
まず「食事療法」を行ない、血糖値コントロールがうまくいかない場合には「インスリン療法(インスリンの注射)」を行ないます。
妊娠中は食後に高血糖になりやすい一方で、空腹時にはお母さんの血糖が赤ちゃんのエネルギー源として優先的に使われ、お母さんは脂肪をエネルギー源として利用するため、ケトン体という脂肪の代謝の過程で発生する物質の産生が増加します。過剰なケトン体は、血液が酸性に傾き(糖尿病ケトアシドーシス)、お母さんの意識障害や赤ちゃんの成長制限など両方に悪影響を及ぼすため、過剰な食事制限は好ましくありません。
そのため、食事療法ではお母さんと赤ちゃんが健全に妊娠を維持するために必要なエネルギーを取る必要があります。具体的な食事療法の方法については、お母さんの体型や妊娠時期によって個々に変わるので、医師や栄養士による栄養指導を受けてください。目標血糖値は下記のように設定されることが多いです。
目標血糖値
・早朝空腹時血糖:95mg/dL以下
・食前血糖値:100mg/dL以下
・食後2時間血糖値:120mg/dL以下
以下のような妊娠糖尿病になりやすい体質に当てはまる人は注意が必要です。医師から追加で妊娠糖尿病のスクリーニング検査や75gブドウ糖負荷試験を勧められることがあります。
1)血のつながった身内に糖尿病の人がいる
2)肥満体型
3)35歳以上の高年齢
4)以前に大きな赤ちゃんを産んだことがある
5)原因不明の死産・流産・早産などを経験したことがある
6)尿糖陽性(尿中にブドウ糖などの糖が出ている状態)が続く
7)妊娠高血圧症候群と診断されている、もしくは診断されたことがある
8)羊水が多いといわれている
妊娠糖尿病の人の多くは、産後に一度血糖が正常化します。産後6〜12週間で75g経口ブドウ糖負荷試験を行ない、血糖が正常化していることを確認しましょう。また、そのときの血糖が正常だった場合でも、年に1回の血糖検査と日常の食事療法や運動療法は続けるようにしてください。なぜなら、「妊娠糖尿病だった人は、そうではなかった人に比べ、分娩後に糖尿病になるリスクが約7倍高い」「一旦血糖が正常化しても、妊娠糖尿病だった人の約半数が20〜30年後に糖尿病になった」という報告があるためです。
糖尿病の発症リスクは「肥満」の人が高いため、肥満体型の人は分娩後に痩せることで、将来の糖尿病の発症率を下げることが期待できます。非肥満体型の人は、分娩後の体重維持を心がけることで発症率を下げることが見込めます。
妊娠糖尿病だった人は母乳を与えることで糖尿病への進行をおさえることができます。また、妊娠糖尿病のお母さんから生まれた子どもは、母乳を飲んだ子の方が将来の肥満や糖尿病の発生が少ないことが知られています。
解説:小倉 剛
龍ケ崎済生会病院
産婦人科部長
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